田実さんと 小川さんの自己紹介
田実 智幸(たじつ ともゆき)さん
埼⽟県出⾝。大学卒業後はJOCV(⻘年海外協⼒隊)でブルキナ・ファソや、UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)のアルメニアでの勤務など、20 以上の国で貧困削減を切り⼝に仕事をしてきました。結婚し、家族が増えたため転職を考えていた時、JOCVの同期から誘われたのが地域おこし協⼒隊です。下見で訪れた阿賀町で「いいところだなぁ。こういうところで⼦育てしたいな」と思ったのが移住の決定打。2019 年に阿賀町へ移住。現在は、「かわみなと」の副代表理事として 3 つの施設を管理・運営しています。
小川 愛媛(おがわ えひめ)さん
神奈川県出⾝。早稲⽥⼤学教育学部に在学時、現かわみなと代表の⻄⽥が選書に携わっていた川崎のブックカフェで西田と出会い、意気投合。大学卒業後は都内でIT系の営業職に就職。社会人2年目が終わるタイミングで「新潟で新たに複合施設を一緒に立ち上げてくれる人を探している」と西田から声を掛けられ、2021年9⽉に地域おこし協⼒隊として阿賀町に移住。2022 年1⽉に「⾵⾈(かざふね)」オープンを迎えました。仕事終わりは毎⽇温泉に⼊れて、町の人も優しくてアットホーム。⽇本酒も⾷事もおいしい阿賀町の暮らしを満喫しています。
【代表の西田さんとは?】
取材当日は残念ながらお会いできませんでしたが、かわみなとの代表理事を務める西田卓司さんのこと。2019年から阿賀黎明高校魅力化プロジェクトに携わる、魅力化ジェネレーターとしても活動されています。
PROLOGUE
江戸時代に会津藩の西の玄関口として栄えた阿賀町津川。
人々は会津街道を通って物資を運び、津川から新潟までは阿賀野川の水運を利用していた歴史があります。
最盛期には150隻以上の舟が河港を出入りしていたそうですから、たくさんの人々の往来があったのでしょう。
先人たちの暮らしに思いを馳せながら、新潟と会津をつなぐ国道49号線から麒麟橋を渡って旧道へ。
道中には会津街道「石畳の道」がありました。
訪れたのは、しごと・まなび場 with ブックカフェ「風舟」。
ブックカフェ&コワーキングスペースとして営業しているようですが、利用の仕方はそれだけではないのだとか。
まずは施設内をぐるっと一周してみましょう。
木の温もりが感じられる施設内は、天井が高く、窓の外には山々を望む雄大な景色が広がります。
元々は町の直売所だった建物に、小上がりや2階建て本棚を新設してできた空間。
風舟では、自家製メニューが充実したカフェを楽しめる他、本棚から気になる本を手に取って読むことも、集中スペースでコワーキング利用もできます。
カフェといえば気になるコーヒー!
風舟では、目の前で営業する津川温泉で自家焙煎されたコーヒー豆からコーヒーを淹れているそうです。
広いテーブル席、ハンモック、2階席、小上がり席もありましたが、この席が一番気持ち良さそうでした。
山々を眺めながら自家焙煎コーヒーを味わえるなんて……最高ですね!
階段を登った先まで本が並んでいます。
「冬には小上がりにコタツが出て、人気席になるんですよ」と小川さん。
地元の若い子たちが取り合いしている様子を思い浮かべてしまいました(笑)。
電源、Wi-Fi、フリードリンク付きの集中スペースは、2時間500円から。
集中スペースの窓の外にも圧倒的なスケールの自然美があり、もはやこの景色を眺めに行きたくなっちゃいます。
10〜20代の若者を中心に、子ども連れの親子、温泉利用客など、幅広い世代の人々が集まる風舟。
どのような経緯で出来上がったのでしょうか……?
