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豊かな水が生む美しさ。 藤岡染工場の女性職人さんに聞いた 染物の魅力とこれから。

豊かな水が生む美しさ。藤岡染工場の女性職人さんに聞いた染物の魅力とこれから。

あがのagano

越後亀紺屋 藤岡染工場 (ふじおかそめこうじょう)さんの自己紹介

寛延元年(1748年)創業の阿賀野市水原エリアにある染工場です。受け継がれた昔ながらの技法で、手ぬぐいをはじめ、前掛け、法被などの染物を製作しています。手ぬぐいは、「新潟県伝統工芸品」として2022年に認定をいただきました。伝統を守りつつ、今の生活に溶け込み、「使ってみたい」と思っていただけるようなものづくりを目指しています。2021年12月18日に藤岡染工場の店「かめこんや」をオープンしました。私たちが製作している染物をお手に取って、肌で感じていただけるとうれしいです。ぜひお越しください。

新潟市から国道49号線を福島県・会津若松方面へ車で40分ほど行くと、江戸時代に幕府直轄領として代官所(今で言う役所)が設けられ、栄えたまち「水原(すいばら)」があります。今は阿賀野市に属し、白鳥飛来地の「瓢湖」が有名な場所です。

その代官所があった頃からこの地で染物を行ってきた「藤岡染工場」さん。五頭山から流れる小川の豊かな水を使用し(今でもこの小川から水を引いて使っているそうです)、お祭りの法被や手ぬぐい、前掛けや暖簾などの染物を作ってらっしゃいます。

(工場内の1番日当たりと風当たりの良い部屋で乾燥中の手ぬぐい。)

2021年12月には、工場併設の小売り店舗「かめこんや」をオープン。手ぬぐいを始めとする染物グッズを販売されており、染物の新しい魅力を発信されています。今回はこの「染物の新しい魅力発信」の立役者であり、藤岡染工場の伝統技術を引き継ぐ後継ぎとしてご活躍中の、染物職人の野﨑あゆみさんにお話を伺いました。

(染物職人の野﨑あゆみさん。工場併設の小売り店舗「かめこんや」にて。)

染物職人になろうと思ったきっかけ

藤岡染工場の次女として生まれた野﨑さん。長岡造形大学で産業デザイン(印刷物など商業に関わるデザイン)を専攻されていました。家業として染物の現場も染物もずっと見てきたものの、そこにデザイン性を感じたことはなかったと言います。てっきり大学でデザインを勉強されたのは、家業のことを考えてなのかな、と思っていたので少し意外でした。

「染物職人になろう、家業を継ごうと思ったきっかけは、大学でテキスタイル(染色)の先生に出会ったことです。授業の一環として履修しただけなのですが、そこで改めて、紙ではなく布を染めて表現するデザイン、ものづくりのおもしろさに気付いたように思います」

と野﨑さん。

この先生とは卒業後もお付き合いがあり、長岡造形大学の学生さんが考えたデザインの手ぬぐいを作る取り組みも、ずっとこの先生が監修してくださっているそうです。

職人さん大喜び

大学の授業で、偶然にも家業の染物の魅力に気付いた野﨑さん。大学卒業と同時に藤岡染工場に就職し、当時60歳を超えていた藤岡染工場の職人さん3人の元で修行を始めます。「藤岡染工場の技を知る人から学ぶ時間は限られている」と思い、別の染物屋さんでの修行は選ばなかったそうです。

「私が染物職人になる、家業を継ぐ…と決めた時、この3人の職人さんがとにかく喜んじゃって、大騒ぎでした(笑)。うちの父も母も職人としての技術は伝承しなかったので、3人としては、私が職人として技を継いでくれることがうれしかったみたいです」

しかし職人の世界は甘くなく、何よりも「大学で習ったものとの違い」に戸惑ったそうです。

「大学で習った染物は一般的かつ比較的近代的な方法で、藤岡染工場のやり方とは違う部分がたくさんありました。まず、大学で習ったものは、基本的に材料がそろった状態から始めるのですが、うちだと、材料の糊から作るんです。…それも手作りだったの!?とビックリしました」

と野﨑さん。

糊1つにしても、藤岡染工場ならでは作り方があり、それが藤岡染工場の染物の風合いに影響してくるんでしょうね。だから、野﨑さんもあえてそれを変えず、伝統を守って引き継ごうとされている。

他にも「藤岡染工場だけに伝わる技」がたくさんあり、その1つ1つを3人の職人さんから教えてもらう毎日。もちろん記録は何も残っていなかったので、1つ1つ口伝で教わりながら、確かめながら、数値化できるものは数値化し、記録に残す…という繰り返し。この修行は10年ほど続いたそうです。

染工場の現場は、まるでタイムスリップしたかのよう

野﨑さんが修行を積み、今も職人の皆さんが作業をされている染工場。その一部を拝見しました。

(手ぬぐいを染める台。右手の霧吹きの下の大きな桶の中には大量の糊が入っています。)
(ひしゃくのような形をしたものは、細長い口から染料を注ぐ薬缶(やかん)と呼ばれる道具。)
(外からの柔らかな光。右のタンクのようなものはボイラー。)

