羽生雅克さん・久美子さん姉弟の自己紹介
羽生 雅克(はにゅう まさかつ)さん
弥彦村生まれ、弥彦村育ち、彌彦神社の目の前で「酒屋やよい」を営む酒屋の三代目です。東京農業大学の醸造科で学び、卒業後は山梨県のワイナリー「ルミエール」で修業。地元に戻って来てからは、実家の酒屋で全国各地の日本酒、ワインなどの販売をしつつ、令和元年に姉の久美子と共に「弥彦ブリューイング」を立ち上げました。
羽生 久美子さん(はにゅう くみこ)さん
「弥彦ブリューイング」で醸造を担当している、雅克の姉です。昔はカーディーラーや事務職を経験しましたが、2000年頃から家業を手伝うようになりました。酒屋の娘ですが、ビールは苦いので苦手でした(笑)。そんな自分が今、ビールの製造に関わっているのが何だか不思議です。
PROLOGUE
「ほら、あそこに見えるのが弥彦山だよ」。
県央地区で生まれ育った皆さん、一度はこのセリフを耳にしたことはありませんか?
三条市出身のごっつぉライターの私にとって、弥彦山は小さな頃から親しんできたシンボル的存在。その麓にある彌彦神社も、七五三や合格祈願と、人生の節目ごとにお世話になっている心の拠り所ともいえる神社です。
弥彦村は春は桜、夏は彌彦神社の灯籠祭り、秋は菊まつりと弥彦山の紅葉、冬は山の雪景色と、四季折々の風景を見せてくれる街です。昔は観光客や地元のおじいちゃん、おばあちゃんたちが街を歩いていたことが多かったように思いますが、近年、弥彦村の街を歩いていると、若い人にめちゃくちゃ出くわすではありませんか。
それもそのはず、最近の弥彦村では、おしゃれなカフェやスイーツが楽しめるお店が続々とオープンし、これまでも十分魅力的だった街に新しい魅力が加わっているのです。スマホ片手に映える写真を取る若者を見ては「なんだか弥彦が活気づいてる!」と、おばちゃんの私はうれしくなっちゃいます!
さて、そんな話題に事欠かない弥彦村ですが、5年前にクラフトビールを作る醸造所が誕生しました。その名も「弥彦ブリューイング」。
彌彦神社の目の前で長年酒屋を営む羽生雅克さん、姉の久美子さんの姉弟の二人が、「Made in YAHIKO」をテーマに掲げ、弥彦村と弥彦村近郊で採れる農産物を活かしたビール作りを行なっています。
そこではクラフトビール、さらにはワインも作っているそうで……酒好きの私が取材に伺うにはドンピシャすぎ。そんなわけで、今回はお酒というキーワードに惹かれ、いつも以上に気合を入れて、「Made in YAHIKO」のお酒について取材して参りました!
INTERVIEW
三代続く酒屋の姉弟、クラフトビールを作る
「弥彦ブリューイング」の真相に迫るべく、まず訪れたのが「酒屋やよい」。
「上にティスティングルームがあるので、どうぞ!」と案内してくださったのが、店主の羽生雅克さんです。「酒屋やよい」は昭和37年に創業した酒屋で、現在は羽生雅克さんが三代目として奥さんや従業員の皆さんとでお店を切り盛りしています。
「うちは昭和初期に初代が小さな食料品店を立ち上げたのが始まりで、二代目の父が新潟の地酒専門店へと方向転換しました。もともとはここから徒歩4分ほどの赤坂通り沿いの実家がある場所で酒屋をやっていましたが、今はその場所を使って弥彦ブリューイングをやっています。ちなみに、彌彦神社前にあるこの場所は「酒屋やよい」として、酒屋メインになっています」と雅克さん。
その「弥彦ブリューイング」ですが、年間20種類以上のビールを醸造しています。昔ながらの酒屋というと、どうしても地酒との結び付きが強いイメージがありましたが、どうしてビールの製造を始めたのですか?
