
渡邉 幸嗣 (わたなべ こうじ)さんの自己紹介
2014(平成26)年に大川荘に入社し、2016(平成28)年に代表取締役社長に就任しました。大川荘の他にいくつかの事業を立ち上げ、会津全体の広域観光の取り組みも行っています。個人的には昔から山登り大好き!野湯(やとう=山の中に自然に湧き出ている温泉)大好き!なので、会津の大自然を堪能しつつ、この醍醐味をお伝えすることで、日本人の遊び方を変えていきたいと考えています。まだまだ知られていないアクティブな遊び方が、日本にはたくさんあるんですよ!
ごっつぉLIFE初めての会津取材は、「会津観光のキーマン」との噂を聞きつけお訪ねした、芦ノ牧温泉の老舗旅館「大川荘」の社長、渡邉幸嗣さん。取材に伺った2022(令和4)年10月上旬は、ちょうど紅葉の見頃で、大川荘さんの周辺の山々も見事でした。

この景色は大川荘さんへ到着する直前に渡った橋からの眺め。車で通った瞬間に「わぁ…」と声が出てしまいました。上記写真中央の川は阿賀川。そうです!ここは新潟県内を流れる阿賀野川の上流なのです!(阿賀野川は、福島県内では名称が「阿賀川」になります)ごっつぉLIFE初の会津取材が、偶然にも阿賀野川・阿賀川で新潟とつながっている、ここ芦ノ牧温泉になったこと、運命を感じずにはいられませんでした。
新潟と会津はつながっている!
地理的にも文化的にも!
そんなことを頭の片隅に置きつつ、ごっつぉLIFE会津編、会津の魅力的な方々のご紹介記事を楽しんでいただければと思います。
近年話題のこのロビー
芦ノ牧温泉の大川荘さんと言えば、近年『鬼滅の刃』に出てくる「無限城」にそっくり!…と話題になったこちらのロビー。

毎日夕方に三味線の演奏が行われているそうで、その姿も「無限城」に登場するキャラクターに似ていて、この空中に浮かぶような階段や通路も、まさに「無限城」なんですよね。
取材当日、演奏を拝見することはできませんでしたが、渡邉さんにはこのロビーの一角でお話を伺いました。
手掛けてらっしゃる事業を一挙ご紹介
今回の取材準備で渡邉さんのことを調べたのですが、調べれば調べるほどいろんな情報が出てきて混乱したんです。大川荘の代表だけでなく、さまざまな事業を展開されているようでしたので、まずはその事業1つ1つを教えていただきました。

どんな質問にも朗らかに優しく答えてくださった渡邉さん。ありがとうございます!
渡邉さんが手掛けてらっしゃる大川荘以外の事業は、次の4つです。
1. 猪苗代沼尻温泉「沼尻高原ロッジ」

1つ目は、女性として世界で初めてエベレスト登頂に成功した登山家・田部井淳子氏がオーナーを務め生涯愛したロッジ。大川荘さんが名称をそのまま継承し、2019(令和元)年11月にリニューアルオープンした宿泊施設です。
「旅館仲間から、“オーナーが亡くなって今は休館している。復活して欲しい”という話を聞いたのが最初です。田部井さんのことは、山登りをする者として尊敬していましたので、これはなんとかしたいな、と。世界各国から登山家が集まる聖地みたいな場所でしたからね」
と、渡邉さん。
「引き継いだもう1つの理由は、このロッジがある猪苗代沼尻温泉の魅力です。猪苗代沼尻温泉は単一源泉としては日本一の湧出量で、お湯が溢れすぎて川になっているんですよ。その川の温度が40度くらいのちょうどいい温度になっていて、川遊びのようにして温泉を楽しめる最高の場所なんです。これを観光に活かせないかと考えていて、そのための拠点となる施設としてちょうど良かったという面もあります」
ん?温泉が溢れて川になっている…?
その様子がこちらです。

つくり物に囲まれたアミューズメント施設に慣れてしまっている私は、この写真に写っているものもつくり物かとつい思っちゃいますが(笑)、写っているもの全て天然の岩・天然のお湯です。屋外・山の中です。ロッジから車で10分ほどの安達太良山登山口から1時間ほど山を登った先に現れる、天然の露天風呂!…と言うか、温泉が流れる川(笑)!
すごい!すごすぎる!行ってみたい!
ガイドさんと一緒に1時間ほど歩けば行けるという、意外と簡単に行けちゃうのも驚き。
渡邉さんが自己紹介の中で「日本人の遊び方を変えていきたい」と仰っている「遊び方」とは、ご自身が実際に遊んで来られた遊び方、人の手があまり加わっていない、用意周到に準備されたものではない、大自然を堪能できる遊び方のことなんでしょうね。この猪苗代沼尻温泉の野湯もまさにその1つで、ご自身がプライベートで仲間と訪れるお気に入りの場所、遊び場だったそうです。
こちらの登山と野湯体験がセットになったツアーは「エクストリーム温泉ガイドツアー」として、このロッジに隣接する建物にあるcafe&activity nowhereさんが提供しているそうです。こちらのcafe&activity nowhereも渡邉さんが手掛けてらっしゃる事業の1つです。
2. cafe&activity nowhere(ノーウェアー)

