瀧澤さんご夫妻の自己紹介
瀧澤 亮(たきざわ まこと)さん(左)
新潟市中央区出身です。若い頃からアメリカなんかの古びた家具を好き好んで買っていた、生粋の“古物好き”です。会社員時代に20年間勤める傍らで服飾をネット販売し、自分で何かをやりたいと思い、古い物を主体とする商売を形にしたのが、「アンティーク快空間」の原点です。趣味はクラシックカーを整備し、ドライブすること。車は英国車がお気に入りですね!
瀧澤 薫(たきざわ かおり)さん(右)
新潟市秋葉区出身です。サラリーマンとして働いていた夫が「アンティーク快空間」を始めると言い出した時は、正直驚きました(笑)。お店を手伝うようになってからは、いろんな方々とお知り合いになれることに楽しさを日々実感しています。観葉植物やガーデニングが好きで、植物に元気をもらっています。
PROLOGUE
フランス料理のお店でありながら、和の空間。実際に訪れてみるとそんなギャップを一切感じさせなかったのが、前回ご紹介をしたRestaurant ISO(レストラン イソ)です。
木をふんだんに生かした空間や、季節の彩りを感じさせる中庭はもちろん、店内にさりげなく置かれた調度品もどれもすてきだったのですが、中でもインパクトがあったのが……こちら、古い箪笥(たんす)を利活用した食器収納!
ここには磯部さんが料理に合わせてそろえてきた、大切な器がしまわれています。
こちら、棚ではなく、明治〜昭和期に山形県庄内地方で作られたとされる庄内箪笥なんです。た・ん・す!
「新たな収納スペースを確保したくて収納棚を探していたのですが、なかなかピンとくるものもなく途方に暮れていたんです。ですが、ある時に存在を知ってお店を訪ねてみたら、もう宝の山、山、山。この箪笥とは運命的な出合いを果たしました。以来、店に置く家具や雑貨は、こちらのお店から購入することが多くなりましたね」とRestaurant ISOのオーナーシェフである磯部冬人さん。
料理だけでなく、空間にもこだわる磯部さんが教えてくださったのが、今回ご紹介する新潟市秋葉区にある「アンティーク快空間」です。
お店のホームページはありますが、お店が紹介された記事などはほとんど見かけません。
一体、どんなお店でどんな方が経営されているのか……気になるので、早速訪ねてみましょう。
「アンティーク快空間」は、新潟市中央区からは車で30分ほど。
鉄道の街として知られる新津にお店があります。
外観を見るからにアンティークショップという雰囲気が伝わってきます……!
「幾つものお店を回ってもピンとくるものがなく悩んでいたのが一転、快空間さんに足を踏み入れたら、どれにしようか決められないという悩みに変わりました(笑)」という磯部さん。その磯部さんが絶大な信頼を寄せるのが、「アンティーク快空間」のオーナー瀧澤亮さん・薫さんご夫妻です。
ごっつぉライターも、今日ばかりは取材に来たのか、掘り出し物を探しに来たのかわからなくなってしまいそうです。
物欲が爆発しそうな気持ちをグッと堪えて、お二人にお店のこと、アンティーク家具・雑貨にまつわるお話を伺ってきました。
INTERVIEW
古物好きが高じて開いたアンティークショップ
アンティーク快空間は、週に1回、日曜だけお店を開けるというスタイル。常連のお客さまやネットでお店を知ったお客さまが、その日を目掛けてやってくるそうです。
「実店舗としてお店を構えたのは、2011年です。以前は新津地区の滝谷本町にお店があったんですよ」とオーナーの瀧澤亮さん。旧店舗は広い敷地があったガラス工場を、亮さん自身がリノベーションして営業していました。大々的にお店をPRしたわけではなかったそうですが、「新津にアンティークショップがある」と聞きつけたお客さんの口コミが広がり、徐々に来客数が増えていきました。
その影響と、駐車場確保の問題や建物の老朽化なども重なり、移転を決めたのが現在の場所。
こちらは以前、地元で古くからの大工道具を扱うホームセンター的店舗として使用されていたそうで、ここも亮さんと仲の良い業者さん達でコツコツとリノベーション。
お店に入って正面は西洋アンティークや絵画が中心、左手の空間はアメリカのビンテージ品や日本の家具などを置き、ざっくりとテイストを分けてディスプレイしています。
さて、肝心のオーナー瀧澤亮さん。
「お店はリノベーションしました」とさらっとおっしゃいましたけれども……亮さん、ただのアンティーク好きではなさそうですよね。大工さん?設計士?一体、何者でいらっしゃるのでしょうか(笑)。そもそもお店を始めたきっかけは?
