
河部さんと大地さんの自己紹介
河部 佳奈子(かわべ かなこ)さん(写真左)
佐渡出身。米とおけさ柿を育てる農家に生まれ、現在は実家を拠点に「ふれあえ農園」を営んでいます。米、おけさ柿、桃、シャインマスカットなどを育てながら、農薬や化学肥料に頼らない栽培に取り組んでいます。2026年からは民泊もスタート。農業を軸に、人と自然がつながる場所づくりを進めています。
大地 貴之(おおち たかゆき)さん(写真右)
新潟市出身。2016年、仕事の転勤をきっかけに佐渡へ。現在は「ふれあえ農園」で、農作業をはじめ、経理やSNSでの情報発信など、幅広い仕事を担っています。その傍ら、マッサージセラピストとしても活動しています。写真は趣味として、佐渡の自然や星空を撮り続けてきました。そしてこのたび、「自然と人を一緒に撮るカメラマン」としての活動も始めました。
PROLOGUE
前回、「guesthouse UZU佐渡」でお話を伺った河口晶さんから、「ぜひ訪ねてみてほしい」とご紹介いただき、次に向かったのは島の中央部にある金井地区です。この地域は、大佐渡山地と小佐渡山地に挟まれた国中平野に位置し、田畑がのびやかに広がっています。

視線の先には佐渡の山々、そして大きな空。そんなのどかな風景の中にあるのが今回ご紹介する「ふれあえ農園」です。
農園を営むのは、代表の河部佳奈子さんと大地貴之さんのお二人。……と思ったら、それだけではありません!玄関先には日向ぼっこをする柴犬のレオ、「誰か来たみたいだぞ」と恐る恐る近づいてくる猫、そして家の周りを自由に歩き回るニワトリたちがいるではありませんか。動物たちに囲まれた河部さん、大地さんの笑顔も穏やかです。

「昨日ね、ヒヨコが産まれたばかりなんです。ほら、見て見て!」と両手に小さなヒヨコを抱えて見せてくれた河部さん。小さな声で「ピヨピヨピヨピヨ…」と鳴いています。か、かわいい……!

ここでは人も、動物も、植物も、同じ風景の中でのんびりと暮らしている。そんな様子が伝わってきました。
「UZU佐渡」の河口さんによると、河部さんは米や果物をこだわりの農法で育てているのだとか。動物たちと暮らしながら、どういった農業に取り組んでいるのでしょうか?河部さんと大地さんに、その仕事について、そして「ふれあえ農園」についてお話をお聞きしました。
INTERVIEW
誰もが“ふれあえる”場所に
河部さんの実家は、もともと米とおけさ柿を育ててきた農家です。現在のふれあえ農園では、米とおけさ柿をはじめ、桃、シャインマスカット、野菜などを栽培しています。ブルーベリーや黒イチジクなど、新たな果樹も少しずつ植えています。

河部さんが農園全体を切り盛りしながら、農作業や民泊を担う一方、大地さんは農作業に加え、経理や確定申告、パソコン業務、Instagramでの発信などを担当しています。さらに大地さんにはもう一つの仕事が。マッサージセラピストとして、予約制で施術を行うほか、ホテルへの出張サービスにも対応しているそうです。
「経理もできますし、パソコンにも詳しいでしょう。Instagramも大地さんがやってくれているので、本当に助かっています。私にとっては“右腕”ですね」と、大地さんの存在を心強く思っている河部さん。
農業、経理、SNSでの情報発信、マッサージと、一見ばらばらに見えますが、得意なこと、必要とされることを、その都度仕事にしていく。それもまた、ここでの働き方なのでしょう。
二人で同じ仕事を分けるのではなく、それぞれの得意を持ち寄り、必要なところを補い合う関係性が、この農園の軽やかな空気にもつながっているように感じました。

そして気になるのが、「ふれあえ農園」という名前です。「ふれあい」ではなく、「ふれあえ」なのが気になっていましたが……。
「『ふれあい農園』という名前は多いので、あえて“え”にしました。 “ふれあえる”という意味にもつながっています。人と人だけで向き合うより、自然を間に置いた方が、穏やかに触れ合えることもあると思うんです。農業も、民泊での出会いもそうです。来てくださる方から私自身も学ばせてもらいながら、みんなでこの場所をつくっていけたらと思っているんです」と、河部さんは穏やかな表情で語ります。

河部さんが思い描くのは、ただ農産物を生産するだけの場所ではありません。土や植物、動物に触れ、それをきっかけに人同士も自然につながっていく場所なのです。
「もう一度食べたい」と思ってもらえる味を目指して
「ふれあえ農園」に到着すると、河部さんが自宅の裏手にあるニワトリ小屋まで案内してくれました。ニワトリたちが足もとを自由に動き回る中、この日産みたての卵を見せてもらいました。すると河部さんから「この卵とうちのお米で、卵かけご飯を作るから食べてみてください!」との提案が!


