小笹 教恵 (おざさ のりえ)さんの自己紹介
1982年、新潟県生まれ。 ヒメミズキオーナー。幼稚園の先生、インテリアショップでのインテリアコーディネーターを経て、2014年に器の専門店「ヒメミズキ」を新潟市・西堀通りにオープンしました。2016年には上古町に店舗を移転しています。陶磁器を中心にガラスや鎚起銅器、木製品など、新潟県内外の作家さんの器を取りそろえて、1ヶ月 に一度のペースで個展や企画展を開催しています。
PROLOGUE
白山神社の門前町として親しまれる、新潟市中央区の上古町。
古町通りは1番町から13番町までと長くつながり、白山神社に近い1番町~4番町が上古町商店街です。
「カミフル」の愛称で親しまれるこの商店街には、昔ながらの専門店から、ここ数年でできたおしゃれなセレクトショップや飲食店が並んでいます。
通りにはアーケードの下を行き交う人、自転車で颯爽と駆け抜ける人、お散歩中のわんこ、路地で寝転がる猫……上古町には、どこか時間がゆったりと流れているように感じます。
今回、日本料理 蘭の佐藤さんに紹介していただいて訪れたのは、白山神社から歩いて3分ほどの場所にある、器の専門店「ヒメミズキ」。
さっそく、お店にお邪魔をしてみます。
白を基調にした店内には、さまざまな形や色の器が並んでいました。
「どれも作家さんが一つ一つ手作りしたものです。ぜひ手に取って、じっくり眺めてみてくださいね」。
ほほ笑みながら話しかけてくれたのが、店主の小笹教恵さんです。
すてきな器の数々ですが、ただ並んでいるというわけではなく、例えば花が生けられていたり、器が使われている風景を思わせるようなレイアウトにも見えます。
「お店でお話をしながら、ゆっくりと器をご覧になって、“あ、2時間も経っていた!”というお客様もいらっしゃいますよ」と小笹さん。
分かります、その気持ち!
一つ気になる器があっては作家さんにまつわるお話を聞いてみたり、そうしている間に、また違う器も気になって…の繰り返しになってしまいます(笑)。
それくらい、どれもすてきな器ばかりなのです。
そんな奥深い器の世界を発信するヒメミズキ。
お店の背景から、小笹さんの器への思いもお聞きしてみたいと思います!
INTERVIEW
働き続ける背中を押した、器との出会い
小笹さんがヒメミズキという器の専門店を、西堀通りで開いたのは2014年。
その2年後に、上古町商店街に移転しました。
「この場所にはご縁があって移転してきたのですが、白山神社からの門前通りのためか、すごく良い“気”が流れているように思います。ここに移転してから、気になっていた作家さんが立ち寄ってくださったり、飲食店の方々とのつながりができたりと、実際に良いご縁が増えました」。
小笹さんにとって、古町は昔から大好きな場所。
「大人になってからは、上古町の落ち着いた静かな街の雰囲気がお気に入りなんです!それに、町全体がアットホームで居心地の良さを感じています」。
高校生の頃は5〜6番町にあった古着屋によく行ったそうで、小笹さんと同世代のごっつぉライター、懐かしい古着屋さん談義で盛り上がってしまいました。
実は小笹さん、器のお店を開く以前は、幼稚園の先生を7年、インテリアショップでインテリアコーディネーターの仕事を5年ほどされていました。
「もともとインテリアが好きだったこともあり、幼稚園で働きながら夜は学校へ行ってインテリアについて学びました。次のステップに進むと話した時も、周りの先生方や保護者の皆さん、受け持った子どもたちが応援してくれました。お店を持った今も、成人した卒園児や保護者の方がお店に来てくれることもあるんですよ」。
幼稚園を退職し、小笹さんが新しいスタートを切ったのは、新潟市内のインテリアショップ。
家具や絨毯など、インテリアのトータルコーディネートを得意とするお店でした。
「実は私、入社早々、“5年後に独立します!”と大きな目標を掲げてしまいまして(笑)。
そんなふうに目標を持ちながら働くことに、重きを置いている会社だったんですね。
お店を続けていくには、やっぱり目標を設定して、それをクリアするために何をしなければならないのか?そういったことを考える大切さを教えてもらいました」。
お客さんと接するのは楽しいながらも、朝から晩まで休みなく働く日々。
「あれ?私、暮らしを提案しているのに、自分の暮らしを大切にできていないのでは?」
そう感じ始めた小笹さんの背中を押したのが、器との出会いでした。
季節の移ろいや自分を大切に思う気持ちを、器は育んでくれる