「僕は若い頃から県内外のビンテージ品を扱うショップへ足繁く通い、古い家具や雑貨を買ったりするのが好きだったんです。何に使えるの?と思うようなものを買っては直して使ったり、若い頃はそんなことばかりしていました(笑)。昔の物って、直して使っていくことを前提に作られているんですよね。だから、どれも丁寧に作り込まれていたし、自分の手や空間に馴染むような感覚も好きだったんですよ」(亮さん)。
古い物が好きだった一方で、営業マンとしてモータースポーツ用品の輸入商社、機械商社などで働き、仕事ではアンティークとは無縁だった亮さん。お店を始める転機となったのが、機械商社で働いていた時。副業として高級婦人服のアウトレット品を製造メーカーから仕入れて、それをECサイトで販売していたそうです。
「自宅の一角にトルソー(胴体だけのマネキン)を置いて細々とやっていたんですが、自分で仕入れをして売上を少しずつ上げられるようになり、妻に「会社を辞めて、ずっとやりたいと思っていたアンティークや古い家具を扱うお店をやるから」と伝えたんです」。
その当時を振り返る亮さんの横で、妻の薫さんはニヤリ。
「ある時に、なんの前触れもなくそう伝えられました(笑)。せめて子どもの高校受験が終わってからとお願いしたのですが、主人の決意は固かったですね。不安いっぱいでしたが、一度決めたらやりきる人なので信じるしかなかったんです!」(薫さん)。
お店を開くにあたり、亮さんは古物商の許可を取得。西洋のアンティークからアメリカのビンテージ品、日本の古物などに関する知識や歴史について実物に触れたり、人や書物から教わるなどして、独学で見識を深めていきました。
関東をはじめとする古物市場や独自開拓ルートで買い付けに出かけ、少しずつ商品を集めて、今ではお店に並び切らないほどの商品を抱えているそうです。
「好きなものだから、いろんなことを覚えられましたし、お店を始めることもできたってことですね(笑)」と亮さん。「好きこそものの上手なれ」とはまさにこのことですね!
実際に見て、触れて、掘り出し物を探せ!
2022年に現在地に移転リニューアルしたアンティーク快空間。
店名には、アンティークを暮らしに提案することで「快く、心地よい癒しの空間を演出したい」との思いが込められています。
せっかくだから、お店の中も見て回らせてもらいましょう!
お店の扉を開けるとまず目に飛び込んでくるのが、煌びやかなシャンデリア!ゴージャスですねぇ。その下にはシックな色合いのガラスの収納棚、その中にカップ&ソーサーや食器などが飾られています。
バカラ、マイセン、ヘレンド、ウェッジウッドやティファニー、ビレロイ&ボッホ、ロイヤル・アルバート、ミントン・ハドンホールなど、他ではなかなかお目にかかれないアウトレット品も多く、ダンスクやアラビア、日本製ではノリタケ、大倉陶園のカップや器なども勢ぞろい。
「贈答品でもらって大切に保管していたという方から、買い取らせてもらったものが多いですね」と亮さん。他にも、ペンダントライトや古びた掛け時計、値札が付いたダイニングテーブルの上にも、さまざまな雑貨がズラリと並んでいます。
その奥には、洋画、日本画など、水彩から油絵、風景画から抽象画、版画の一種であるリトグラフなどなど、多様なジャンルの絵画が飾られています。
「絵画の需要があるのは、お店を始めてから気付いたんですよね。アンティークに親しまれるお客さまは、自宅に絵を飾りたいという方が多かったんです。実際に画家として活動されている方の絵画もあれば、アマチュアの方の作品も扱っていて、ここでギャラリーのように展示していることで作家さん同士の交流にもつながっているんですよ」(亮さん)。
その数、数百点!こちらもじっくり見入ってしまいました。
アメリカ&日本の時代家具が置かれた空間も覗いてみます。
古い箪笥は明治から大正、昭和時代のものとさまざまで、ヨーロッパやアメリカのアンティークチェアや絨毯、売り物ではありませんが、亮さんがお気に入りのJBLのスピーカーや真空管アンプのコーナーもあり、いやぁ見ているだけでも楽しいです!