写真から伝わりますか?工場の一角は、タイムスリップしたような空間でした。さすがに江戸時代からこのまま…なわけではないと思うのですが、明らかに年季の入った道具があちこちにあり、それを大切に使ってらっしゃることが分かりました。

(工場の片隅の棚に置かれた、手ぬぐいの型紙。雪かきしてる。かわいい…。)

もちろん型紙も手作り。切り絵の要領で作ります。
ここ藤岡染工場の職人さんは染めの工程だけでなく、このような型紙作りもされるそうです。後から他の職人さんにお話を聞いた時に、「飽きないから楽しい」というお話が出たのも納得です。いろんな工程を全部自分たちでやるから、「ものづくりの楽しさ」はひとしおでしょうね。

現在5名の職人さんのうち、4名が女性!

そうなんです。藤岡染工場さんは、女性職人さんが多いのです。現在野﨑さんを入れて職人さんは5名。うち4名が女性。特に意識して採用活動をしたわけではなく、なぜか募集をかけると女性が集まってくるそうです。野﨑さん以外の3人の女性に、なぜこの染物職人の世界に足を踏み入れたのか?その経緯や思いを伺いました。

おひとり目は入社11年目の斎藤優子さん。3人の中では1番先輩です。
学生の頃から手ぬぐい愛用者で、3人の子どもの子育てにも手ぬぐいを活用していたと言います。ちょうど3人目がお腹の中にいた頃、雑誌で藤岡染工場さんのことを知り「地元に大好きな手ぬぐいを染めているところがあったんだ…!」と驚き、早速お店へ行って手ぬぐいを購入。

「3番目の子は、ここの手ぬぐいで育ちました」

と斎藤さん。

この3番目のお子さんを出産直後に、どうしても自分で手ぬぐいを作りたくなって、履歴書を持ってお店に行ったそうです。

「電話だと、絶対に断られると思って(笑)」

素晴らしい行動力!(笑)。

「染物は同じことの繰り返しではなく毎日変化するので、飽きなくて楽しいです。作業内容も多岐に渡り、ものづくりの楽しさが詰まっています。上手くいかなかった時もその後の試行錯誤で、自分で答えを見つけ出していく過程が楽しいですね」

おふたり目は入社9年目の阿部紗也さん。
デザインの専門学校を卒業後「ものづくりに携わりたい」という思いと「職人への憧れ」があり、就職活動中に藤岡染工場さんのことを知り応募したそうです。

「地元で伝統的なものづくりに携われることが1番の魅力でした。“職人への憧れ”は、なんとなく、全く知らない世界、想像がつかない世界だから楽しそうだな、と(笑)」

おひとり目の斎藤さんもこちらの阿部さんも、どうやらなかなかのパワフルウーマン(笑)。

最後は入社5年目の中澤聡恵さん。
美術系の専門学校を卒業後、地元の水原を離れてホテル勤務をされたそうです。ただ自分の性格が1つのことに集中して取り組み「1点集中型」であることを勤務を通して再認識し、「地元で、ものづくりがしたい」と思い転職活動を始めたところ、藤岡染工場さんの求人を見つけたそうです。

「私は本当にこの辺り、水原出身なんですが、染工場があることを全く知らなかったんです。どんな仕事かどんな会社か、分からない部分も多くありましたが“やってみなきゃわかんないな!”と思って、この世界に飛び込みました。やっぱり、ものづくりは楽しいな…と思う日々です」

まだまだこれから、もっと知ってもらう段階

3人のお話を聞きながら苦笑いをしていた野﨑さん。
どうしたのかな?と思ったら…

「そうなんですよね。みんな地元の人たちだけど、藤岡染工場のことを知らないんです(苦笑)。昔からここにあるんですけど、やっぱり扱ってきた商品が法被とか手ぬぐいとか、お祭りに関係するものが多かったから、お客さんが限定されていたんでしょうね。だから、広く知られることがなかったんだろうな…と」

野﨑さんのこの気付きは、今、藤岡染工場のものづくりの指針を作るきっかけとなりました。その指針とは「日常に取り入れやすい染物を作る」ということ。日常使いしやすい柄であったり、小物であったり、時代の流れを意識した商品を、伝統技法を用いて作る。それが伝統を絶えさせず、多くの人に知ってもらうことにつながる。

工場併設の小売り店舗「かめこんや」さんには、そんな日常使いできる染物商品がたくさん並んでいます。

「まだまだこれから、もっと知ってもらう段階なんです。地元の方々にも私たちの存在をもっと知ってもらいたいです。日常使いできるものであれば、それが実現できるかなと思い、まずは“自分が日常シーンで使いたいもの”を基準に商品開発を行っています」

