磯部さんご夫妻の自己紹介
磯部 冬人(いそべ ふゆと)さん(左)
出身は長岡市です。小さい頃から人に喜んでもらうことが好きで、何かを作って評価してもらいたいこともあり、自然と料理の道を目指すようになりました。調理師の専門学校卒業後は、ホテルに就職し、20代で渡仏。東京のフレンチレストラン、長野県白馬村のリゾートホテル、佐渡市のホテルのフレンチレストランで料理長を務め、「Restaurant ISO」をオープンしました。
磯部 朋子(いそべ ともこ)さん(右)
新潟市出身です。結婚するまでは、バスの運転士をしていました。主人がお店をオープンしてから手伝うようになり、お客様から教わった料理やワインに関する知識にたくさん助けていただく毎日です。2019年にワインソムリエ、2023年「チーズプロフェッショナル」資格認定試験に合格したこともあり、主人が手がける料理と共に、ワイン・チーズをお客様に提案していきたいです。
PROLOGUE
いつもとは違う、特別な一日。
もし、そんな一日があるとしたら、皆さんはどんなふうに過ごしたいですか?
ごっつぉライターの私であれば
温泉に浸かって、美しい景色を眺めながら、ひたすらぼーっとするか……
あるいは、気の置けない仲間と、昼からお酒を飲むか……
子どもたちと一緒に、某・夢の国に弾丸旅行に出かけるか……
大事なことを忘れていました。
「趣味=食べること」である私にとっては、やっぱりこれも大事!
普段はなかなか行かないすてきなお店で、とびっきりおいしい料理をいただく。
これ、最低でも年に1回は叶えたい願望です。欲を言えば、年に2回。
心地よい空間で手の込んだ料理をいただく時間は、日々、忙しい毎日を送る人たちにとって、心を整える大切なひとときになる。
私はそう考えています。
さて今回ご紹介するのは、そんな特別な一日にぜひ訪れたい、とっておきのお店。
新潟市中央区にあるフランス料理店「Restaurant ISO(レストラン イソ)」さんです。
お店があるのは、新潟駅から徒歩11分ほどの場所。
近くにはスーパーや総合福祉会館、オフィスビルなどが立ち並ぶ、県道1号線沿いです。
目印となるのは、白い看板に書かれた店名とフランスの国旗なのですが……
お店の外観は木の格子戸、屋根には瓦。
一見、和食などのお店か、一軒家と見間違えてしまいそうになりますが、こちらはれっきとした「フランス料理店」です。
「なぜ、特別な一日に、フランス料理のお店を?」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、実はこちらのお店、「新潟らしいフレンチ」をテーマにされているのです。
フランス料理といえば伝統的な手法やマナーを重んじた、格式高い料理というイメージがありますが、その中で「新潟らしさ」を追求されていること。
そういったわけで、「新潟」にこだわる、シェフの「特別」な思いに、ぜひふれてみたいと思いました。
それに、なぜ、和を感じる佇まいのお店なのか?お店の中はどんな雰囲気なの?
それも気になるところ。
前置きが長くなりましたが、早速お店にお邪魔してみたいと思います!
INTERVIEW
和の趣を活かしたフランス料理店へ
お店の中に入ると、ISOのオーナーシェフである磯部冬人さんと妻の朋子さんが出迎えてくれました。
冬人さんは、調理師学校在学中にフランス料理に感銘を受けたのを機に、フランス料理の道を歩み、30年近くになります。
「私は長岡市出身なんですが、外食をするといったら食堂やラーメンといったお店が多かった思い出があります。ですが、調理師学校に行くまでは、フランス料理というものに触れたことがなかったんです。
たまたまアルバイトで行ったレストランでフランス料理の美しさに衝撃を受け、その後も就職活動で訪ねたホテルで食べたウサギ肉のローストが驚くほどおいしくて。料理を学ぶなら絶対にフランス料理だと、その時に決意しました」。
冬人さんは調理師学校卒業後、東京「ホテルメトロポリタン エドモント」でフランス料理を経験。
さらに本場で本格的にフランス料理を学びたいとフランスに渡り、リヨンやカンヌ、ブルゴーニュなどのレストランで修業の日々を送りました。
帰国後は東京のレストランや長野県、佐渡市のホテル、レストランで料理長を務め、2016年1月21日にご自身の店である「Restaurant ISO」をオープンしました。
「いつか自分のお店を持ちたいというのは、常々考えていました。修業した先々で人と料理との出会いや影響があり、今ある自分の糧になっています。それらが、自分のお店を持つことに向けた原動力にもなりましたね」。
店内を見渡してみると、フランス料理店では珍しいL字型のカウンター。
その後ろには木々が彩り、石灯籠が置かれた中庭。
入って右手には、床の間に掛け軸が飾られたテーブル席。
全体的に「和」の趣が感じられますよね。
どこを切り取っても絵になる空間です。
なぜ、ここまで和のテイストにこだわるのでしょうか?
