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会津漆器のバトンを次世代につなぐ。 「ヒューマンハブ天寧寺倉庫(HHT)」 に込められた想い。

会津漆器のバトンを次世代につなぐ。「ヒューマンハブ天寧寺倉庫(HHT)」に込められた想い。

あいづaizu
ヒューマンハブ天寧寺倉庫

関 昌邦 (せき まさくに)さんの自己紹介

大学卒業後の1992(平成4)年、衛星通信・放送事業を行う現スカパーJSAT株式会社に入社。通信・放送衛星事業の企画部門に従事。2000(平成12)年、現宇宙航空研究開発機構/JAXAで次期通信衛星のアプリケーション開発に開発部員として従事。2003年に転身し、家業 株式会社関美工堂に入社。2005(平成17)年、会津塗BITOWAを立ち上げる。国内外のデザイン系プロダクト、手仕事などを扱うライフスタイルストア美工堂の運営開始。2007(平成19)年、代表取締役社長に就任。2010(平成22)年以降、NODATE、urushiolなど塗の新ブランドを立ち上げる。2011年以降、漆を機能素材として建築分野に提供するなど、漆のバトンを次世代に渡す取り組みに注力。また最近では衣類・備品など、地域の素材・技術・モノづくりコミュニティを活かしたプロデュースなど活動範囲を広げている。

ごっつぉLIFE会津2-1福島中央テレビ会津支社長の熊田さんからご紹介を受けて向かったのは、会津若松市内にある「ヒューマンハブ天寧寺倉庫(以下、略称の「HHT」と表記します)」というこの建物。

会津では「漆器屋さん」と呼ばれる、会津漆器の総合商社である株式会社関美工堂さんが立ち上げられた、「漆器職人のためのシェア工房」を備えた複合施設だそうです。元々は関美工堂さんの本社兼倉庫だったものを改装して2022(令和4)年11月にオープン。1階には漆器を始めとする会津の品を集めたセレクトショップとカフェ、2階にはシェアオフィス・コワーキングスペースやイベントスペースもあり、一般の方も自由に出入りできる場所とのこと。

HHTの中へ…

早速、中に入ってみました。

元倉庫の面影を残しつつ、天井が高くて明るいオシャレな店内。この写真に写っているのはセレクトショップの一部で、写真手前には漆器やアウトドアグッズが並び、奥には洋服が並んでいます。

販売されている漆器も、一般的にイメージされるつやつやテカテカの漆器ではなくて、少し木目の残るもの。和の印象を残しつつも、新しさを感じるものばかりです。

セレクトショップの一部は、カフェスペースになっています。公式サイトには「熟練珈琲マスターのハンドドリップ珈琲を始め、ベーカー、パティシエ、料理人など様々な方々とのコラボレーション企画で楽しい場を提供します」とあったので、時期によって楽しめるものが変わるようです。

そして、建物に入って右奥には、シェア工房。この写真は、その一部です。

公式サイトには「漆器製作の分業工程、木地師(木を削って形をつくる)、塗師(木地に漆を塗る)、蒔絵師(加飾を施す)の3工程に沿った工房を提供し、若手職人のスタートアップを支援します」とありました。全てガラス張りのスペースで、HHTに来た一般の方が、職人さんたちの作業風景を見ることができるようになっています。

2階へ上がると、このような広いスペース。シェアオフィス・コワーキングスペースや、イベントスペースとして利用することができる場所だそうです。

ショップやカフェの詳細、各スペースの利用方法などは、HHT公式サイトをご参照ください。

「シェア工房」の意図

この建物のオーナーであり、企画者である、株式会社関美工堂 代表取締役社長の関さんにお話を伺いました。

地域の特産品やクラフトを集めたセレクトショップ、シェアオフィスやコワーキングスペースだけでなく、「シェア工房」があることが、HHT1番の特徴だと思うのですが、どうして「シェア工房」を作ろうと思われたんですか?

