脇坂 斉弘 (わきざか よしひろ)さんの自己紹介
大好きなスノボができて、おいしいお酒が飲める。そんな只見町に惹かれて移住しました。…と言っても住まいは隣町なのですが(笑)、目論見通り、冬はすぐにスノボへ行けて、おいしいお酒も飲めて、楽しく暮らしています。本当のところは、元々は郡山市内で建設会社に勤めていたのですが、妻の親族が南会津の酒蔵の当時社長をしていたため、結婚が決まったタイミングで声が掛かり、転職・移住となりました。転職後のこの酒蔵で酒造りを学び、縁あって、只見町の農家さん4名と一緒に小さな酒造メーカー「合同会社ねっか」を2016(平成28)年に立ち上げ、私が代表を務めています。
ごっつぉLIFE会津2-1の熊田さんからご紹介いただき、向かったのは、福島県南会津郡只見町。皆さん、只見町ってどこか分かりますか?地図で見ると、新潟県の三条市・長岡市・魚沼市のお隣、山を越えた向こうです。
新潟県のすぐお隣なんですが、間にある県境の山が大変なんです。標高1,000~1,500m級の山々で、日本でも有数の豪雪地帯。魚沼市と只見町を結ぶ国道252号は冬期通行止めになります。
私ごっつぉライターが取材に伺ったのは、2022(令和4)年12月。国道252号は通行止めでしたので、新潟市から会津若松へ向かい、そこから只見川沿いの道路を川上へと向かいました。幸い雪は降っていませんでしたが、それでも、新潟市から車で片道3時間の道のりでした(笑)。
「八十里越街道」開通で、新潟と只見が近くなる
この片道3時間の道のり、実は、三条市と只見町を結ぶ国道289号「八十里越街道」(2026(令和8)年頃開通予定)ができると、新潟市から三条市を経由すれば、車で片道約2時間で行けるようになるそうです。1時間も短縮!!そんな「八十里越街道」は、目下建設・伸長中。詳しくはこちらの、越後南会津八十里越プロモーション事務局公式WEBサイト「まぼろしの街道 八十里越街道」を見てみてください。開通が待ち遠しいですね!
只見町産米100%のお酒を造る「合同会社ねっか」
そんなこんなで辿りついたのが、こちらの「合同会社ねっか」さん。
只見町でできたお米だけを使って、お酒を造っている酒造メーカーさんです。
江戸末期に建てられた古民家をリノベーションしたというこちらの建物が、事務所兼店舗となっています。
店頭にこの看板が出ている時は試飲もさせていただけるそうですよ(私ごっつおライターは車で帰らねばならぬため、試飲できず…。残念)。
社名の「ねっか」は「全く」「ぜんぜん」という意味のこの辺りの方言。「ねっかさすけねー」と言うと「ぜんぜん問題ない」という意味。「ねっかさすけねー」の精神で歩んでいきたい、という願いが込められているそうです。
合同会社ねっかのすごいところ
実はこのねっかさん、酒造業界で話題騒然のすごいことをやってのけた会社なんです。
1つ目は、新規参入が難しい酒造業界に、「地域の特産品を使った焼酎であれば新規参入を認めます」という、国税庁の「特産品しょうちゅう製造免許」を取得して、2016(平成28)年に開業したこと。この免許取得には、「醸造用の建物があること」「年間10KL(720ml 25度換算で約2万本)が販売できる証明をすること」など、さまざまな条件があるのですが、それを約半年でクリアしたそうです。
2つ目は、2021(令和3)年に「輸出用清酒製造免許」の交付第1号を取得したこと。日本国内向けの清酒製造はできないものの、「全量輸出するなら新たに製造しても良い」という許可で、創業間もない小さな酒造メーカーのねっかが、国内初の取得者となったことに、業界で大きなニュースになったそうです。
この他にも、スピリッツ免許、どぶろく免許なども取得し、多様なお酒造りを行ってらっしゃいます。
また、積極的に世界の品評会に出品し、数々の賞を受賞されていることでも有名です。
全ては、美しい只見の景観を守るため
老舗の酒蔵が多く存在し、新規参入が難しい酒造業界に、わざわざどうして参入したのか?なぜ海外の品評会への出品など、輸出を視野に入れた展開を始めから行っているのか?全ての理由は、「美しい只見の景観を守るため」だと言います。
この辺り、代表の脇坂さんに詳しく伺いました。
「只見町の農家さんと“只見の未来”を考えた時に、“この美しい只見の景観を守るためには、田んぼの維持が欠かせない。しかし米の消費量は減る一方。ただ米を作っているだけではダメだ”という結論に至ったんです。しかも、町は少子高齢化の一途を辿っており、働く場が少ないからUターン・Iターン者も少ない。主要産業は農業だけど、雪深いこの地域では冬は働けなくなるため、就農は魅力的ではない。これらを一度に解決できる方法が、“只見町の米でお酒を造ること”でした」
只見町のお米でお酒を造ることが、Uターン・Iターン促進にもつながるんですか?
