早福 百合 (そうふく ゆり)さんの自己紹介
弥彦村生まれで、小さい頃から彌彦神社周辺には馴染みがありました。その頃から「弥彦でふらっと立ち寄れるお店を作れたら」と考えていました。大阪の製菓専門学校でお菓子づくりを学び、奈良の甘味処で2年間修業して弥彦村にUターン。2003年に母がやっていたお土産店「ひらしお」の2階に「社彩庵」をオープンしました。
PROLOGUE
前回に引き続き、今回も弥彦村へ。
弥彦村といえば、朱色の鳥居、奥に続く社叢林(しゃそうりん)が厳かな雰囲気を醸し出している彌彦神社。
毎日多くの参拝客でにぎわい、四季折々の祭事には県内外から観光客が訪れるほどの有名ぶりです。新潟県内で暮らす皆さんは、訪ねたことがあるという方も多いかもしれませんね。
ごっつぉライターの私、彌彦神社はいつ訪れても、空気はスッと澄んでいるように感じて、背筋がピンと伸びるような清々しい気持ちになれるのです。杉の緑が色濃い参道を歩くだけでも気持ち良いし、彌彦神社ならではの参拝の仕方「二礼四拍手一礼」でお参りをして、また気持ち新たに頑張ろうと思えます。彌彦神社は私にとっての心の拠り所でもあります。
そんな彌彦神社の参拝の帰り、小腹が空くとよく立ち寄るところがあります。それは鳥居の目の前にある「社彩庵ひらしお」というお土産屋と甘味処が一緒になったお店。
実はこちら、前々回にご紹介した弥彦ブリューイングのお隣にあるお店なのです。「社彩庵さんは昔からお隣同士で商売をしてきた、心強い同士ともいえる存在なんです」と、今回、弥彦ブリューイングの羽生さんからご紹介いただいたのが、「社彩庵ひらしお」の早福百合さん。
早福さんも羽生さん、前回登場いただいた「Joy Farm わたなべ」の渡邊一嘉さんと同じく、弥彦村生まれ、弥彦村育ちで地元に根付いて活躍されている方の一人なのです。
そしてですね、「社彩庵ひらしお」の甘味は……おいしいんです。私の推しです、推し。
他ではあまり見かけない和のスイーツに特化したお店、早福さんがどのような思いで始めたのか、弥彦に思うことなど、たっぷりとお聞きしたいと思います!
INTERVIEW
幼い頃からの夢「彌彦神社の目の前にお店を作りたい!」
早速、彌彦神社の目の前にある古民家カフェ「社彩庵ひらしお」にお邪魔してみましょう。
こちら、1階は早福さんのお母さまが営む弥彦のお菓子や雑貨を販売するお土産屋「ひらしお」です。
1階には、かわいらしく昔懐かしさを感じる雑貨や弥彦のお土産として親しまれる和菓子などが並んでいます。お土産を探しに訪ねたい場所ですねぇ。
1階にある階段を上り、2階にある「社彩庵」へ。1階と2階を合わせて「社彩庵ひらしお」という店名になっているそうです。
「社彩庵」の厨房では早福さんが忙しそうに料理を作っています。この日は平日にも関わらず、家族連れや若いカップル、男性の一人客など、幅広い世代のお客さまが訪れていました。
お店の中は立派な柱や梁、味のある調度品が古民家の魅力を際立たせ、ガラス越しに見える彌彦神社の鳥居と緑の借景が見事です。その景色をずーっと見ていられます(笑)。
ここは、椅子に座って、おいしいスイーツやお抹茶をいただきながら、ゆったりとした時間を過ごすのに最適な空間なのです。
そんな素敵な空間は、どのようにして生まれたのでしょうか?早福さんに伺いました。
「お店のオープンは2003年です。もともとは、私の母方の実家がここにあり、昔は普通の一軒家だったんですが、上越新幹線開通の頃から1階の一部をお土産屋として使うようになったんです。当時、私はまだ幼かったんですが、祖母の手伝いでこんにゃくを売ったりしました。昔からここで働いていたってわけです(笑)」。
当時、まだ幼かった早福さんですが、小さいながらもお客さんの様子を見て感じていたことがあるそうです。
「電車が1〜2時間に1本しかなく、せっかく弥彦に来ても待っていられる場所がないというお話が印象に残っています。子ども心に「そういう場所が必要なんだ」と感じていたことが、「いつかここでお菓子のお店をやろう!」という私の夢のルーツにもなっているんです」と早福さん。
小さな頃からの夢を叶えるため、高校卒業後は大阪の製菓専門学校でお菓子作りを学び、奈良の甘味処で経験を積みました。すごい!夢に向かってまっしぐらだったのですね。
そして、関西から弥彦村に戻り、この場所にお店を開いたのは2003年のこと。社彩庵という名前には、「神社を彩る庵(いおり)」という意味を込めているそうです。いやぁ、お店の雰囲気にぴったりの店名の由来ですよね。
一方、店名にある「ひらしお」。これはどういった意味があるのか気になります!
