
河口 晶 (かわぐち あき)さんの自己紹介
京都出身です。夫の仕事の都合で札幌、岐阜、福岡、徳島と各地で暮らし、徳島では「だしソムリエ」として料理教室や商品作りに携わっていました。夫の仕事をきっかけに佐渡へ移り、2025年9月からスマイルファームで働いています。guesthouse UZU佐渡では、ゲストハウス運営や農泊・体験作り、食の加工にも関わっています。
PROLOGUE

「佐渡島の金山」がユネスコ世界文化遺産に登録され、今年7月で丸2年になりました。「ごっつぉLIFE」の佐渡取材で、久しぶりに朝一番のカーフェリーに乗りましたが、観光シーズンということもあり、船内は人・人・人〜!さまざまな言語が飛び交い、以前に比べて、着実に観光客が増えているのを実感しました。
年々注目を集めている佐渡ですが、国内外から訪れる観光客が増えるなか、佐渡島内のホテルや旅館、民宿といった宿泊施設を取り巻く環境も、少しずつ変化を見せています。世界遺産登録の年となった2024年度には、佐渡市内の旅館業の許可申請が前年度の6倍近い29件に増加しました。住宅を宿として活用する民泊も、2022〜2024年度は毎年5〜7件の申請があり、島内では宿泊の選択肢を広げる動きが活発になっているそうです。(旅館業の許可申請数:新潟県佐渡地域振興局調べ)
そうした中で、注目を集めているのが、ゲストハウスと呼ばれる宿泊施設です。ゲストハウスとは、宿泊者同士が交流しやすい共有スペースなどを備えた、比較的シンプルな宿泊施設のこと。ホテルより設備やサービスを簡素にし、その分、地域の暮らしや人との交流を楽しめるところも多いのが特徴です。

実は今回取材にお邪魔したのも、佐渡のゲストハウスです。世界遺産登録より一足早い2022年6月21日にオープンした、佐渡市貝塚にある「guesthouse UZU佐渡」です!今回「つなげる人」としてご紹介するのは、こちらを運営する株式会社スマイルファームの河口 晶さんです。
「guesthouse UZU佐渡」は、古民家を活用したゲストハウスで、両津港から車で15分ほど。和室や共同キッチンなどがあり、佐渡で購入した食材を自分たちで料理して楽しむこともできます。さらに、建物の外にはバーベキュースペースも!ゲストハウスの隣には、加工場と思われる施設もありました。
なぜここに加工場が……!?どうやら泊まるだけではない“何か”がありそうです。
今回は、UZU佐渡で佐渡の食材を使った商品作り・加工、宿の運営、さらに農泊や体験の企画にも携わる河口さんに、お話をお聞きしました。
INTERVIEW
デジタルから食、そして宿へ。佐渡の魅力をつなぐ仕事
まず気になったのが、UZU佐渡を運営する「スマイルファーム」という会社。ゲストハウスなど宿泊業関連の会社かと思いきや、デジタルマーケティングやWebサイト制作などを手がける会社で、新潟県加茂市にオフィスを構えています。そこからなぜ、佐渡で「食」と「宿」の事業が始まったのでしょうか?
「代表を務める安達里枝が、農家に嫁いで、農産物をどう売っていこうかと自分でホームページを作ったことが始まりです。今は企業のWebや広報のお手伝いが中心ですが、安達は食への探究心がとても深くて、佐渡に来た際に、食材や地域の豊かさに惚れ込んだそうです」と説明する河口さん。

河口さんによると、安達さんは「佐渡にはこれほど豊かな食材があるのに、新潟県内でもまだ十分に知られていない」と感じ、もっと食を通して、佐渡と県内外の人をつなげていきたいと考えたそう。そこで始まったのが、佐渡の食材を県内外の事業者へ届ける卸の仕事でした。
「最初は佐渡の食材を届けるところから始まったそうです。でも、食となると実際に食べてみないと、本当の良さは分からないものですよね。それだったら佐渡に来て、ここで食を楽しんで、『また来たい』と思ってもらえる場所があったらいい。そんなハブとなる場所にしたいということで、UZU佐渡が誕生したんです」

