渡辺 康弘 (わたなべ やすひろ)さんの自己紹介
農林水産省農業者大学校卒業後、家業である新潟県三条市の農園に入る。当時はバブル景気真っ只中。効率最優先で、大量消費が美徳の価値観が世の中に充満。ある程度は夢を持って就農したものの、農業という職業が思いのほか低く見られていることに愕然とする。「農業の新しい魅力を作り出してやるんだ!」いう、青く漠然とした気概をぼんやりと持ったことがスタートラインで、その後あまり成長もせず(笑)現在に至ります。
玉川堂の山田さん(ごっつぉLIFE県央1-1参照)から「県央の魅力的な人」としてご紹介いただいた、三条市で果樹園を経営されている、渡辺果樹園代表の渡辺康弘さん。山田さんが敬意を込めて仰っていた「ブドウにモーツァルト聴かせる変人」(笑)をお訪ねしました。三条燕インターを降りて、信濃川沿いの土手の道を川下(新潟市方向)に向かって車で進んで約10分。ワイン樽で作られたこの看板が目印です。
渡辺果樹園さんの概要
渡辺果樹園さんは、現在の代表渡辺康弘さんでおそらく10代目…という、代々この地で農業を営んで来られたお家です。いつから果樹を育てていたか、ハッキリとした記録はないものの、渡辺さんのひいおじいさまのくらいの代には、日本ナシやカリンを育てていたそうです。
現在の渡辺果樹園さんが育てていらっしゃる果物は、「シャインマスカット」を始めとする複数種類のブドウと、新潟の特産洋ナシ「ル レクチエ」です。
ブドウは8~9月、ル レクチエは10月に収穫。その後、ル レクチエは追熟を経て11下旬から12月にかけて出荷・販売。個人宅への直送(オンラインショップや郵送での受付)や農園での直売(ドライブスルー販売もあるそうです!)を行っていらっしゃいます。お取引のある洋菓子店や果物店への販売もあり、渡辺果樹園さんの果物が食べられるお店は、公式WEBサイトの「渡辺果樹園の果物をあじわえるお店」で確認できます。
また、「農園体験」と題して、渡辺果樹園さんを体感できるイベント開催やボランティア募集もされています。「燕三条 畑の朝カフェ」「みつばち隊」「もぎこみ隊」、どれも単に収穫体験ができる「観光果樹園」とは一味違うものばかり。詳しくは、公式WEBサイトの「農業体験」をご参照ください。「燕三条 畑の朝カフェ」に関しては、今回の取材でいろいろ伺ったので、のちほどこの記事でも詳しくお伝えしますね!
「より純粋で繊細な果物づくり」のルーツ
「果樹そのものの生命力を活かすための手間を惜しまず、できるだけ農薬を抑え、余計な肥料を与えません。また、土、水、自然環境を配慮し、本来の力を使った栽培にこだわり、より純粋で繊細な果物づくりに取り組んでいます」
と、あります。
このような育て方は、代々続く渡辺果樹園さんに脈々と受け継がれてきたものなのでしょうか?まずはそのルーツから、渡辺さんにお尋ねしました。
「それは、私ですね。私がそうしようと思って、変えました」
と、渡辺さん。
何かきっかけがあったんですか?
「私が学校を出て父の元で就農した頃は、“他に負けない、いいものを、絶対に作ってやる!”って気持ちが強くてね。とにかく大きい果物が採れて、草1つ無いきれいな畑が良しとされていた時代だったんで、私もそれに倣って作っていたんです。化学肥料も多めにやり、その時に良いと言われているものは全部やった。そしたらすっごい大きなブドウができて“やったー!”って思ったんだけど、食べてみたらおいしくなかったんだよね。しかも食べた後、頭がズーンと重くなっちゃって…。これは本来の作り方ではないな、と自分で体感したんです。それで、逆に“こういうものを作らないでおこう”っていう考え方になった」
新しいことに挑戦する渡辺家のDNA
なるべく農薬にも肥料にも頼らない方法を、学校で勉強されてきたわけじゃなくて…ということでしょうか?