INTERVIEW
3つの事業で町の課題解決に挑む。
出迎えてくれたのは、2019年に阿賀町へ移住された田実智幸さんと、2021年から地域おこし協力隊の一員として活躍する風舟店長の小川愛媛さん。
夏は川遊び、冬はスキーを楽しみ、地元の方々からは採れたて野菜や釣りたての鮎をいただくこともあるという阿賀町での生活。
「人が温かくていい町ですよ!」とおふたりとも笑顔で話していたのが印象的でした。
おふたりが所属するかわみなとは、風舟の他にも「清川高原保養センター」と「緑泉寮(りょくせんりょう)」という施設を運営しています。
「2016(平成 28)年に、県⽴⾼校と協働で地域活性化に取り組む『⾼校魅⼒化プロジェクト』が阿賀町の阿賀黎明⾼等学校で動き出し、その⼀環として公営塾(黎明学舎)がつくられました。
あと足りないのは、町外から生徒を集め、住んでもらうための学生寮。
寮が出来れば⾼校の存続につながり、魅⼒ある町づくりにもなる。
阿賀町役場の職員さんと、かわみなと代表の⻄⽥、そして私の3⼈で『こうなったらいいよね』と妄想しながら⽣まれたのが緑泉寮です。
津川温泉 清川⾼原保養センターの使われていなかった 2 号館をリニューアルして寮にしました。
町の⼈⼝が減少傾向にあり、高校の存続も危ぶまれるこの町で『何かできないか』と始めたのがこの計画です」
学生寮ができたことで町内外から阿賀黎明高等学校への進学希望者を募れる「地域みらい留学」制度へ参画。
遠方では愛知県や宮城県からも希望者が阿賀町へ留学・移住することが実現し、今では3学年18名の生徒が緑泉寮で生活を共にしています。
3つの施設運営を担うために⽴ち上がったかわみなと。
「昔、阿賀町津川にあった河港のように、人・物・情報が集まり、そこから何かが⽣まれるような場にしたい」という想いが込められているそうです。
「寮には町外から⾼校⽣が来て、温泉には旅人の⽅が町外からいらっしゃる。
そして、場所を問わず働ける方が利用できる施設として⾵⾈ができました。
⼈と⼈をつなぎ、出会いと交流の場を創り出すこと。
それが、私たちの役割です」
学生と大人をつなぐ、風舟での時間。
風舟オープンから1年半。
最近では、接客や片付け、イベント準備まで手伝ってくれる利用者が増えてきているようです。
「私が忙しそうにしていると、お客さんとして風舟を利用していた学生や常連さんが、いつしかクローズ作業を手伝ってくれたり、私の代わりに風舟の案内をしてくれていたりするんです。
今ではそんな光景が風舟らしさになりつつあります。
風舟をただ利用してもらうだけでなく、学生や常連さん、それぞれが自然な関わり方で風舟の運営に関わることで、人との出会い、学び合いの機会になったらいいなと思っています。
自分の言葉で風舟を伝えてくれる人が増えていってくれることが、より多くの人に風舟を知ってもらうことにもつながるはずです」
「町外から移住している学⽣たちにとって、見知らぬ地での⽣活は慣れるだけでも⼤変。
まずは、彼らの⽣活を確⽴した上で、慣れてきたら少しずつ地域に出てボランティア活動や地域の⽅々との活動を進めます。
地域の方も、若い子が何かをやろうとすると、さりげなく寄り添って力を貸してくれるんですよ。
ここで苦楽を共にした仲間がいて、ここでしかできない経験をしていると、第⼆の故郷のように感じられるはず。
いつか阿賀町に何らかの形で帰ってきてくれたらいいなと思っています」
風舟を一緒に盛り上げてきた緑泉寮の一期生たちが卒業を迎えるのは2024年春。
田実さん、小川さんのように、次世代を担う活躍を見せてくれるのではないだろうかと期待に胸が高鳴りました。
EPILOGUE
風舟が、町に新たな息吹をもたらす。