2つ目は、沼尻高原ロッジの隣にあるカフェ。上記のエクストリーム温泉ガイドツアーを始め、猪苗代沼尻温泉のある、安達太良山山麓でのさまざまなアクティビティを提供しています。ツリーハウスやテントサウナ、散策のためのレンタル電動アシスト付きマウンテンバイクなど、アウトドアのアクティビティが充実!
「もともとは沼尻高原ロッジの隣にあった、スキー場のレストハウスです。沼尻高原ロッジを引き取ろうとした時に、宿泊はロッジで、アクティビティは別の場所に拠点を置きたいと考え、当時閉館していたこちらも一緒にリニューアルしました」
と、渡邉さん。
また、この施設を起点として「“心を開放する”をテーマに周辺フィールドを楽しむ体験の組合せとして、ライフチェンジとなるようなコンテンツやプログラムを造成していくプロジェクト」(PROJECT NOWHERE 公式WEBサイトより引用)「PROJECT NOWHERE(OUTDOOR×酒×音楽×芸術)」を展開中。渡邉さんは、このプロジェクトのアンバサダーのひとりとして参加されています。
3. 株式会社会津ドリーム開発(略称:ADD)

3つ目は、旅行代理店の「株式会社会津ドリーム開発(略称:ADD)」。
「コロナ禍前の話ですが、福島県と一緒にインバウンド誘致の活動をしていて“広域観光の必要性”を強く感じたんです。“大川荘に来てください”と言っても誰も来てくれない。そりゃそうですよね。大川荘に行って何ができるんだ?大川荘だけを目当てにわざわざ海外から来る人はいませんからね。だから福島県や会津の魅力・地域のコンテンツを伝えることと、その魅力が体験できるアクティビティの提供、そして参加したいと思ったらすぐに申し込める窓口の一本化が必要だと思ったんです」
それがこちらの「会津エクストリームツアー」のWEBサイト。2019(令和元)年10月に立ち上げた直後に、コロナ禍となったため、これから更に整えていくとのこと。
代表挨拶にこう書かれていました。
私自身も「夢」や、「想い」を抱き、世界中を旅しました。それらの旅が、今では「想い出」となり、私の人生をより豊かで、色鮮やかなものにしてくれました。 そして、今、会津の土地を起点として、理想の旅作りのお手伝いをさせていただくために、ADDを立ち上げました。心を込めて、皆様の「想い出」作りに寄り添います。
まだ開発途中とのことですが、コロナ禍明け、再びインバウントの波が起こる際には、福島観光・会津観光の重要な役割を担うサイトになるはずです。
4. 芦ノ牧温泉カレー&テキーラバーDECCORA(でっこら)

最後の4つ目は、2018(平成30)年に大川荘さんがプロデュースして生まれ変わったお店「DECCORA」。50年余り地元の人たちに愛された芦ノ牧温泉街唯一の食堂が、店主の高齢化により閉店を余儀なくされたため、店主の思いを引き継ぎ、リニューアルオープン。「DECCORA(でっこら)」とは、会津弁で「いっぱい」とか「たくさん」という意味だそうです。
「実はここ、大川荘の社員食堂でもあるんです。このお店のシェフは大川荘の料理人です」
と、渡邉さん。
なるほど!だから毎日おいしそうな「日替わり定食」が提供されているんですね!(インスタで拝見しました)
「この食堂の店主だった90歳くらいのおじいちゃんから“ここがなくなったら芦ノ牧温泉街に食堂がなくなってしまう。幸嗣くん、なんとかしてもらえないか”と言われたことがきっかけで、社員食堂兼一般食堂としてリニューアルすることにしました。ここで提供されている“芦ノ牧温泉カレー”は本格的なインドカレーで、私が監修しています。本場インドで食べた味を再現したくて、スパイスからこだわっています。あと、夜は“テキーラバー”ということになっているんですが、それも私がテキーラ好きだからです(笑)」
渡邉さんの話を聞いていると、ご自身の「好き」と、大川荘の「事業」と、地域みんなの「幸せ」が上手く合わさっているように感じます。自分の「好き」だけではないし、大川荘のこと、地域のこと、ひいては会津観光のことを考えた上で上手くつながっている感じ。それが渡邉さんの事業展開の軸なんだろうな。
実は縁もゆかりもなかった芦ノ牧温泉・大川荘
ここまで大川荘以外の事業について、全てお伺いしました。
ところで、大川荘の代表に就任されたのはなぜなんでしょうか?
事業継承?それまでは何を?
「実は私、芦ノ牧温泉や大川荘とは、もともと縁もゆかりもないんです(笑)」
…え?
「実家は福島県石川郡石川町の、母畑温泉・八幡屋という旅館なんです。そこは父と弟が経営しているので、私は全く旅行業界とは関係のない仕事、エンジニアを東京で長年していました」
それがまたどうして、芦ノ牧温泉の大川荘へ?
「父と弟が大川荘の再建に関わっていて、その流れで“お前やってみるか?”と声がかかったんです。実家の旅館の経営には一切関わってこなかった私ですが、やっぱりどこかで、旅館の経営をしたいと思っていたんでしょうね。やってやろうと思い、妻と2人で東京からここに来ました」
奥さま、反対されませんでしたか?それこそ、縁もゆかりもないところで、急に「女将」という立場になるなんて、私なら考えただけでめまいがしそうですが…。
「妻は天然なんで大丈夫です(笑)。もともと東京の人ではなく兵庫県の姫路市出身ですし、あんまり気にしてなさそうですよ」

