
堀口 一彦 (ほりぐち かずひこ)さんの自己紹介
東京生まれ、横浜・千葉育ちです。建設コンサルタント関連の会社に12年間勤務した後、青年海外協力隊員として南米ベネズエラへ渡りました。帰国後は会津地方にIターン移住し、喜多方市山都地区グリーン・ツーリズム推進協議会、にしあいづ観光交流協会を経て、2018年に阿賀町地域おこし協力隊に。2021年4月から阿賀まちづくり株式会社の代表取締役を務めています。趣味は山登り、沢登り、釣り、旅、ウルトラマラソン、獲物を捌くこと、食べること!
PROLOGUE
新潟市から車でおよそ1時間。今回は「ごっつぉLIFE」でも何度かご紹介したことのある阿賀町へ。

阿賀町は、面積のおよそ9割を山林が占める、新潟県内でも指折りの森林の町。町には200を超える清水や湧き水が流れ、その水で育つコシヒカリは航空会社のファーストクラスの機内食に採用されたこともあるほどです。水や緑といった豊かな自然の恵みが、地域の暮らしを支えています。
そんな自然あふれる阿賀町で、ヤマビルやカメムシ、ウチダザリガニといった普通なら誰もが顔をしかめる“嫌われ者”を主役にしたイベントを、次々と企画している人がいる――そんな噂を聞きつけました。
全国放送のテレビ番組に出演し、県内の新聞やテレビ番組を巻き込み、「阿賀町のマニアックな魅力を発信している人」だそうで……これは取材をお願いせねば!ということで今回訪ねたのが、阿賀まちづくり株式会社の代表取締役・堀口一彦さんです。

堀口さんが企画する一風変わったイベントを目当てに、町外からも老若男女が阿賀町を訪れているそうです。今回は、そのイベントや活動、町の魅力を掘り起こす堀口さんの仕事についてお話を伺います!
INTERVIEW
町の人々の心を動かした企画力と行動力
堀口さんに会うためにお邪魔したのは、津川ICから数分の場所にある「阿賀まちづくり株式会社」。堀口さんは建設会社が所有している建物の一室を間借りしており、壁にチラシがびっしりと貼られ、本棚にもたくさんの本が並んでいます。


そして机の上には、手のひらよりもデカいザリガニの標本、宝石のように鮮やかなオオセンチコガネ(通称・ウンコ虫)のコレクション……なんとも妖しく、楽しい空間です。

「壁に貼ってあるのは、これまで私が企画したイベントのチラシです。もちろんほとんどが阿賀町で開催されたもの。見たことも聞いたこともないようなイベントが多いでしょう?」
と堀口さんに言われて壁のチラシを一枚一枚眺めてみると……
バッタリンピック2022(もしかしてバッタでオリンピックでしょうか?)
へくさはぴふさ(呪文でしょうか?)
ウサギ狩り体験(え!一般人が狩るんですか!?ウサギを!?)
「雪椿」発見の地探訪(あ、分かりやすいものもありましたね)
……などなど、ひとひねりもふたひねりもしたイベント名が名を連ねています。
その一部を写真でもぜひご覧ください↓↓↓



そもそも、堀口さんが働く「阿賀まちづくり株式会社」は、どういった会社なのでしょうか?
「阿賀町・津川エリアを拠点に、地域の問題解決、地域づくり、まちづくりに取り組んでいる会社です。阿賀町議だった髙橋眞也と一緒に、2020年に設立したのですが、主に髙橋が空き家活用、私が交流人口の拡大と役割を分担しています。私が阿賀町から委託を受けて運営する「あがまちファンクラブ」の企画運営が中核事業になっていて、そこでこういったイベントを年間20本ほど企画してきたというわけです」

堀口さんが阿賀町にやってきたのは2018年のこと。会津地方での観光の仕事を経てこの町に移り住み、地域おこし協力隊の隊員として、交流人口を増やすミッションを担いました。生き物や自然、文化・歴史などを主役にしたユニークなイベントをFacebookなどのSNSで積極的に発信し、じわりじわりと町外からの参加者を増やしてきました。その企画力と行動力は、いつしか町の人たちの心を動かしていきました。
「地域おこし協力隊は3年の任期を終えると、別の土地へ移る人も多いといいます。私自身も実は去る気満々でした(笑)。ですが、阿賀町の方々が『堀口に残ってほしい』と、町長に直訴してくれたと聞きました。でも、町として直接雇うのは難しいということで、髙橋が受け皿となる会社を一緒に作ろうと提案してくれたのです。『協力隊時代の3年間を評価してくださったということなら、これは頑張らないと!』と思い、今に至ります」と、堀口さんはにこやかに語ります。
嫌われ者のヤマビルだって地域の宝に!?
さて、ユニークかつマニアックなイベントの中でも有名なのが、「ヤマビル蛭蛭(ひるひる)ミーティング」です。登山者なら誰もが嫌うあの吸血生物・ヤマビルを、なぜイベントの主役に据えたのでしょうか?