なるほど!食材を「売る」だけではなく、産地へ来て、味わい、佐渡そのものを楽しんでもらう。そのための拠点がUZU佐渡ということですね。

現在、UZU佐渡ではゲストハウスや食品加工の仕事に加え、農泊・体験作りも進めています。河口さんは2025年9月にスマイルファームに入社し、主にUZU佐渡での食品加工を担当。ただし、河口さんを含む数人で運営しているため、宿の仕事も、生産者とつながる仕事も、担当ごとにきれいに線引きされているわけではありません。
「確かに、デジタルから始まり、食材の流通、加工、宿泊、食を通じた体験といろんなことをやっているように思われてしまうかもしれません。ですが、一見バラバラに見える仕事でも、実は『佐渡の食を知ってもらう』という一本の軸で、ぐるりとつながっているんですよね。UZU佐渡は『食』をキーワードにしたゲストハウスなんです」
捨てられる果物を、おいしい商品へ。加工で新しい価値を生む
食を軸に多角的に事業を展開しているUZU佐渡ですが、河口さんが中心となって取り組んでいるのが「加工」の仕事です。
その代表的な商品が、佐渡産の果物などを使った「やみつきビスコッティ」。ビスコッティというと、ザクザクッとした硬い食感でお馴染みのイタリアの伝統的な焼き菓子ですが、これに佐渡で採れた旬の果物とかやの実を使っています。取材クルーも「やみつきビスコッティ」をいただきましたが、果物のほんのりとした甘みとかやの実の野生味ある香り、佐渡産の塩をきかせた甘じょっぱい風味で、「おいしい!」「コーヒーと一緒に食べたい」との声が上がりました。
ちなみに、かやの実は全国でも自生している場所が限られ、大きく育つのに数百年かかる木からできる貴重な木の実です。「佐渡には自然の原生林が残り、食べることができるかやの実をぜいたくに使うことができるんです。かやの実を活用することで、かやの木を守り育てる応援ができればうれしいです」と河口さん。かやの実は、やみつきビスコッティの主役の一つなのですね!

また、果物は島内の農家から購入したものを使っています。黒イチジクなら乾燥させたり、リンゴならコンポートにしたり、レモンならジャムにしたりと、加工・保存しておけば一年中使うことができます。
「観光のお客さんが少なくなる冬の仕事にもつながります。私、佐渡に来て果物の多さに本当にびっくりしたんです。リンゴもミカンもモモもイチジクもある。しかも、おいしいでしょう。ビスコッティを食べた人に『佐渡ってこんな果物も育つんだ』と知ってもらうきっかけにしたいと思っているんです」

さらに、河口さんは加工の現場で「おいしいのに、そのままでは売りにくいもの」にも着目しています。例えば、農薬を使わず育てたレモン。皮に傷が残り、見た目の問題で売りにくくても、味に問題がなければ、加工することで新たな商品として活かすことができます。見た目に難があって、一般流通に乗りにくい“ハネモノ”と呼ばれるものですね。
きっかけは、農家さんとの何気ない立ち話にもあるそうです。「それ、捨てちゃうんですか?」という会話から始まり、昔から地域にある食べ方を聞いたり、試しに加工して一緒に食べてみたり……。すると、「この間の、おいしかったよ」「また作ってみたら」と声をかけてもらうこともあるそうです。
佐渡産の果物を楽しむ商品としては、夏季限定のかき氷もあります!こちらも取材時にいただきましたが、リンゴやイチゴなど、果物本来の香りや味が存分に活かされていました。


「私たちが思っている以上に、廃棄されてしまう食材って多いんです。それだったらこちらが買い取って、加工して商品にすれば、生産者さんも助かって、私たちの仕事にもつながり、それを食べる人にも喜んでもらえるのでは、と考えていて。自分の知識だけじゃなく、いろんな方の助言や、佐渡にもともとあるレシピも聞きながら、少しずつ作っていくイメージです。私一人の力では到底できないことです。周りの皆さんの協力あっての加工です」と河口さんは語ります。

捨てられるはずだった食材を、別の角度から見つめ直し、そこに人の知恵を重ねて、新しい商品へ。UZU佐渡の加工場は、佐渡にある食材の新しい可能性を探る場所なのです。
食を通じて、佐渡の「ファン」を増やしたい
河口さんのチャレンジはまだまだ続きます。UZU佐渡として、これから力を入れようとしているのが、農泊や食の体験です。農泊とは、宿泊しながら、その土地の食や自然に触れ、農業・漁業などを体験する旅のスタイルですが、いわれてみれば、海も山もある佐渡にぴったりですよね。
「冬の佐渡って、本当に魚がおいしい時期なんです!気候の良いハイシーズンだけでなく、宿の稼働が落ちてしまう冬にこそ、観光客を呼び込めないかと考えている最中です。冬の美味を味わってもらえる仕組みをつくり、漁師さんや佐渡の自然そのもののファンになってもらって、また佐渡に来たいと思ってもらえる体験を提供したいですね」

これまでには、収穫前に落ちたル レクチエを拾う体験、農業体験から商品作りまで、一連の流れを体験できる企画などに関わってきました。ただし、農泊はまだこれから本格化していく段階。現在は農家さんや漁師さんに話を聞き、「どんなことなら一緒にできますか?」「どんなことに人手が必要ですか?」と相談しながら、生産者の負担にならず、旅行者も楽しめる企画を練っています。

観光客のためだけに特別なことを用意するのではなく、生産者の日々の営みと無理なくつながる体験を考える。その姿勢にも、河口さんの佐渡への敬意が表れている気がしました。
さて、ここまで佐渡の食の可能性を楽しそうに語ってくれた河口さんですが……実は佐渡で暮らし始めて、まだ1年ほど。以前は徳島県で、食に関わる仕事をしながら暮らしていたそうです。後編では、河口さんのこれまでの人生と、佐渡へたどり着いた背景をさらに掘り下げます。お楽しみに。