その理由についても冬人さんに尋ねてみました。
「この空間との出会いは運命的だったんです。佐渡のレストランを退職して、自分のお店を持とうと新潟市内で物件を探していた時に、偶然紹介していただいたんですが、ここはもともと、昭和12年に創業した「蕎麦処遠藤」さんという、街のお蕎麦屋さんでした。
私がフランス料理店として受け継ぐことを、家主さんがとても喜んでくださったんです」と磯部さんは振り返ります。
それまでは、いつか自分の店を持つのであれば、シンプルでありながら上品なイメージといったフランス料理店の内装を考えていたそうですが、この場所に出会ってその考えが一変。
「この空間を生かすのであれば、蕎麦屋さんだった頃にあったような、人と人との温かい交流が垣間見えるような空間ができるかもしれないと。
だから、フレンチでは珍しいカウンター席を設けて、お客様の目の前で仕上げのソースをかけるといった演出ができたり、お客様の料理の進み具合などを私たちが把握できたりなど、お客様と私たちの距離が近くなることで、フランス料理というハードルの高さを少しでも和らげることができるのではないかとも考えました。そんな思いもあって、この空間に仕上がったんです」(磯部さん)。
空間に華を添える家具や調度品、建具なども、磯部さんがこの空間に似合うものをと選び抜いたもの。
「フランス料理店だからといって肩肘張らず、居心地の良さや親しみやすさを感じてもらえたら」。
そんな磯部さんの思いが込められています。
新潟らしい個性を表現する、佐渡食材との出会い
さて、そろそろ「料理の話はまだか」とツッコミが入りそうなので、肝心の料理についても磯部さんにお聞きしましょう。
まず、「Restaurant ISO」は、完全予約制で1日3組限定。
料理はアラカルトといった一品料理はなく、アミューズ・パン・スープ・前菜2皿・魚料理・お口直し・肉料理・デザート・小菓子・食後の飲み物と、コース料理で9品(お一人様15,400円〜)が提供されるというスタイル。飲み物は別料金になります。
「内容はその日、その季節、仕入れたものによっても料理が変わってきますが、どんな時であっても、私が料理をする上で大切にしていることが二つあります。
まず一つは、私が初めてフランス料理を食べた時のように、これまで食べたことがないようなフランス料理の味・表現といった素晴らしさを伝えること。もう一つは、そこに新潟らしさをミックスすること。これがISOのテーマなんです。そこに情熱を注ぐために、1日のご来店人数も6~7人に限定させていただいています」(磯部さん)。
いろんな場面でも言われているように、新潟は食材の宝庫。
それを磯部さんが痛感したのが、佐渡の「Ryokan浦島 レストラン ラ・プラージュ」で料理長を務めていた時です。
「東京やフランス、長野県で経験を積んできましたが、実は新潟県内で料理をしたことがありませんでした。それもあって、県外で経験を積んできたとはいえ、一度は新潟でもフランス料理を経験しようと、縁があって佐渡の「Ryokan浦島 レストラン ラ・プラージュ」で働かせていただくことになったんです。
佐渡での経験は本当に驚きの連続でしたね。中でも、食材の質や豊富さには、圧倒されました。例えば、魚や魚介なんかは取れたてのものが手に入るわけですから、やはり鮮度も質も違います。佐渡の漁師さんや魚屋さんの下処理の仕方も上手なんでしょうね」。
磯部さんがこれまでの修業先では出会ったことがないようなものも多く、生産者や市場の方々においしい食べ方を教わることもありました。
佐渡での食材との出会いがなければ、ISOのテーマは確立しなかったのではないかと思うくらい、佐渡での時間は磯部さんにとっては得るものが多かったといいます。
「それまではどちらかというと、伝統的な技法を重んじたクラシックなフランス料理を手がけてきました。ですが、佐渡の食材にふれているうちに、これをフレンチの手法でさらにおいしく味わっていただくにはどうしたらいいか?と思うようになり、フランス料理で「新潟らしい個性を表現したい」と思うようになりました」(磯部さん)。
生産者や作り手の思いを、一皿に乗せて
磯部さんの料理の感性を磨くきっかけになったのは、佐渡の食材だけではありません。
新潟でお店を始めたことで、県内各地で作られる質の良い野菜や果物、農産物などを通じ、生産者との交流も生まれました。
以前、ごっつぉLIFEに登場いただいたエディブルフラワーの脇坂園芸さんをはじめ、燕市などの農家さんなど、身近な生産者の方々とのご縁を大切にしているのも、磯部さんならではのポリシーです。
「今の時代、良い物を手に入れようと思えば、日本中から集められるような状況ですよね。 でも、それをやってしまうと、やはり新潟らしさにつながらないと私は思っているんです。
新潟の生産者の皆さんって、本当に一生懸命なんですよ。 新しい食材を紹介や提案をしていただいたりして、私の新しい料理の表現につながることもしょっちゅうです。
だからこそ、その方々の食材にかける思いを、私がフランス料理を通じて表現したいと思うようになりました」。
だからといって、何でも新潟でそろえてしまう…というわけではありません!