「ヤマビルってね、生態系の中でほんの少し生き物から血をもらっているだけの存在なんです。でも、神様は絶対に何か役割を与えているはずじゃないですか。じゃあそれって何だろう?って思ったのが、企画のスタートですね。最初に企画書を出したときは、四面楚歌だったんですよ。『誰が来るんだ』『ヤマビルがいるなんて言ったら風評被害になるんじゃないか』って阿賀町役場の人から言われて(笑)」
それでも堀口さんは引きませんでした。正しい知識と対処法もセットで伝えるイベントとして組み立て、千葉県のヤマビル研究会の先生による基調講演と、実際に山へ入る実地観察をセットにした構成は、初回から想定以上の参加者を集めました。共同通信に取り上げられて毎日新聞など全国の新聞に記事が広がり、さらに「月曜から夜ふかし」といった全国放送のテレビ番組でも紹介され、阿賀町の名前を全国に届ける起爆剤になりました。

「これが一発当たって、僕がやることに対して『まあ堀口がやるなら』って雰囲気になりましたね(笑)。神様がヤマビルに与えた役割って何だろうと、参加者の皆さんで宴会しながら考察するのがまた楽しいんですよ」
その後も、特定外来生物のウチダザリガニを味わう「奥阿賀ロブスターパーティー」、宝石のように美しい糞虫(オオセンチコガネ)の観察会、捕まえてきたバッタを飛ばした距離を競う「バッタリンピック」、ツキノワグマのことを正しく知って、正しく恐れる「ツキノワ熊熊ミーティング」……見たことも聞いたこともないイベントが続きます。最近の主戦場は、親子で楽しむ自然体験イベント。「バッタリンピック」では内気な子どもが優勝してドヤ顔になる――そんな小さな自信づくりの場にもなっているそうです。

「虫とか熊って、一般的にはマイナスのイメージでしょう?マイナスのものって、誰もやらないから手垢がついていないんですよね。誰もやっていないマイナスイメージのものにほど、実はチャンスが眠っている。『田舎には何もない』なんてことは絶対ない。むしろ宝物がいっぱいなんです」
他にはない企画は、人脈・知識・行動から生まれる
「誰もやってないマイナスイメージのものにほど、実はチャンスが眠っている」と語る堀口さん。そんなユニークな企画の切り口を、堀口さんはどう見つけているのでしょうか。その秘訣についても尋ねてみました。
堀口さん流・ユニークな企画の立て方は
1. まずは町をくまなく回る。見る、感じる、読む、調べる。
2. 地元の方との雑談にこそ大きなヒントがある(宴会ならなお良し)。
3. 教育委員会や公民館主催の町民向け講座に参加し、ネタ探しと人脈づくり。
4. 集落の伝統的な祭りに参加し、文化理解と人脈づくり。
5. 興味を抱いたら、すぐ図書館で町史や郷土誌を読み漁る。
とのこと。
「集落の方とお茶を飲んでいたら、『うちの村にはこんなのがある』なんて話が出てくる。『え、どういうことですか?』って食いつくと、相手も嬉しそうに話してくれる。それを持ち帰って図書館で徹底的に調べ上げ、もう一度その方のところへ行く。すると『お前、本当に興味あるんだな』って、もっと深い話をしてくれるんです」
ネタを得たら、最初に話してくれた人を“主役”としてイベントを立ち上げる。「いや、俺なんか」と渋る地元の方を「もう僕に話してくれた内容でバッチリですから」と粘り強く説得し、講師としてデビューしてもらう。地域の方にとっては、自分の知識や経験が何かに活かせる機会にもなるというわけです。
そして、イベントの柱は大きく分けると、自然系(昆虫・動物・地質)と歴史系(街道、伝説、神社仏閣)の二つ。平安時代末期の皇族、高倉宮以仁王(たかくらのみや もちひとおう)が阿賀町まで逃れてきて亡くなったという地元伝説など、堀口さんが「大好物」と語る歴史ネタも徹底的に調べ上げます。会津と越後の交差点として育まれた阿賀町の歴史は、堀口さんにとって尽きることのない宝の山です。

「阿賀町って実は、高齢化率も人口減少率も人口密度の低さも県内トップクラスなのです。でも、人口密度が低いってことは、自然が豊かで、空気がおいしくて、人より動物の方が多いってことでもあります。雪深いのも、除雪は筋トレだと思えばいい。見方や考え方を変えれば、全てプラスになるんです」
堀口さんの話を聞いていると、世の中にはこんなにも面白さに満ちているのか!と、視界がパッと開けるような感覚になりました。深く掘れば光るものがある。それは阿賀町そのものの姿にも重なります。
後編では、堀口さんの人生と独自の哲学に迫ります。お楽しみに!








