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無農薬・無施肥の自然栽培で育つ 野菜の力強さと美しさに魅せられた農家 農園八兵衛さん

無農薬・無施肥の自然栽培で育つ野菜の力強さと美しさに魅せられた農家農園八兵衛さん

ごせんgosen
農園八兵衛

塩原 悠一郎 (しおはら ゆういちろう)さんの自己紹介

大学と大学院で歴史を学び、修了後は化学メーカーで営業職として勤務。2011(平成23)年に退職し、実家へ帰郷して就農。実家は代々農家で、当時は両親が専業で米、野菜、切り花(チューリップ、ユリ、ヒマワリ)などを栽培。2012(平成24)年、県立農業大学校の新規就農者研修「新潟やるき農業塾」にて、1年間農業の基礎を学ぶ。同年、実家で農業をするかたわら、空き時間を使って別の畑でほそぼそと自然栽培をスタート。その後、実家の農業経営とは別に、自然栽培で野菜を育てる「農園八兵衛」を立ち上げ、今に至る。現在は妻と2人で、サツマイモ、里芋、ミニトマト、ナス、オクラなどを育てている。2018(平成30)年より当農園で育った自然栽培のサツマイモ「紅はるか」を使った焼き芋屋を、秋から春にかけて「やきいも八兵衛」の屋号で出店している。

ごっつぉLIFE五泉市1-1でご紹介した、スーパー「エスマート」さん。取材に応じてくださった鈴木店長さんから「五泉市の魅力的な人」としてご紹介を受けたのは、ちょうど取材当日、エスマートさんの店先に出店していた焼き芋屋さんでした。

五泉市で農業を営みながら、毎年秋から春にかけては焼き芋屋さんとして、ご自身が育てられたサツマイモ「紅はるか」を焼き芋にして販売されている「農園八兵衛」さんです(焼き芋屋さんの屋号は「やきいも八兵衛」)。

エスマートさんに到着した直後から気になっていましたよ~♪だって甘~い香りがするんですもの。取材前ではありますが(笑)、早速1つ頂きました。

見て!このトロットロ!
ほくほくじゃなくて、トロトロです。
お芋じゃなくて、クリームのような柔らかさと甘さ。
色も黄金色できれいです。 しみじみと、おいしい…

農園八兵衛さんは、農薬を使わない(無農薬)だけでなく、肥料も一切使わない(無施肥)、自然栽培で野菜を育てている農家さん。この焼き芋に使われているサツマイモ「紅はるか」も、自然栽培で育てたものだそうです。

自然栽培…ということは、雑草も生えるし、虫も出るし、肥料も与えないから、おそらくたくさんの量はとれない。そんな中でも「人と地球に優しい自然栽培にこだわって、苦労しながらやっています」というようなお話が出てくるのかな…と思ったら、農園八兵衛代表の塩原さんは、終始楽しそうに、野菜や畑の様子を語ってくださいました。

…あれ?思ってたんと違う(笑)。
…どうしてこんなに楽しそうなんだろう?

お話を伺い始めた頃に感じたこの疑問。これが徐々に解け、最後には全てが腑に落ちた塩原さんのお話を、順を追ってお伝えします。

自然栽培に出合うまで

塩原さんは五泉市に代々続く農家の生まれ。長男でしたが、昔から農家を継ぐつもりはあまりなく、大学と大学院では歴史の研究をされていたそうです。その後、東京の化学メーカーに営業職として勤められたのち、2011(平成23)年、30歳の時に帰郷。

「仕事がハードできつかったんです…(笑)」
と、素直に教えてくださる塩原さん。

「農業は親を手伝いながら覚えればいいと思ったんですが、なかなかちゃんと教えてくれなくて(苦笑)。なので、新潟県農業大学校で開かれていた、新規就農者向けの研修”新潟やるき農業塾”へ1年間通い、農業の基礎を学びました」

オーガニック(有機栽培)より、自然栽培の方が「始めやすそうだ」と思った

塾へ通ったこの1年の間、農業の基礎を学ぶと同時に、「どうやって農業で稼いでいこうか?」も考えた塩原さん。この過程で、オーガニック(有機栽培)や自然栽培という考え方に出合ったそうです。