「彌彦神社のご祭神でもある天香山命(あめのかごやまのみこと)は、海を渡って今の寺泊・野積周辺に上陸し、地域の人たちに海水から塩をつくる技術や漁、稲作などを教えたと伝えられているんです。その時、塩づくりを教わったのが母方の先祖で、それが由来で「平塩」という名前をいただいたと聞いています」。
その後、「平塩家」は代々彌彦神社の神職を世襲する社家(しゃけ)を務めていたのだとか。早福さんのお母さまが53代目になるそうです。
「実はこの建物も、江戸時代後期に彌彦神社を建てた宮大工の棟梁によって建てられたもので、その昔は彌彦神社の境内にあった社家の母屋なんですよ」。
そう聞くと、この空間の歴史の重みをズシっと感じます。お店ができるずーーっと前から、彌彦神社に寄り添い、深いつながりを持つ建物なのですね。
建物の価値を磨き、お菓子で弥彦ににぎわいを
べんがら色の外観が映える「社彩庵ひらしお」。鮮やかな色合いが、彌彦神社鳥居周辺の緑に華を添えます。
「この建物は彌彦神社の境内から今の場所に移築して、しばらくは住居として使っていました。この場所にお店を開くにあたっては、新しい建物に建て直すことも考えたのですが、母も私も思い入れが強くあり、リノベーションをして建物の趣を残したいと思いました。そこで出会ったのが、ドイツ人の建築家であるカール・ベンクスさんなんです」。
当時、カール・ベンクスさんは古民家の再生に数多く関わり、カーブドッチの「薪小屋」などを手がけていた頃でもありました。それを知った早福さんはすぐさま、建物の改築を依頼。そうして出来上がったのが、赤褐色のべんがら色の壁と黒茶色の太い柱が印象的な趣ある空間なのです。
「カールさんは古いものを大切にする方で、「これは先祖が残してくれた大切な原石。原石があれば、それを磨けばいい」とよくおっしゃっていました。私もカールさんの言葉に感銘を受け、この建物を残すことの意義を改めて感じました」と早福さんは振り返ります。
ここは、先祖の歴史、建物の歴史を共に大切にしてきた場所なのです。
さて、肝心のスイーツについてもご紹介せねばなりません!なんせ、私の推しですから。
まず、お店の目玉は、宇治抹茶や小豆を使った和スイーツの数々。その数はなんと40種類ほど!
パフェやあんみつ、ぜんざい、抹茶を使ったドリンクなど、それぞれのカテゴリーの中でも細かく味が分かれていて、バラエティ豊かなラインナップなのです。和スイーツでこれだけの種類って、何とも贅沢ですよね。
「お店で使っているのは、京都の老舗茶舗から仕入れている高級宇治抹茶。苦みと甘みのバランスが絶妙なんです。小豆も丹波産のものを使い、8時間以上炊いてふっくらとした食感に。素材の持ち味を最大限引き出すことを心がけています」。
ほら、聞いているだけで食べたくなるでしょう〜!
「弥彦でお菓子のお店をやりたいと、修業先の関西をはじめ、東京や鎌倉なども足を延ばして食べ歩いたのですが、関西と関東ではまた違った味わいがありましたね。京都の素材は上品な味わいで、余計な甘さを出さずに素材の味を引き立ててくれるものが多いように感じます。歴史ある土地だからこそ、受け継がれてきた確かな味があるのかもしれませんね」と早福さん。
さらに、新潟県産のもち米100%で作られた白玉粉を使用した、ぜんざいやパフェも大人気です。
「市販の白玉粉には他の添加物が混ぜられていることが多いのですが、うちで使っている県産の白玉粉はもち米100%だからこそ、時間が経つと固くなってしまうんです。でも、それが本来の白玉の味だと思うんですよね。だから、白玉を作る際は、お客様からのオーダーを受けてから、その都度茹でるようにしているんです」。
なるほど、随所にこだわりが現れているのですね。
実際にいただいてみると、どのメニューも甘さが控えめでありながら、抹茶や小豆といった素材の味がしっかりと感じられるのです。「甘いのが苦手」という方にもぜひ食べてほしいです!
EPILOGUE
地域との密接なつながりが、村に活気をもたらす
彌彦神社の目の前で、長年の夢だったお店を構えて20年以上。弥彦村に観光や参拝で訪れる人々はもちろん、地域との繋がりは早福さんにとって欠かせないものでした。
「弥彦は小さな村ですから、みーんな顔見知りなんですよ。お互いに助け合って生きているという感覚があります。私も微力ながら、弥彦のために何かできたらいいなと、常々考えています」。
弥彦ブリューイングの羽生さんとは店もお隣同士で、「私の姉と羽生さんも同級生なんです。昔からよく知っている間柄ですね。今は隣同士でお店をやっているので、いろいろと協力し合っています。昨年、ペットを連れた方もきていただけるようにテラス席も作ったのですが、今年はここでビアガーデンをやろうかなんて、二人で企んでいました(笑)」。
弥彦ブリューイングのビールやワインに、社彩庵のスイーツ……え、絶対行きます、それ(笑)。
年々増える観光客、毎年活気が増していく弥彦村ですが、早福さんは村の未来についてもしっかりとしたビジョンを持っていらっしゃいます。
「弥彦はパワースポットとしても有名ですが、それだけじゃない魅力がたくさんあると思っています。歴史や文化、自然、そして何より人の温かさがあるんですよね。最近は私たち世代やそれよりももっと若い世代の人たちも、それぞれが得意とすることで村を盛り上げたいと頑張っています。
私はこの歴史ある場所で、自分が弥彦でやりたいと思い描いていた夢を形にすることができて幸せですし、この場所に根ざしてきたことで今があるとも思っています。
弥彦の若い子や子どもたちにも、私たち大人が弥彦で生き生きと暮らしていることで、何かを感じてくれたらうれしいですよね。そういった弥彦の良さを、もっと多くの人に知ってもらいたいと思っています」とほほ笑む早福さん。
人口約7,600人の小さな村ですが、その可能性はまさに無限大!
一人ひとりが思い思いに輝ける場所が、弥彦村にはあるのですね。