「これはもう、ある出会いがきっかけだったんです。日本橋にある「ブリッジにいがた」という新潟県のアンテナショップで、定期的に日本酒をバースタイルで提供する「やよい会」というのを開催していたんですが、その会の常連だった業者さんが「ビールを作った」と聞いて飲ませてもらう機会がありました。
それが今まで味わったことがないような個性的な味わいだった上に、製造方法も小さめの冷蔵庫を使って発酵させる「冷蔵庫発酵方式」と呼ばれる珍しいものだったんです。ビールだけどフルーツジュースのようなさらっとした味が素直に面白いなぁと思って、帰ってビールが苦手な姉に話してみたら「そんなビールだったら、私も飲んでみたいし、作ってみたい!」と姉が言うんです。姉はビール好きじゃなかったのに、こんなことを言い出して驚きました(笑)」。
弟・雅克さんの「面白い!」が、姉・久美子さんの「作りたい!」に変わり、酒屋姉弟による弥彦クラフトビール物語が、2018年に始まりました。
弥彦でやるからには、弥彦にとって付加価値のあるものを
「酒屋やよい」から徒歩4分ほどの場所にあり、「酒屋やよい」の旧店舗を改装した「弥彦ブリューイング」も訪ねてみました。
醸造スペースのお隣にはバーカウンターがあり、常連さんがカウンターでお酒を楽しむ姿が。いいなぁ〜私も飲みたい……!おっと、心の声が漏れてしまった。
実をいうと、雅克さんは東京農業大学の醸造学科出身。卒業後は山梨のワイナリー「ルミエール」でワインの醸造に携わりました。ですが、ビール作りは「大学の授業でちょっとやったくらい(笑)」だったそうです。
一方、姉の久美子さんは酒造りの経験は一切なし。だからこそ、ビールの製造を一から学ぼうと、冷蔵庫発酵方式を行う「永代ブルーイング(現:松戸ビール)」をはじめ、東京都・世田谷の「ライオットビール」、新潟を代表するワイナリー「カーブドッチ」の薪小屋など他4軒と、各地で武者修業!
「今までビールの苦味が苦手だったからこそ、自分が飲めるビールというものを作ってみたいと思ったんですよね。弟はワインの知識もありますし、あまり細かい心配はしていませんでした(笑)」と久美子さんは笑顔で振り返ります。
いやぁ、「絶対なんとかなるはず」というお二人のポジティブ思考とバイタリティーが半端ないです。
ビールの醸造を進めていくと、二人の中で明確なコンセプトも生まれました。
それは「弥彦村や弥彦村近郊で採れる食材をビールの副原料として使うこと」。
「ただ興味本位でビールを作るなら誰でもできることです。でも、弥彦という場所で作ることに意味を持たせるのが、僕は一番大事だと考えました。だから、弥彦ブリューイングの立ち上げ当初から、ビールの香りや風味づけになる副原料は弥彦村や弥彦村近郊で採れる農産物を主体にしてます」(雅克さん)。
さて、ビールの原料となるのは、麦芽、ホップ、水と酵母。これ以外に、ビールの味や風味を変化させる役割を果たしているのが、副原料と呼ばれるものです。一般的なビールで多いのは、米やとうもろこし、でんぷんなどがあります。
羽生さん姉弟がこれまで副原料として取り入れてきた農産物は、ブドウやリンゴ、越後姫(イチゴ)、桃、ル レクチエ、さらには枝豆やキュウリ、菊もあるのだとか!
え、野菜もビールに!?
「そうそう、弥彦のブランド枝豆でもある「弥彦むすめ」だったり、食用菊の「かきのもと」、弥彦のお隣、燕市吉田の「もとまちきゅうり」でビールを作ったこともありましたよ!これがね、それぞれの野菜の風味をほのかに感じる仕上がりになったんですよ」と雅克さん。
ちなみに、この日の醸造所では、弥彦で取れたばかりのふきのとうを使った仕込みが行われていました。雅克さんが冷蔵庫の蓋を開けると……あっ、濃厚なふきのとうの香り!