「オーガニック(有機栽培)も化学肥料や農薬を用いない農業ですが、有機肥料は使うんです。だから量もとれる。ただ、この有機肥料の使い方が難しいなと感じました。一方、自然栽培は有機肥料も使わないので、オーガニックよりも始めやすそうだ、と思ったんです」
と、塩原さん。

おぉ…。
素人目には肥料を全く使わない分、難しいように思いますが…。

「あ、そうですか?でも、難しいかどうかより、やってみたらおもしろかったんですよね、自然栽培。農薬も肥料も使わずに本当に育つんだ!本当に育った!っていう驚きや感動が大きかったです。実家は農薬も肥料も使う普通の農家なので、私の中でもこの両方を使うことが当たり前だったんですよね。あとは、自分で始める前に、すでに自然栽培をされている先輩農家さんの畑を見に行ったのですが、その時の畑の美しさに惹かれたことも、自然栽培を始めるきっかけになりました」

畑の美しさ…?

「農薬を使っていないので、草も生えているんですが、とにかく植物が元気なんですよね。草を含め、みんな生き生きしている、きれいな畑でした」

(現在の塩原さんの畑の様子。農作物の緑もその周りの草の緑も、生き生きとしています。※塩原さん提供写真)

自然栽培1年目は、白菜全滅

農業大学校で研修を終えた2012年の春、実家の畑とは別に親戚の畑を借りた塩原さん。農薬も肥料も使う、一般的な農業をご両親と一緒にしつつ、ここで自然栽培を始めました。

「1年目は白菜が全滅したんですよね」
と、笑う塩原さん。

えぇ?!全滅!?笑いごとじゃないですよね??

「まぁ、まだ少し始めたくらいだったので、大丈夫です(笑)。それよりも、この全滅したことに対して、どうしてだろう?と考えて、仮説を立て、翌年やってみる。そうするとまた違う結果が出る。この繰り返しが、楽しかったんですよね。だから全滅してもそんなに悲観的にはならず、おもしろさが勝りました」

なるほど。元々は大学院まで進まれて、歴史の研究をされていた方。仮説・実践・検証の繰り返しのこの過程が楽しいなんて、やっぱり、研究者気質をお持ちですね…。

(自然栽培を始めた頃の畑の様子。ホウレンソウの芽。「今よりも土の状態が悪く、周りの草をキレイに抜いていたら、どんどんと土が締まってしまい、このあと全く大きくなりませんでした」と塩原さん。※塩原さんご提供写真)

白菜全滅の原因は…

ところで、全滅の原因はなんだったんですか?

「原因は1つではないと思うのですが、1年目は草を全て抜いてしまったんです。それを2年目はやめて、ある程度草を残すようにしました。すると全滅はしなくなった。結局、草が大切だったんですよね。草は枯れた後、畑の養分になりますし、草の根っこが畑を耕してくれているんです。肥料無しでも、土が元気なら育つんですよね」

草が大切…!
これまた意外なお話。農薬を使わない分、一生懸命に草を抜かないと、養分が草に取られてしまうとばかり思っていました。

そして、皆さん、お気づきしょうか。
塩原さんは「雑草」と言いません。「草」と言います。
ここに塩原さんのリスペクトを感じ、私も「草」と呼ぶことにしました。

土が元気で水が豊富な、豊かな土地

先ほどの塩原さんのお話の最後「肥料無しでも、土が元気なら育つんですよね」の「土が元気」は、ここ五泉市のポテンシャルの1つでもあるようで…

「昔からこの辺りは“サツマイモやジャガイモが良く育つ”と言われていて、水はけが良く保水力が程よくある、黒い土なんです。この黒い土は、通常、火山灰が作り出すものなんですが、この周囲に火山はない。不思議ですよね。昔の人が焼き畑をしていたのかな…なんて、歴史好きな私は考え始めてしまいます(笑)。五泉市は水も豊かで、井戸水をたっぷりと使える、豊かな土地だと思います」

おぉ…!ここで歴史が絡んでくるとは!
生まれ育った故郷の土が、帰ってきた塩原さんを温かく迎えてくれたようで、うれしいですね。

畑の様子や出店情報は、SNSをチェック!