現在、ヒメミズキでは東北から九州まで、全国各地に散らばる約30人近くの作家の器を扱っています。
栃木県の益子町、愛知県の常滑や瀬戸、美濃焼で有名な岐阜県などをはじめ、小笹さんが作家を直接訪ねて、器をつくることへの思いや背景を聞きながら、作家に展示販売を依頼しているのだとか。
その中で、小笹さんが作家の思いと共に大切にしているのが“季節感”。
取材に尋ねたのは、まだ暑さが残る9月上旬でしたが、店内には涼やかなガラスの器がたくさん展示されていたのが印象的でした。
「自分の食生活に気を使ったり、季節を感じたりする余裕もないくらい、前職では忙しい毎日を送っていました。でも、ある時、遅くに帰宅して、簡単につくった料理をちょっとすてきな器に盛り付けたら、本当に違うものに見えたんです。ただ茹でただけの野菜でも、お気に入りの器でいただけば、明日も頑張ろうという気持ちになれる。器にはそんな楽しみがあることに気が付きました」。
それからはどんどん器の世界にのめり込んでいったという小笹さん。
暑い季節はガラス製の器を使って、食卓に涼を演出したり、秋や冬には温かみのある土の質感を感じるような器を並べたりと、季節ごとに器の素材を変えて食卓の変化を楽しむようになりました。
ごっつぉライターの勝手な偏見なのですが、小笹さんは器を楽しむ以前に、もともと料理好きで料理上手なのだろうな…と思っていました。
ですが…
「いえ、私自身、お料理はそんな得意ではなくて(笑)。
むしろ、頑張って料理をつくろうと思うのは、少ししんどいなと考えるくらいだったんです。
でも、料理のレパートリーが少なくても、お気に入りの器を並べるだけで、これにはあの料理を合わせようと、器をベースに料理を思い描いて、つくるようになっていきました」。
その中で器や料理を通じた出会いも多くあったそうです。
「日本料理 蘭の佐藤さんをはじめ、飲食店の皆さんがお店で使う器を求めて、足を運んでくれるようになりました。佐藤さんは料理を通して、いいものをたくさん見て来られた方。今は手に入らないような貴重な器もたくさん持っていらっしゃるので、器のことを教えていただくのも刺激になります」。
小笹さんが大切にしているのは「月に一度大きな贅沢をするよりも、心地よい毎日を積み重ねていくこと」。
器を通じて食事を楽しむという時間が、心に豊かな気持ちを運んでくれていると感じるようになったといいます。
「だから、“なんだかちょっと日常に疲れたけれど、自分を大切にできたらいいな”と感じていらっしゃる方にこそ、ヒメミズキを訪ねてきてもらえたらと思っています」。
EPILOGUE
器のある暮らしは、“丁寧”ではなく、“楽しく”でいい
小笹さんのお話を聞いてから、改めて店内に並ぶ器をじっくりと眺めてみました。
「この器にはご飯を盛り付けて、このお皿にはお野菜のお浸しがいいかな。
この小鉢は果物を入れてもかわいいかも。朝のコーヒーにはこのカップが良さそう」。
そんな食卓のイメージが、どんどん膨らんでくるから不思議です。
あまりにもすてきな器だと、使うというよりも飾っておきたい気持ちにもなってしまうものです。
「器は美術品のような美しさを兼ね備えてはいるのですが、やっぱり使ってこそ生きるもの。だから、食器としてはもちろん、花を生けてみたり、思い思いの使い方で楽しんでもらいたいです」。
大切に使い込んでこそ、器は日々の心の豊かさを与えてくれるものだと、小笹さんは教えてくれました。
器にまつわる作家の話や、小笹さんが気に入ってる点も合わせて尋ねてみてください。
小笹さんがどの器についてもアツく語ってくださるので、さらに器の魅力やつくられた背景にあるものを深く感じ取ることができるはず!
さて、ヒメミズキでは2023年11月には、大分の作家・角田淳さんの展示会をはじめ、角田さんの器を使ったお茶会や食事会も企画中だとか。
器を買うだけでなく、器を実際に使う楽しい時間にも、小笹さんの創意工夫が活きています。
「お店を始めたばかりの頃は、“丁寧に暮らす”というようなことを、つい言ってしまっていたんですよね。けれど、こんな忙しない毎日で丁寧に暮らしている暇は、みんなにあるのかな?と思うようになって。だから今は、いろんな人が楽しく暮らせることを意識しながら、器が楽しく暮らせるための一つのアイテムになれたらと思うようになりました。
器から豊かさや思いやりを育めるような暮らしのお手伝いをしていきたいですね」。
日常をほんの少しでも振り返り、見直すひととき。
毎日の暮らしの中で見つけ出したい、ちょっとした幸せ。
ヒメミズキの器を通して、ぜひ探してみてくださいね。