「会津の漆器業界は完全分業制で、まちには各工程を担当する小さな工房がたくさんあります。私たち関美工堂は、その工房の皆さんに漆器を作ってもらい、お客さまにお納めするまとめ役・商社のような立場なので、この工房の職人さんたちがいないと仕事ができません。だから、職人さんたちの後継者問題は、我々にとっても死活問題。会津には漆器職人を育てる学校もありますし、希望者も多く、後継者となりうる人材は多くいるんです。でも問題はそのあと。学校を出た後なんです」

学校を出た後…?

「そう、学校を出た後、各工程の職人さんのところへ弟子入りするのが一般的なんですが、今、漆器業界全体が縮小する中、弟子をとれる職人さんがなかなかいないのです。弟子をとるほどの仕事がない」

なるほど。では、学校を出た後、弟子に入らなくても漆器職人として仕事ができるようになるまで、このシェア工房を使って良いということですか?

「そうです。各工程に必要な機械や工具もそろえてあります。これを自分でイチから買いそろえるのは大変な出費になるので、その部分を私たちが提供して、技を磨くことに集中してもらおうと思っています。ここで技を磨いて、ここにいるうちに自分の顧客を見つけて独立していく。そのためのステップに使ってもらいたいのです」

シェア工房のきっかけは、NODATE Mug

関さんが家業を継いだ後に誕生した、新生関美工堂を象徴する商品の1つに、「NODATE Mug(のだてマグ)」という、アウトドア向けの漆器マグカップがあります。

HHTのショップに並ぶNODATE Mug)

「同じようなアウトドアグッズとして、フィンランド生まれの木製のマグカップ“ククサ”というものがあるんですが、表面にオイルを塗って仕上げるものなので、熱いものを入れると油が浮いてくるんです。でも、漆だとその心配がない。そもそも、自然を愛する人たちが楽しむアウトドアなのに、使っているものが自然のもの・天然素材じゃないなんて、なんだかなーと思っていたんですよね(笑)。それで、漆器とアウトドアって相性いいかも、と思い誕生したのが、この漆器のマグカップです」

2010(平成22)年にNODATE Mugが誕生し、その後「NODATE」というブランド名で、アウトドアシーンで使える漆器を数多く発表。瞬く間に人気ブランドとなりました。

NODATE公式サイトより)

「NODATEが人気になって、漆器の新しい形、世の中に求められる形が見えてきたところで、すぐにぶつかったのが“生産基盤の壁”でした。もっとたくさん作って、世の中に、世界に、漆器の魅力を伝えたい!でも、作る人がいない」

これが「シェア工房を作ろう」と考えたきっかけ。「会津漆器の生産基盤の立て直しを早くしなければ、この先はない」と、強い危機感を持ったと関さんは言います。

更地にして売ろうとしていた、この場所

この「シェア工房」発想のきっかけが生まれた頃、旧本社兼倉庫だったこの建物(現HHT)は、売却に向けて整理中。当時は更地にして売ろうと考えていたそうです。

「ホント、その頃は、親父たちが残した昭和の遺構を片付けなきゃ…と思ってやっていただけだったんですが、中小企業庁の事業再構築補助金の話を聞いて、じゃあ、この補助金を使って、新しい事業をここで立ち上げよう!この旧本社兼倉庫を生まれ変わらせよう!という発想につながりました。そこからは早かったですね…。具体的な構想を数カ月で完成させました。こんなに短時間で固めることができたのは、やはりどこかで、“会津漆器の未来をなんとかしなければいけない”という思いと考えが、自分の中にあったんだと思います。また、この場所は自分が生まれ育った場所でもあるし、私の父や祖父が頑張って築き上げた場所でもあるので、こうやって形を変えて、次に継承できるのもうれしいです」

HHTで実現したいこと

取材の途中で、「ヒューマンハブ天寧寺倉庫」の名前の由来をお尋ねした時、関さんはこんなお話をしてくださいました。

「江戸時代、江戸が元気だった・賑やかだったのは、いろんな背景を持った人・いろんな技術を持った人が集まっていたから。江戸は、人と人とがつながる場所“ヒューマンハブ”だったんです。だから、この場所もそんな場所にしたいと思って構想を組み立てました。シェア工房、シェアオフィス・コワーキングスペース、イベントスペースは実際に人が集まり交流する場となりますが、1階の物販スペースも、会津にある良いものを関美工堂のフィルターを通して発信していく、“会津の衣食住文化の集積地”にしたいと思っているんです」