風舟では、「緒(いとぐち)=であい」をテーマに、一箱本棚オーナー制度の本棚も取り入れています。
本棚を所有しているオーナーは現在15名。
町内外から参加者が集まり、思い思いの本を詰め込んでいました。
「ワイン好きなのかな?」と思わせる本棚があれば、登山関連の本棚、お気に入りの小説やビジネス本が並ぶ本棚など、個性が光ります。
図書館のように手に取って読めるのはもちろん、値段の付いているものは購入も可能。
年に3回ほど、風舟を会場に「一箱古本市」が行なわれ、本棚を持つオーナーさんとのコミュニケーションの場にもなっているそうです。
「一つの本箱を通じて、意外な発見や出会いを楽しむことができます。
⼀箱古本市には⾼校⽣にも参加してもらっていて、本を売ったり、イベントを企画したり、店員の体験をする機会にもなっているんです。
学⽣たちの社会経験という側⾯も、このイベントにはあります。
2023年10 ⽉ 15 ⽇(日)に開催予定の古本市は、リニューアルした内容で計画中。
これまでは⾵⾈主催のイベントでしたが、今後はかわみなとの 3 事業それぞれの強みを活かした企画にしていく予定です。
ばらばらに認識されていて、上⼿く発信できていなかった各施設、このエリアが、⼀体となって⾏うマルシェ。
その辺りにも注⽬していただけたらうれしいです」
「地域の人だけではできないことを、地域外の⼈と進めています。
課題の多い阿賀町はとても働きがいがあります」
おふたりのお話を聞いていたら、私もこの町で暮らしたくなりました!
かわみなとが実践しているのは、“ただ町に人を呼ぶためのきっかけづくり”ではなく、“町に新たな息吹をもたらす活動”。
今まで実現されなかった社会課題への挑戦が、風舟にはありました。
阿賀町が5年後、10年後にどんな町になっているのか……!
ワクワクしますね。
本を読む、景観を楽しみながらティータイムを過ごす、仕事をする、イベントに参加する。
多彩な過ごし方ができる風舟に、遊びに行きましょう!
NEXT EPISODES
町を動かす、御神楽温泉の看板女将
最後に、阿賀町の魅力的な人をおふたり、田実さんからご紹介いただきました。
1人目は、阿賀町上川で「御神楽温泉 ブナの宿 小会瀬」を経営する長谷川智子さん。
⽥実さんが観光分野で地域おこし協⼒隊として阿賀町に来て2年目の頃、インバウンド誘致を促進するため「阿賀町農泊推進地域協議会」を立ち上げました。
そこで会⻑を担ってくれたのが⻑⾕川さんだったそうです。
「社⻑であり、⼥将でもある⻑⾕川さんは人間味あふれるとっても魅力的な方です。
よそ者の私を快く受け入れていただき、協議会の取り組みを一緒に作っていただきました。
阿賀町のことは何でも知っているので何かあるとすぐ長谷川さんに相談をさせていただきます。
家族ぐるみでもお世話になっていて、お宿も魅力たっぷりですよ」
宿を経営されながら、阿賀町に多大なる貢献をされている人物。
何だか、おもしろいお話がたくさん出てきそう!
山菜がジェラートに!?地元民愛用の人気店
2人目は、津川地区農林水産物直売所のお隣で営業する、手作りジェラートの店「Refeli(レフェリ)」の石川英理香さん。
「阿賀町の⾷材を活かしたジェラートはとても人気なので、うちの温泉でも販売しています。
季節によってラインナップが変わるので、⾏くたびに新しい味と出合えますよ。
僕が⼀番好きなのは『しおいちご』。
ほんのり塩味がイチゴの甘みを引き出します。
コゴミやフキノトウなど、阿賀町の⼭菜を使ったジェラートにもきっと驚くはずです」
ちなみに、小川さんからは「ヨモギがおいしいですよ」とのご意見も!
今まで味わったことのないジェラートと巡り会えそうです。