「ブドウや桃などの果物はもちろん、野菜に関しても収穫したその日のうちに仕込むのが理想なんです。あとは、仕込みの前にしっかりと洗浄や下処理を行うことも徹底しています。素材の持ち味を最大限引き出すには、農産物の鮮度がとっても大事なんですよ」と久美子さん。
雅克さんは農家からの仕入れ、経営や販売戦略を担当し、久美子さんが醸造を。やっている仕事は違えど、Made in YAHIKOのビールに込める想いは一つ、「弥彦に貢献できるビール作りを!」。
EPILOGUE
ビールとワインで、弥彦の農業のあらゆる問題に光を
毎日のように弥彦村内外の農家を訪ね、季節ごとの農産物を買い取り、ビール作りに生かしている雅克さん。農家とのやりとりを通じて、いろんな野菜や果物を作る農家がいること、弥彦村には昔から作り続けられている農産物が数多くあることを改めて実感しました。
「農家の方々はどんな天候でも懸命に農作物を育てているし、農業に対する姿勢や農産物に込められた熱意に日々圧倒されています。あぁ、だからこんなに農産物がおいしく仕上がるんだと納得できちゃいますよね」(雅克さん)。
一方で、農家から聞くのは、形がいびつであったり、色味があまり良くなかったりするという理由で販売できない“ハネもの”と呼ばれる農産物が必ず出ること。さらに、農家の高齢化で農業をやめなければならない人が増えているなど、地元弥彦村の農業にはさまざまな課題がありました。
「でも、そういった課題に対しても、うちのビールが少しでも力になれるんじゃないかって思っているんです。農家の生産ロスを減らすことができるでしょうし、弥彦で農業をしたい移住者にとっての受け皿的存在にもきっとなれますよね。それこそ、弥彦ブリューイングを姉と立ち上げる際に一番重視していた“弥彦への付加価値となるビール作り”に通じていると思っているんです」(雅克さん)。
弥彦村産の食材を使ったビール作りを原点に、昨年、初めて製造に取り組んだのが……弥彦村産のブドウをふんだんに使った「弥彦ワイン」!ワインはまさに、雅克さんの得意分野ではありませんか。
「弥彦では昔から村をあげてブドウの栽培に力を入れてきました。幸運にも弥彦村は2019年に県内初のワイン特区に指定されたんです。その影響で最低製造数量基準が年間2,000ℓに緩和され、果実酒醸造免許を取得してワインを作ることができました。農家の皆さんには感謝しかありません」と雅克さんはうれしそうに語ります。
2019年に創業し、今年5月で5周年を迎える弥彦ブリューイング。看板商品でもある特別栽培米「伊彌彦米」を使った「伊彌彦エール」は、国内クラフトビールコンペ「ジャパン・グレートビア・アワーズ」では2020年・2021年に銀賞、2023年は銅賞を受賞。外国勢も参加する「インターナショナル・ビアカップ2020、2023」でも銅賞を獲得するなど、羽生さん姉弟の二人の頑張りは確実に実を結んでいます。
今年4月は5周年記念として、タップルームでキャンペーンが開催されています。
「今回の5周年記念では、レギュラーサイズ800円のビールを550円で提供してます。弥彦公園の桜も見頃でしょうし、弥彦の街歩きがてら、ふらっと飲みにいらしてください」と雅克さんからうれしいお誘いが!
皆さん!これは行くしかありません。行きましょう。車で行くならハンドルキーパーを連れて、あれこれ飲みたい方は電車で訪れるが正義です。
「弥彦産のビールにワイン、一体どんな味がするんだろう」と、取材中からワクワクが止まらなかった酒好きの私ですが、取材後に「伊彌彦エール」「西蒲キウイホワイト」、弥彦ブリューイング「ロゼ泡」「白泡」を購入。家に帰って飲み比べてみましたが、どれも素材の香りをほのかに感じて、苦味がほとんどないジューシーで軽やかな飲み心地が印象的でした!
酒屋の姉弟が丹精込めて作り上げたビールとワインをぐびっといただいて、弥彦村の自然と地元愛を存分に感じてみてくださいね!
NEXT EPISODES
最後に、弥彦村の魅力的なお二人を、羽生さんからご紹介いただきました。
おいしさを追求した弥彦村産フルーツを手がける「Joy Farm わたなべ」
1人目は、親子三人、弥彦で農業を営む「Joy Farm わたなべ」の渡邊一嘉さん。
「弥彦ブリューイング」が昨年初めて手がけた「弥彦ワイン」の原料となったのが、弥彦村産のブドウ。弥彦村の「ぶどう生産者組合」を通じてブドウを供給していただいたそうですが、その生産者の中のお一人が渡邊さんでした。
「うちの商品「洋なしエール」「りんごエール」に使用した洋ナシとリンゴも渡邊さんが栽培しているもので、ビールの製造においても渡邊さんの協力は欠かせません」と羽生さん。
「Joy Farm わたなべ」はル レクチエやリンゴ、ブドウの他にお米も作っているとのことで、どんなお話が聞けるか楽しみです!
彌彦神社の目の前の和カフェ「社彩庵ひらしお」
2人目は「酒屋やよい」のお隣さんで、カフェ兼お土産どころの「社彩庵ひらしお」の早福百合さん。
「お隣同士で昔から顔馴染みというのもありますし、僕が彌彦神社氏子青年会の会長をした翌年に百合ちゃんが務めたり、百合ちゃんのお姉さんが僕と同級生だったりとつながりは数知れず(笑)。もはや弥彦を一緒に盛り上げる戦友です」と羽生さん。
そうそう、その昔、「弥彦にカフェができたー!」と私の地元でも話題になったものです。メニューにはお抹茶やあんこを使ったスイーツが盛りだくさんなのが楽しみです!
「Joy Farm わたなべ」さんと「社彩庵ひらしお」さんのエピソードも、どうぞお楽しみに!