オリジナル柄の手ぬぐい制作など、オーダーメイドに関しては、デザインは全て野﨑さんが対応されるそうですが、その他の新商品のデザインは、必ず職人さんにもアイデアを出してもらうとのこと。

「作り手である職人ならではのデザイン・発想が必ずあると思っているので」

と野﨑さん。
職人さんも自分のデザインしたものが商品になることが、やりがいにつながり良い循環を生み出だすそうです。

作り手の息吹が感じられる売場

「かめこんや」さんの店内に入ったら、ぜひ注目していただきたいのが店内備品の数々。よーく見ると、商品台が見慣れぬ形をしています。

例えばこちらの商品台。昔使っていた、布を置いて染料を染み込ませていく「染め台」だったもの。店舗リニューアルの際に、店舗デザインを担当した方がいろいろとアイデアを出してくださり、それらの古い道具が姿を変えて店舗に存在しています。

「せっかく工場が隣にあるので、ただ売るだけのお店ではなくて、ここで作っているんだということを感じてもらえるお店にしたかったんです」

と野﨑さん。

とっても素敵です。
作り手の息吹が感じられる売場。
お店に行ったら、ぜひこの辺りをじっくりと見てみてください。お店の方に「これは何ですか?」と聞けば、丁寧に教えてくださいます。

野﨑さん曰く
「お客様の声を直接聞く場を設けたくて、今でも職人が交代でお店で接客をしています」
とのことなので、今回取材に応じてくださった職人さんたちにも会えるかもです!

藤岡染工場さんの特別なこと
ものづくりの楽しさと
伝統を守り伝えること
お腹いっぱい頂きました!
ごっつぉさまでしたー!!

藤岡染工場さんの#マイごっつぉ

御菓子司 最上屋の「三角だるま最中」

藤岡染工場の染物職人、野﨑あゆみさんの「マイごっつぉ」は、染工場さんから徒歩30秒(野﨑さん談)の御菓子司 最上屋さんの「三角だるま最中」。阿賀野市水原地区の伝統工芸玩具「三角だるま」を模した最中。赤色と青色の包みの中は同じで、どちらも紫蘇餡の最中だそうです。ご近所の最上屋さんには、小さな頃からお菓子を買いに行っていたという野﨑さん。「他のお菓子もおいしいのですが、この三角だるま最中は大人になってから余計においしく感じるようになりました。地域の伝統工芸がモチーフになっているところも好きです」とのこと。ひょうきんな表情も愛くるしく、お土産にぴったり!藤岡染工場さんに立ち寄った際はぜひ、最上屋さんにもお立ち寄りください(´▽`)

手ぬぐい

藤岡染工場の染物職人、斎藤優子さんの「マイごっつぉ」は、「手ぬぐい」。「裏表のないところ」が一番のお気に入りポイントだそうです。染料を生地の上から注ぎながら染める「注染(ちゅうせん)」という技法で作ると、裏表のないものができ上るそうで、もちろん、藤岡染工場さんの手ぬぐいもこの技法で作られています。斎藤さん曰く「昔から手ぬぐいを首に巻いたりして、ファッションとして楽しんでいましたが、その時にどちらが裏か表かを気にしなくていいのが便利だなと思いました。また、日本らしいな、とも思いました。スカーフやタオルは必ず裏表がありますもんね」と。確かに、言われてみるとそうですね。裏表のない潔さ、粋な雰囲気が手ぬぐいにはありますね!

藤岡染工場のシンボル「ふぢまる」

藤岡染工場の染物職人、阿部紗也さんの「マイごっつぉ」は、藤岡染工場のシンボル「ふぢまる」。写真では、奥の社屋の壁にある白いマークで、藤岡染工場さん併設の売店「かめこんや」さんの暖簾やホームページなどにも掲載されているシンボルマーク。「ふぢ」という文字が丸で囲まれたマークなので「ふぢまる」と呼んでらっしゃるそうです。この写真は「このシンボルマークとカラフルな手ぬぐいが青空に映えて、気に入っている1枚です」とご提供くださいました。さすが江戸時代から続く染物工場さんらしい、粋なシンボルマーク!藤岡染工場さんの製品のパッケージなど、あちこち使われているマークなので、ぜひ見つけてみてください「ふぢまる」を✨

通勤途中に見る「五頭山」

藤岡染工場の染物職人、中澤聡恵さんの「マイごっつぉ」は、通勤途中に見る「五頭山」。朝日が五頭山から昇るので、朝日を浴びる五頭山を見ながらの通勤は特別な時間だそうです。またこの写真のように、麓に広がる田んぼが黄金色に輝く秋には、一段と神々しく美しい風景が広がり、しみじみと良いところだなと思うそうです。「一度離れて戻って来たことで、余計に感じるようになったのかもしれませんが、このゆったりとした地元の雰囲気が好きです。ものづくりにも、お客様ひとりひとりにも、じっくりと向き合えるので」と中澤さん。美しい風景だけでなく、この空気感も“ごっつぉ”なんですね。

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