軽くて握りやすいバトンにしたい

また、同じく取材の途中で、今のご自身の立場をこのように表現されていたことが、とても印象的でした。

「残っているものには、残っているなりの意味があると思っています。漆器もそう。ただ、自分は“バトンのつなぎ手”でしかない。つなぎ手でしかないなら、ないなりに、そのバトンを、軽くて握りやすいバトンにしたいと思うんですよね。みんながつなげたい、握りたいと思えるバトン。漆器業界が元気だった昔は、重くて握りにくいバトンでも“売れるから”つないできた。でも今は違う。だからバトンの改良はしないとね(笑)」

「三方よし」を体現

関さんをご紹介くださった、福島中央テレビの熊田さんが「三方よしを体現されたような」と表現されていた理由がよく分かりました。取材中、関さんの口から「三方よし」という言葉は出てこなかったのですが、考えてらっしゃること、仰っていること、実行されていることが、「三方よし」なんです。

関美工堂さんの「三方よし」は、公式WEBサイトの「代表挨拶」冒頭にも書かれていました。『創業以来の社是「三方よし」を繋ぐ』とあります。

「実際に使ってみないと、良さは分からないからね…」
と言って、NODATE Mugに入れてくださった、このコーヒーもおいしかった…。手のひらから伝わる木の優しい温もりと、コロンとしたフォルム。アウトドア派ではない私ごっつぉライターも、欲しくなりました。

NODATE Mugを始めとする関美工堂さんの製品は、オンラインショップでも購入できますので、覗いてみてください。

関さん、会津漆器の未来を見据えたアツイお話、ありがとうございました!

追伸:皆さん、「ごっつぉLIFE会津1-3」でご紹介した、社団法人 福のもと 代表の五十嵐佑子さんを覚えてらっしゃいますか?お父さまは元会津漆器の蒔絵職人さんで、五十嵐さんも漆器の学校に通ってらっしゃいました。今回取材させていただいた関さんは、五十嵐さん親子のこともよくご存じで、おふたりがかつて作られた漆器も、HHTのショップで販売されているそうです(取材当日は商品入れ替えの関係で店頭には並んでおらず、残念…!)。五十嵐さんは漆器職人ではなく、別の方法で会津漆器・伝統工芸の継承を考えていらっしゃる方ですが、関さんのこのシェア工房で腕を磨き、漆器職人としてご活躍される日も来るのかな…と、思いました。いろんな角度から会津漆器の未来を考える方が、会津にはたくさんいらっしゃるんだな…。

関さんの特別なこと
会津漆器のバトンを
自由な発想でつないでいくこと
お腹いっぱい頂きました!
ごっつぉさまでしたー!!

さんの#マイごっつぉ

「スーパーニュートラルであること」と「NODATE Mug」

関美工堂の関さんにとって特別なこと「マイごっつぉ」は、ご自身のありよう・生き方である「スーパーニュートラルであること」。そして、そんな関さんが、漆器に対してニュートラルに向き合った結果生まれた「NODATE Mug(のだてマグ)」。写真はNODATEのデビュー当時のイメージカットだそうです。「誰にも・何にもなびかず、何色にも染まらない、そんなスーパーニュートラルな自分でありたい、と常に思います。だから敵も作っちゃうんですけどね(笑)」と関さん。ニュートラル(中立の立場)を心掛けると、洞察力や俯瞰して物事を見る力が身に付くので、自分自身の立ち位置を冷静に捉えることができるそうです。自由な発想で漆器業界に新しい風を吹かせ続けている関さんの根幹は、ここにあったんですね。ニュートラルだからこそ、「漆器とはこうあるべき」という既成概念に囚われることもない。頂いたこのNODATE Mugのお写真も、まさにその「囚われなさ」を表しているようで、見ていてとても気持ちがいいです。関さんの生き方が投影された製品の数々、これからもどんなものが生まれてくるのか、楽しみです!

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