「そうです。僕らが考えたのは、農業法人と酒造メーカーとのコラボです」
効率的に雇用を創り出す、農業法人と酒造メーカーとのコラボ
合同会社ねっかを立ち上げたメンバーは、酒造りの経験のある脇坂さんと、4名の農家さん。4名の農家さんはそれぞれ農業法人で、各法人が只見町で栽培したお米と、只見町にある合同会社ねっかの自社圃場で栽培したお米の両方を使って、合同会社ねっかがお酒を造っています。
「合同会社ねっかは、各農業法人に冬場の酒造りを業務委託しています。各農業法人は、農業の仕事と酒造りによって従業員を通年で雇用できるので、働く人にとっても、季節労働ではなく年間就労が可能になります」
と脇坂さん。
なるほどです…。
そして、使用する酒米は全て各農業法人で作ったお米だから、お酒が売れることが、田んぼを守ることにつながり、ひいては、只見の美しい景観を守ることになる。全てがつながりました!
また、海外の品評会に積極的に参加されていることも、これで納得です。焼酎や清酒の需要が右肩下がりの日本国内を狙うよりも、最初から海外での販売に焦点を当てた方がいいですもんね。この雇用を守るため、只見の美しい景観を守るため、とても堅実な選択をされていることがよく分かりました。
脇坂さんの恩返し
今回取材に伺うにあたり、ねっかさんのことを調べ、たくさんの記事を拝見しました。その中で、私が不思議に思ったのが、「なぜ、脇坂さんが?」でした。只見町のご出身でもなく、奥さまのご実家は隣の南会津町。ある意味、縁もゆかりもない地域の未来を考え、脱サラをして起業するに至ったのか?その「脇坂さんを突き動かすもの」がどこの記事にも掲載されていなかったのです。
単刀直入にその疑問をぶつけると…
「代表に就任したのは、農家さんに頼まれて、です。そして、その依頼を引き受けたことは、僕にとっては、恩返しの意味が大きかったと思います」
と、脇坂さん。
詳しく伺うと、2011(平成23)年3月11日に発生した東日本大震災で脇坂さんの妹さんが被災され、その時に、のちに合同会社ねっかを一緒に立ち上げることになる農家さんたちが、炊き出しなどの支援を積極的にしてくださったそうです。
「本当にお世話になったんです。だから、今度は、僕が恩返しをしたいと思いました」
合同会社ねっか立ち上げの構想・提案は、農家さんたちから上がったものの、酒造りができる人がいない。そこで当時酒蔵に勤めており、普段から交流があった脇坂さんに声が掛かったと言います。これが、震災発生から5年経った2016(平成28)年2月のこと。それからわずか4カ月後の同年6月に酒蔵を退社。翌月7月に脇坂さんが代表社員となり、合同会社ねっかを立ち上げました。
米焼酎「ねっか」は、日本酒のような吟醸香が特徴
ねっかさんの看板商品、米焼酎「ねっか」は日本酒のような吟醸香が特徴とのこと。
焼酎は日本酒と違い蒸留して作るお酒なので、蒸留して抽出したお酒には吟醸香は出ないものだと一般的には考えられています。
「でも低温で蒸留すると、その香りがお酒に出たんです。この低温での蒸留は大きな蒸留器では難しいため、小さな蒸留所ならではの香りと味が出せていると思います」
「また、ここ只見ならではの利点もあって、冬場気温が下がるので、蒸留した気体が液体へと戻る熱交換率がいいんです。そもそも初めから米焼酎を作ろうとしたわけではなく、お米を使ったお酒造りで新規参入できそうだったのが焼酎だったから…という理由なのですが、何かといい条件が揃いました」
と脇坂さん。
取材に伺った時はちょうど仕込みの時期で、仕込み終わったタンクの中からは、ポコポコと小さな音が聞こえてきました。
「お酒って生き物なんですよね。元々ものづくりが好きだったので、こうやって酒造りに携われて幸せです。いろんな免許も取得したので、いろんなお酒が作れますしね。興味が尽きないです」
と、脇坂さんは楽しそうに仰っていました。
新潟県内にできるかも?ねっかの拠点
取材の途中で脇坂さんが
「只見の人は新潟大好きですよ。買い物も長岡に行きますもん。会津若松に行くのと時間変わらないですから」
と仰ったことにビックリ。そうなんですね!山を越えて、新潟に来てくださっていたんだ!
「八十里越街道が開通したら、もっと近くなりますもんね。ねっかも新潟に拠点を持とうかな…と考えているんですよ。首都圏を除く100万人の商圏って、仙台か新潟ですもんね。仙台は車で4時間かかるから、新潟の方が現実的です」
とのこと。うれしいです!楽しみです!
日本酒のような香りの米焼酎
米焼酎「ねっか」の吟醸香、家に帰って楽しみました。
本当にいい香り。日本酒のような香りだから、日本酒のようなつもりでグッと飲んでしまったのですが、めちゃくちゃ強いお酒でした(笑)。そりゃそうですよね、蒸留酒だからウイスキーと同じくアルコール度数が上がるんだ。日本酒のアルコール度数は15度前後、米焼酎「ねっか」は25度でした(笑)。
注いだもの全部は飲みきれなくて、しばらくこのまま置いておいたら、部屋全体にいい香りが漂っていました。これもまた、いい楽しみ方かも。
脇坂さん、いろんなお話をお聞かせいただきありがとうございました! どの記事を読んでも分からなかった、脇坂さんがねっか代表になられた経緯と思いを教えてくださり、うれしかったです。今度は新潟のねっか拠点でお会いしたいです。ねっかの新潟進出、待ってます!