ごっつぉLIFEの取材クルーの男性陣は皆おじさん(失礼)でしたが、まるで少年のようにキラキラと目を輝かせて商品を眺めていましたよ。
さらに、一番奥のショーケースには希少価値の高い人形作家・四谷シモン氏が手がけたビスクドールも!こちらの空間は西洋アンティークのコーナーよりも、一段とレトロな雰囲気が漂っていますねぇ。
「男性のお客さまが一人でふらっといらっしゃることも多いんですよ。最近は20代くらいの若い男性グループが、カップやソーサー、ちょっとした小物を買って行かれることも多いですね」と亮さんが教えてくれました。
お店に並ぶのは一部を除いて、ほとんどが売り物で一点もの。どれも亮さんがお客様の好みやテイストを思い浮かべながら、全国各地のネットワークを駆使して仕入れてきたものです。一つ一つ眺めていたら、あっという間に時間が経過。お出かけの際は、時間に余裕を持って出かけることを、激しくおすすめいたします!
「私も妻もお客様には基本、お声がけしません。まずはじっくり見ていただいた上で、商品について聞きたいことなどがあれば、気軽に話しかけていただきたいですね。話しかけられないからといって、歓迎していないというわけではありませんよ、むしろ大歓迎です(笑)」(亮さん)。
EPILOGUE
長く使われてきた物だからこそ、大切に使い続ける工夫を
日曜にしか開かないお店ですが、平日、瀧澤さんご夫妻は何をしていらっしゃるのかというと……家具の修理やメンテナンス、建築家屋解体、不動産の仲介もやっているそうで、住宅の売却時の家屋や美術品の査定、さらには、ドラマや映画、CM撮影などで使用するアンティーク家具や雑貨のレンタル、薫さんもホームページやSNSの管理などなど、とにかく大忙し!
その中でも、亮さんが力を入れているのが、家具や調度品のメンテナンス。
どの製品も可能な限り修理やメンテナンスを行い、実際に使ってもらえるように手を加えているといいます。そのせいか、一つ一つの商品が個性を放ちながら、誰かによって大切に扱われてきた“愛着”が感じられるように思います。
「日常生活で使える程度まで、しっかりメンテナンスや修理をすることも、私のこだわりなんです。ここに並んでいるのは量産品ではなく、材質や作り方にもこだわりがあって、使い込めば使い込むほど魅力が浮かび上がってくるものばかり。飾っておくのもいいんですが、ぜひ実際に使っていただきたいですね」と亮さん。
長く使われてきたものを、さらに大切に長く使い続けてもらいたいと、お店では家具や調度品のフィッティングサービスを実施しています。どういったサービスかというと、お店にある商品が自宅やお店のサイズやテイストに合うかどうかを吟味するために、一度持ち帰って搬入し、購入を検討してもらうのだとか。
実はRestaurant ISOの磯部さんもそのサービスを利用して、食器棚として活用されている箪笥も、実際にレストランの個室に置き、食器を入れてみて、購入を決意したのだそうです。
地域の歴史と信頼を大切したお店を目指して
そして、もう一つ。瀧澤さんご夫妻が大切にしている信条が、地域に信頼されるお店であること。新津に長く暮らすお二人だからこそ、「地域の皆さんに嘘をつくような商売は絶対にしたくない!」と常々考えているそうです。
「自分が住んでいる地域で商売ができるかどうかって、偽りなく正直に商売ができるかってことの表れだとも思っています。一見、古物商というと怪しいお店?なんて思われてしまうこともあるんですが(笑)、うちは地域密着型の商売がモットー。不要になったものの買い取りや査定なども、地域の皆さんから気軽に相談してもらえるとうれしいですね。
あとね、この場所って新津のお祭りの時に神輿がやってきて、お店の目の前で地域の方々が踊るんですよ。それはもうずっと昔から続いていることで、私は商品と同じように、この場所の歴史も大切にしていきたいと思っています」(亮さん)。
歴史を紡いできた数々のものへの愛着、そこから生まれた地域への誠実な思い。
瀧澤さんご夫妻のお話から、ものを直して使い続け、ものを慈しむこと、古き良きものから暮らしの豊かさを見つめる大切さを教えていただきました。