いやいやいや、いやいやいやいや、絶対大変ですよ。
今度は女将さんにもお話を伺いたいです(笑)。
信頼を勝ち取るため、誰よりも働いた
「大川荘に入社した時は、とにかく誰よりも働き、誰よりも重い物を持って動き、誰よりも大川荘のことに詳しくなろうとしました。気付いたら1日4万歩も歩いていて、足がパンパンに腫れた日もありましたね」
と、笑う渡邉さん。
4万歩!?
厚生労働省推奨の1日あたりの歩数は8,000歩なので、4万歩は異常です。
「2014(平成26)年に大川荘に入社し、2016(平成28)年に代表取締役社長になったので、それから3年で大川荘を建て直そうと思っていたのですが、コロナ禍になってしまい、今も再建途中です」
福島県内外でも有名な老舗旅館大川荘さんですが、経営面では苦しい状況が2000年頃から続いていたと言います。渡邉さんが就任されるまでに、何人かの経営者交代を経ています。渡邉さんは前半にお伝えしたようにさまざまな事業を展開し、新しい視点と取り組みで大川荘の立て直しを図ってらっしゃることが分かります。そしてその視線は大川荘だけでなく、福島観光・会津観光全体へと注がれている。
渡邉さんが「会津観光のキーマン」との噂は本当でした。
あえて言うなら、「これからの新しい会津観光のキーマン」です。
「こうやって旅館の経営をしつつ、観光業界に携わりつつ、ゆくゆくは“日本人の遊び方を変えたい”と思っているんです。日本中、山奥のヤバイ温泉(笑)はたくさんあるし、まだまだ知られていない“日本の楽しみ方”をもっと広めていきたいです」
と、渡邉さん。
エクストリーム温泉ツアーも行ってみたいし、プロジェクトノーウェアーの分野の垣根を越えた交流・イベントも面白い。今後も渡邉さん周辺の動きに注目です!
西会津でハーブを育てる女性
最後に会津の魅力的な方を2人ご紹介いただきました。
1人目は、西会津でハーブを育てる女性、一般社団法人「福のもと」代表の五十嵐佑子さん。渡邉さんはイベント出店で知り合ったとのこと。
「一般社団法人を立ち上げた経緯とか、すみません、詳しくは分かってないのですが、直感的に“今後注目される人物になるだろうな”と思う女性です。面白い経験をたくさんされていますので、ぜひ話を聞いてきてください」
と、渡邉さん。
調べてみても情報が少なく、やや謎に包まれておりますが、行ってまいります!五十嵐祐子さんがどんな方なのか、記事にまとめたいと思います!
喜多方の熱塩温泉「ふじや」に元気な妹が帰ってきた
2人目は、喜多方市にある熱塩(あつしお)温泉の宿「ふじや」の若女将、山本志穂さん。志穂さんのお兄さまが業界団体などで昔から渡邉さんと交流があり、「元気な妹が帰ってきた」という話を聞いていたそうです。こちらもご本人との出会いは、イベント出店がきっかけとのこと。
「志穂さんは、とにかくよく働くんですよね。有機野菜の畑もどんどん広げて大きくなっているんですが、それも全部自分ひとりでやって、3頭いるヤギの世話もひとりでして、宿のお茶菓子やイベントで販売しているヴィーガン焼き菓子もひとりで作ってるそうです。どうしてそんなに働くのか?働けるのか?聞いてきてください(笑)」
なるほど。パワフルな女性なのですね!
分かりました。その秘密探ってきます!
パワフルな渡邉さんから、またパワフルなバトンがつながれたような気がします。会津の魅力的な人を訪ねる旅、俄然楽しみになってきました。ありがとうございます!会津、堪能しまーす!