
目黒 貴博 (めぐろ たかひろ)さんの自己紹介
新潟市(現・南区)出身。ゼネコン、土木会社、工務店を経て、新潟県森林組合連合会へ。森林組合の仕事で阿賀町に出入りするうちにこの地に魅せられ、地域おこし協力隊として阿賀町へ移住しました。以来10年以上にわたり、目黒農園として自然薯(じねんじょ)やエゴマを栽培。農薬・化学肥料を使わない農法にこだわっています。狩猟免許を持ち、猟や山菜採りも楽しむ、根っからの食いしん坊です。
PROLOGUE
磐越道・津川ICの近くにある、堀口さんの会社から車を走らせ20分。次に訪ねたのは、堀口さんからご紹介いただいた「目黒農園」の目黒貴博さんです。
阿賀野川と山々に囲まれた道を抜けていくと、目黒さんが暮らす平瀬集落が見えてきました。目黒さんはここを拠点に、農薬も化学肥料も使わず、自然薯とエゴマを中心としたこだわりの農業を営んでいます。

「山に自生している天然の自然薯の味」を目指して栽培しているという目黒さんの自然薯は、販売解禁とともに売り切れてしまうほどの人気ぶり。しかも、目黒さん、プロフィールにあるように「根っからの食いしん坊」とのことで、私、絶対に気が合いそうです。
“天然の味”を目指す目黒さんが一体どんな農業をされているのか、阿賀町での農業に込めたこだわりや思いをお聞きします。

INTERVIEW
農園の主力は、阿賀町特産の自然薯とエゴマ
取材に訪れたのは5月初旬。目黒さんのもとへ向かう道中には、水が張られたばかりの田んぼ、若葉が美しい木々など、のどかで美しい風景が広がっていました。目黒さんが暮らす旧鹿瀬町の平瀬集落は、山あいの静かな場所にあります。

目黒さんは10年以上にわたって農業を続けてきました。「うちの主力は、自然薯とエゴマですね。そのほかにエゴマ油やエゴマ塩、エゴマを使ったラー油といった加工品も手がけています。管理している畑は、鹿瀬や三川など複数の場所に分かれていて、その年ごとに何を植えるかを決めているんです」と教えてくれました。
春はカボチャやサツマイモなどの夏秋野菜に向けて準備をし、続いてエゴマと自然薯を植え、秋に収穫して出荷。冬の間は、エゴマ油などの加工品を作ります。「目黒農園」の一年は、おおまかにこのサイクルで巡っていきます。

ちなみに、自然薯とエゴマといえば、阿賀町の特産品としても知られています。目黒さん、なぜ、この二つを農業の主力にされたのですか?
「お米は阿賀町の名産品でもあるのですが、米を作るとなると、いろんな道具をそろえなきゃいけないので、莫大な資金が必要になってしまいます。しかも、米と自然薯って作業の時期が重なってしまうんですよね。それだったら、体一つあれば畑はできるということで、自然薯とエゴマに絞りました」
なるほど〜!そういう理由だったのですね。ちなみに、目黒さんが阿賀町にやってきたのは、地域おこし協力隊としての移住が始まりでした。その当時、阿賀町役場の方から「阿賀町の特産品である自然薯は、どんどん作り手がいなくなっている」と教えてもらったことも、自然薯栽培を選ぶ後押しになったといいます。
今現在、阿賀町には、米、蕎麦、自然薯、エゴマの4つの特産品があります。けれども、米以外は意外と知られていないことに、目黒さんはもったいなさを感じたそうです。
「自然薯の栽培は、地元ではそこそこ根付いてはいたのですが、町外に向けた発信をしていなかったんですよね。この辺りの自然薯農家さんは、みんな農協にしか出していなかった。これはもったいないなと思って、私は自然薯をもっと外へ発信しようと考えたんです」
「自分がおいしく食べたい」から始まった農薬不使用栽培
さて、目黒さんの農業の一番の特徴は、農薬・化学肥料を使わないこと、また、無添加の加工品作りにこだわっていることです。その原点は、意外にも目黒さん自身の体質にありました。
「もともといろんなアレルギーがあって、体質的に体に合わない、食べることができないものが幾つかあるんです。だから、自分自身がおいしく食べるには?とたどり着いたのが、農薬や化学肥料を使わない農業でした」
農業を始めた当初は、行政や農協に一から教わり、除草剤や肥料を使いながら栽培していました。

「教わって作ったものも、見た目はきれいで間違いなくおいしい。ですが、阿賀町にはこんなにおいしい水があるのだから、農薬を使わずに、自然のままの、味の濃い作物を作れたら、もっとうまいんじゃないかと思ったんですよね」と目黒さん。その思いから、農薬不使用栽培へと転じました。
農薬を使わないということは、雑草も虫も自然のままということです。「ちょっと目を離すと草ボーボーで、ものすごく大変!」と目黒さんは苦笑。これぞ目黒さん独自の虫対策!農薬を使わない畑にはさまざまな虫が集まりますが、最終的に勝ち残るのがクモだといいます。農薬に頼らず、生態系の力を借りる発想ですね。
「夏場を過ぎると畑はクモだらけ。いろんな虫を食べてくれるので、毎年クモに向かって『お願いします!!』と言っています(笑)」