新鮮な卵をパカッと割り、河部さんが育てたお米で炊いたツヤツヤのご飯に落として、卵かけご飯の完成です。この日の朝、畑で採れたキュウリも一緒にいただきました。箸で黄身と白身をつついてみると、どちらもプルプルと弾力があるのがよく分かります。これ、鮮度が良い証拠ですよね!
まずは醤油をかけず、そのままひと口。卵の味が濃厚で、匂いにクセがありません。お米にもきちんと存在感があり、卵のまろやかな味をお米の甘みと旨みがしっかりと受け止めます。キュウリもみずみずしく、香りの濃さが違います。
おいしくて取材スタッフ一同、終始無言でもぐもぐ……(笑)。自分たちが今口にしているものが、どこで、どのように育ってきたのか。それを畑を目の前にしながら感じられることが、実に新鮮でした。

「ふれあえ農園」は、「UZU佐渡」の河口さんからもお聞きしていたように、農薬や化学肥料に頼らない栽培を徹底しています。しかし、それ以上に河部さんがこだわり続けているのが、農産物の“おいしさ”です。
「無農薬だから安心、というところだけでは終わらせたくないんですよね。食べた時に、きちんと『おいしい』と思ってもらえるところまで目指したい。それでなければ、消費者の皆さんのもとに、広がっていかないと思います」(河部さん)
「体に良さそうだから食べる」ではなく、「おいしいから、もう一度食べたい」。そこに、作り手としての河部さんの信念が見えます。
栽培にも工夫があります。知り合いから譲ってもらったヤギのふんに米ぬかを合わせて堆肥をつくり、果樹などの土作りに利用。佐渡で手に入る牡蠣殻も活用し、田んぼでは水の取り入れ口に置くこともあるそうです。
さらに、整備した竹林から出た竹を炭にし、果樹や野菜の土に混ぜています。身近にあるものを活かし、試して、育ち方を見る。その繰り返しです。

もちろん、農薬や除草剤を使わない栽培は、決して手間がかからないわけではありません。例えば除草剤を使わなくなれば、その分、草を刈る作業は増えます。
「でもね、この農業を始めてから、なぜか気持ちが穏やかになったんです。雑草や菌、虫を、敵として見なくなったからなのかな?と思っています(笑)」
畑の近くをニワトリが歩き、犬や猫が暮らし、そこへ佐渡島内外から人がやって来る。何かを排除して整えるのではなく、さまざまな存在と折り合いをつける。ふれあえ農園の農業と、この場所の空気には、どこか似たものが流れているように感じます。
農園から広がる、人と人のつながり
河部さんが栽培する桃やおけさ柿、シャインマスカットなどの果物は、主に島内で直売されています。2025年にInstagramを始めてからは、DMを通して購入希望者と直接つながる機会が増え、そこから柿やシャインマスカットの収穫体験も行うようになったそうです。

「ただ収穫したものを渡すだけでなく、自分で選んで採ってもらう方が、また違った楽しさがあるんじゃないかと思って。農家と消費者の間に体験が加わると、関係が近くなるとも考えているんです」(河部さん)。
さらに2026年のゴールデンウィークからは、民泊をスタートしました。以前から計画していたわけではなく、「佐渡島の金山」の世界文化遺産登録などを通じて島への注目が高まる中、空いていた実家の2階を活用できないかと考えたことがきっかけです。
「本当に始めたばかりなんですが、民泊は基本的に素泊まりです。共同キッチンを用意しているので、宿泊者は食材を買って料理してもいいですし、近隣の飲食店へ出かけるのも自由です。収穫のタイミングが合えば、農園の米や卵、季節の野菜や果物を味わうこともできます」と大地さんが説明してくれました。
昼は動物たちに触れ、畑で採れたものを味わう。夜には、農園のすぐ近くで星空を眺める。「ふれあえ農園」では、観光のために特別な舞台をつくるのではなく、ここにある日常そのものを楽しんでもらう民泊を始めています。

今後は子どもたちが参加しやすい農業体験や、動物と触れ合える機会も増やしていきたいそうです。冬にはものづくりのワークショップを行い、その先には、景色を眺めながら農園の野菜を味わえるカフェやレストランを開く……そんな構想もお二人の中にあるそうです。
「まずは仲間を増やしたいですね。一緒に働いてくれる人が増えれば、この景色や農園で過ごす時間を、もっと多くの方に味わってもらえると思っています」
作物を育てる人、採る人、食べる人、泊まる人、そして、これからここを訪れる人。関わる人が増えるほど、農園にできることも増えていくと河部さんと大地さんは考えています。「ふれあえ」という名前は、そんな未来へ向けた呼びかけのように感じました。
後編では、一度佐渡を離れ、故郷へ戻ってきた河部さんと、転勤をきっかけに佐渡と出会い、この島に残ることを選んだ大地さん、それぞれの人生を振り返りながら、二人が感じる佐渡の魅力に迫ります。