フランス料理に欠かせない、トリュフ、キャビア、ホワイトアスパラガスといった輸入食材を、新潟の食材と組み合わせることで「フランス料理の魅力と新潟の食の豊かさを感じてもらいたい」と磯部さんは語ります。
そして、料理に欠かせないのが器。
料理を美しく引き立たせる器も、県内の作家や職人が手がけたものや、新潟市の老舗洋食器店「大橋洋食器」から仕入れたものを取り入れています。
「器と料理は、絵画と額縁のような関係だと私は思っています。地元のお客様には食材、料理、器、空間を通じてフランス料理を味わっていただき、県外や海外からいらっしゃったお客様には、新潟の食材を使うことによって新潟らしさを感じていただきたいですね。新潟の食材とフランス料理、両方の魅力を調和させる。それは新潟のこの場所でしかできないことだと思っています」。
EPILOGUE
新潟でフランス料理をより深く、より身近に
磯部さんがISOをオープンしてから、8年が経ちます。
毎年、必ず記念日に利用されるお客様や、大事な人をもてなしたいという方も、たくさん訪れています。
さらには、蕎麦屋さん時代を知るご近所さんも「年に数回だけのお楽しみ」として、ISOでいただくフランス料理を楽しみにしている人もいるといいます。
その中で、磯部さんのフランス料理の支えとなっているのが、妻・朋子さんの存在です。
朋子さんによるワインのペアリング、チーズの提案は「フランス料理の楽しみや味わいをより広く、深く楽しめるものにしてくれるんです」と磯部さんも絶大な信頼を寄せています。
「開店して数ヶ月後から、妻にも店を手伝ってもらうようになりました。最初はフランス料理のことは右も左も分からなかったのですが、自分で料理やワインについて独学で勉強を重ねていった努力家なんです。お客様から料理やワインについて教わることも多く、それが妻にとっての支えにもなったようです」(磯部さん)。
朋子さんは2019年にワインソムリエの資格を、さらには昨年、チーズの基礎的な知識と取り扱いに関する習熟度を測り、チーズの伝え手となるチーズプロフェッショナル協会認定の「チーズプロフェッショナル」の資格を取得。
フランス料理に欠かせない、ワインとチーズの楽しみ方を提案したいと励んでいます。
「フランスのチーズだけでなく、国内や新潟県内で作られるチーズも積極的に取り入れています。これからの時期ですと、桜の葉で包んで香りをつけたチーズ、初夏になるとさっぱりした味わいのヤギのチーズなども出てきます。
チーズも新潟の食材のように季節や産地、製法によっても味わいが異なるので奥が深いです。主人の料理と共にお楽しみいただきたいですね」と朋子さんは意気込みます。
新潟の食材の新たなおいしさを通じて、その地域や土地が持つ魅力を発信する磯部さんと、フランスのテロワール(風土)の象徴ともいえるワインとチーズでそれを支える朋子さん。
今までにない新潟の食の豊かさに触れ、いつもとは違う特別なひとときを楽しみに出かけてみてください。
NEXT EPISODES
最後に、新潟市の魅力的なお二人を、磯部さんからご紹介いただきました。
古き良き家具や雑貨の魅力を今に伝える「アンティーク快空間」
1人目は、新潟市秋葉区のアンティークショップ「アンティーク快空間」の代表 瀧澤亮さんです。
実はISOの店内には収納や照明など「アンティーク快空間」でそろえた調度品などが使用されています。
「居心地の良い空間で料理を味わっていただくために、やはりインテリアも重要です。瀧澤さんは、フランス料理の店だけれど和の空間、その良い意味でのギャップに合う家具や調度品をいつも提案してくださっています。この空間にはどんなものが似合うか?とプロ目線で考えてくださるので参考になります」と磯部さん。
「アンティーク快空間」は、日本の家具から西洋のアンティーク家具、ランプなどの照明、絵画、小物雑貨、現代インテリアなど、さまざまなジャンルの商品を販売しているそうです。
すてきな家具や雑貨、掘り出し物がたくさんありそうですね!
器の絵付けで豊かな食の時間を演出するポーセリンペインター長谷川怜子さん
2人目は、新潟市内で西洋式磁器上絵付け教室「Rara iuvant(ラーラ・ユウァント)」の主宰をはじめ、絵付け作家として活動する長谷川怜子さん。
ポーセリンペインターとは、プレートやカップ&ソーサーなどの白磁器に、花などの自然の素材や模様などを専用の絵具などを使って描く作家のこと。
ISOでは長谷川さんが創作・提案した器を実際に料理で使用しています。
「長谷川さんはお客様として当店にいらしてくださったのがご縁で、長谷川さんが創られた器を扱わせていただくことになりました。うちの店の料理の特徴をよくご存じでいらっしゃるので、どんな絵柄がどんな料理に合うかということを、いつも見極めてくださっています」(冬人さん)。
繊細なタッチと色合いで描かれる器…実際に見せていただきましたが、じっと見入ってしまうほど美しいのです。
ISOの空間になくてはならない、家具・調度品、そして器。
どのようにしてISOを支える存在になったのか、気になりますよね。
しっかりとお話を聞いてきますのでお楽しみに!