農法はもちろん、味へのこだわりも徹底しています。目黒さんが目指すのは、「山に自生する天然の自然薯の味」です。
狩猟免許を持つ目黒さんは、狩猟の合間に猟友会の仲間と山で育った天然の自然薯を掘る機会もあるそうです。天然の自然薯の味を目黒さんは「濃い、重い」と表現します。
「水分が少ないのに味がある。口に入れた瞬間からもう違うし、噛んだときにずっしりとした重みを感じるんです。それがイコール、味が濃い、重いということなんです。その本物の味を畑で再現しようとしています」
猟友会のお仲間は、天然の自然薯の味をよく知る人たち。目黒さんは彼らに自分が作った自然薯を、毎年味見してもらうのだそうです。
「彼ら曰く、本当に天然の芋に近い味とのことです。自分が目指す味に近付いているなら、嬉しいですよね。せっかく阿賀町の特産品と言われているんですから、もう、超特産品を作ってやろう!という思いがあるんです」

目黒さんの自然薯は粘りも格別で、すり鉢ですって逆さにしても落ちてこないほど。糖度は最高13度を記録しており、県の品評会で主流となる8〜9度を大きく上回ります。
この味を追求するため、栽培方法も毎年試行錯誤しています。土壌のカルシウム補給には牡蠣殻やカニの甲羅を粉末にしたものを試し、まっすぐ長く栽培するために独自のパイプで角度を調整、土壌は水はけが良く、なおかつ水持ちも良い傾斜地にするなど、こだわりは数知れず。

「同じことをやっていれば、今までと同じものしかできませんから。毎年もっとおいしいものにしたいから、栽培へのこだわりはぬかりなく、ですね」と目黒さんは真剣な眼差しで語ります。
目黒さんの自然薯の販売は、ホームページからの受注が主で、津川の直売所や「狐の嫁入り屋敷」などにも一部出荷されています。ターゲットはズバリ、「オーガニックや食にこだわっている人」。初めて購入してくれた方には少しサービスして「周りの方に配ってくださいね」とお願いするのが決まりなのだとか。
「1本買った方が『おいしかったから』と、翌年は3本、5本と買ってくれるんです」と目黒さん。宣伝をせずとも、味に惚れた人が宣伝マンになってくれるのだとか。まさに“芋づる式”(笑)。目黒さんの自然薯のファンが増えていくというわけですね。

阿賀町の農業の魅力を、手を替え品を替え発信!
そうそう、加工品の製造も忘れちゃなりません!「目黒農園」のもう一つの看板商品が、低温圧搾の「ぎゅっと搾り えごまオイル」です。明治期まで現町域の大部分が福島県に属していた歴史がある阿賀町には、古くから会津地方の食文化が根付き、その中の一つとしてエゴマを食べる習慣があったといいます。

「ただ、どの方々も自分が食べる用にしか、エゴマの実を作っていなかったんです。これを皆さんから買い取ってエゴマ油にしたら、事業になるんじゃないかと思って、エゴマの組合づくりに参加しました」
目黒さんは現在、阿賀町エゴマ組合の理事を務めています。組合では、阿賀町の農家の方々から農薬を使わずに栽培したエゴマを買い取り、搾って販売する仕組みです。阿賀町からの補助もあり、生産者は他の産地よりも高い手取りを得られるそうです。
エゴマについても、目黒さんはとことん学んでいます。岐阜にある「日本エゴマ普及協会」へ半年間通い、農薬不使用かつ循環型の栽培を習得。しかも、エゴマの搾りかすを肥料に使うという循環型栽培を実践しています。

エゴマの葉も手間をかけて売るより、加工して商品にする方がいいと考え、乾燥させて微粉末にするなど六次化にも取り組んでいます。最近では、エゴマの香りをより際立たせる新商品づくりにも挑戦中とのことでした。
「エゴマの種も肥料、土、水も全て阿賀町でつくられたものでしょう。私がつくるエゴマは、100%阿賀町産なんです」と目黒さんは笑顔で話します。

また、目黒さんは、農業に関する講演や県内外の学校の農業体験・研修の受け入れにも積極的です。
「農業はきついし、低収入と言われます。確かに天候によって、収入の振れ幅は激しいですけど、頑張れば頑張った分だけ見返りがある、面白い仕事なんだよということを、自分なりに伝えていきたいと思っています」と思いを語ってくれました。
農薬を使わないという、決して楽ではない道を選び、現状に満足することなく、本物の味を追いかけ続ける目黒さん。後編では、そんな目黒さんが、どんな半生を経て阿賀町にたどり着いたのか、その歩みに迫ります。お楽しみに。