今でも実家の農業を手伝いつつ、自然栽培を続ける塩原さん。サツマイモと里芋の収穫が終わり、農作業がお休みに入る晩秋から早春にかけては、焼き芋屋さんをされています。焼き芋屋さんの出店場所や、お野菜を直接購入できるイベント出店などは、農園八兵衛さんのFacebookもしくはインスタグラムをチェックしてください。

(農園八兵衛さんのインスタグラムの一部)

農園八兵衛さんのSNSを拝見していて、私ごっつぉライターが個人的に好きなのは、日常の中にあるちょっとした出来事、特に畑で繰り広げられる夫婦の会話です。例えば、サツマイモを収穫しながら塩原さんが「芋堀りは魚釣りのようだ」とつぶやいたことから始まる、この一幕。

塩原さんの何気ない発言を奥さまが丁寧に受け取られ、反芻して、キチンと返されている。とてもすてきです。読んでいてホッコリするので、ぜひ見てみてください。

理(ことわり)の無いことはやらない

取材をさせていただいた2022年は、「農園八兵衛」として塩原さんが自然栽培を始められてちょうど10年。記念すべき年に取材をさせていただきました。

最後に今後の展望をお聞きすると、

「今のところ、規模を大きく…とは考えていないです。手がまわらず、世話が行き届かなくなって、質が落ちていく気がするから。あとは、まさに自然栽培で私自身が学んだことですが、理(ことわり)の無いことはやらない。自然栽培は、コントロールしようと思ったら上手くいかず、コントロールしようと思わなくなったら上手くいくようになったんです。余計なことは考えず、自然な流れで、無理なく、土に触れながらやっていきたいです」
と、塩原さん。

「自然の理(ことわり)を無視して、収穫量や効率を求めていくと、私自身“そこまでして農業やらなくていいんじゃないの?”って思っちゃうんですよね。“他の仕事でいいじゃん”“他の仕事と一緒じゃん”って。楽しくなくなっちゃう(笑)」

収穫が苦痛だと思うくらい、愛された野菜たち

そうなんです。
塩原さんにとって畑仕事は楽しみなんです。
育てることが楽しいし、生きる植物として、野菜が愛おしい。
それを決定づけた発言がこちら。

「私、収穫が苦痛なんですよね(苦笑)。植物にとって、収穫は終わりの時。おいしそうな実がなってはいますが、その一方で茎や葉は枯れていくわけです。植物が1番輝いている時は、やっぱり葉が生い茂っている時だと思うので、ちょっと悲しくなります」

「収穫が苦痛」初めて聞きました。農家の方は、収穫が1番楽しい時だと思い疑わなかった私。浅はかだった…。

塩原さんのお話は、とても奥が深く、取材が終わってから何度か思い返し、「あぁ、そういうことか…」と、点と点がつながっていく感覚がありました。まだまだ理解しきれていない部分も多いと思いますが、塩原さんの農業観や人生観、かなりおもしろいです。ぜひ、焼き芋や野菜を買いに行きつつ、塩原さんに「ごっつぉLIFE読みました!」と話かけてみてください。塩原さんの思いに共感する方とのご縁が、ここからつながりますように。

塩原さん、楽しいお話をありがとうございました!

塩原さんの特別なこと
自然の理に従い
野菜を育てる楽しさ
お腹いっぱい頂きました!
ごっつぉさまでしたー!!

塩原さんの#マイごっつぉ

畑の風景

農園八兵衛の塩原さんにとって特別なこと「マイごっつぉ」は、ご自身の畑の風景。「自然栽培ならではの畑の風景が大好きです」とのこと。「自然栽培ならではの」というのは、「野菜と草が、バランスよく共存している状態」だそうです。この写真はサツマイモ畑の夏頃の様子。「この畑の中にはさまざまな草が生えていて、虫や微生物もたくさんいます。それらの活動によって、土のバランスが整えられ、野菜も元気に育ちます」と、塩原さん。確かにお写真を拝見すると、濃淡の違う緑が規則正しく並んでいる。濃い緑がサツマイモの葉っぱ、薄い緑が草。野菜も草も生き生きとしている、この風景がお好きなんですね。…そうか、私が見たことのある畑はたぶん、「農薬も肥料も使う一般的な畑」なんだな。だから、塩原さんが「大好き」と感じてらっしゃる部分に実感が伴わず、なんとも口惜しい…。「今度は畑にも来てください」と別れ際に言ってくださったこと、本気にします!塩原さんが惚れ込むその景色、私も見てみたいです!

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