「そうそう。特にそういう勉強をしてきたわけじゃなかった。だから、ここからがトライ・アンド・エラーの繰り返しでしたね。父親は昔から任せてくれるタイプだったので、基本的には好きにやらせてもらえたので、良かったですけど」
就農された直後のお話を伺うと、お父さまは渡辺さんに「この巨峰の木をお前に任せる。この木はうちの稼ぎ頭だ。世話の仕方は、白根に巨峰の仙人がいるから習ってこい」と言って任せるほどだったそうです。
「この周辺ではうちが先駆けでル レクチエを作るようになったのも、父親が結婚した頃、約60年前に父親の発案で始めていますからね。“ナシと言えば、二十世紀!“という時代に、二十世紀の木を切って、ル レクチエを接ぎ木したんですよ。チャレンジャーですよね(笑)。たぶん、代々新しいことに挑戦する…っていうDNAが、渡辺家には流れているんだと思います(笑)」
と、渡辺さん。
常識外れの柔らかな土
果樹そのものの生命力を活かすため、土の中に生きる微生物を豊かにし、ミネラルバランスを整え、土の力を大切にしている渡辺さん。
ある時、不思議なことに気付いたと言います。
「“果樹園の土は固い”、これは常識なんです。木の根も張っていますし、人が入って作業をしたり、重い農業機械を入れて作業したりするので、どうしも踏み固められてしまうんです。ところが、うちの土は柔らかいんですよね。試しに2mの棒を刺してみたら、スルスルと入ってしまって驚きました」
…と言って、実際に見せてくださいました。
ホントだ!!
スルスルと!!
「土壌づくりとして、毎年微生物が豊富なたい肥を投入して、土を柔らかくすることはやっていますが、おそらく、元々の土壌がいいのだと思います。太古の昔から、信濃川が運んできたミネラル豊富な土砂が溜まってできた土地ですからね」
と、渡辺さん。
ブドウにバッハとモーツァルトの理由
そうだ!あのことを聞かなくては…!
渡辺さん、ブドウにモーツァルトを聴かせていらっしゃるとか…
「うん、聴かせてるよ」
それは、また、どうして…?(笑)
「きっかけは、3・4年に一度くらい、ル レクチエの成熟の進みが遅い年が発生し困ったことです。成熟が遅れると、贈答のピークに間に合わなくてチャンスロスになってしまうからね。その時に思い出したのが、酵母にモーツァルトを聴かせて成熟を促していたある酒蔵さん。“そうだ、同じ成熟だ。効果あるかも。やってみよう!”と思ったんだよね。それから、成熟が遅れることはなくなったから、効果はあるんだと思うよ、たぶん(笑)」
ブドウは…?
「あぁ、それで、同じようにブドウにも聴かせようと思って、成長促進に効果があるっていう研究結果が出ていたバッハを聴かせました。初めは最初から最後までバッハを聴かせていたんだけど、なんかね、収穫して食べてみたら“味が若いな”と思ったの。それで、収穫1カ月前くらいにモーツァルトに変えたらいい感じになった。やっぱり、モーツァルトは成熟を促すのに効果があるみたいだね」
どうやら、それぞれの音楽から出る波長・波動が植物の成長に影響を及ぼすようで、バッハは成長促進に、モーツァルトは成熟促進に効果があるとのこと。このような音楽が植物に与える影響は、現在もさまざまな研究機関で研究が進められているそうです。
「今はどちらかと言うと、“モーツァルトを聴いて成熟したル レクチエ”とか、“バッハを聴いて育ったブドウ”とか、果物の背景にストーリーができたことで、お客さまにより楽しんでもらえるようになったことの方が大きい気がします。私、勝手にこういうのを“脳内グリーンツーリズム”って呼んでるんですけど、うちの果樹園に来たことがない方でも、この背景にあるストーリーを聞いて、脳内でイメージが再生されて、より果物を楽しんでいただくことができるんだと思っています」
と、渡辺さん。
観光果樹園の経験と「燕三条 畑の朝カフェ」
渡辺さんが就農されてから、さまざまな取り組みをされてきた渡辺果樹園さん。こだわればこだわるほど、こだわった末にできた大切な果物が、共同出荷によって他とひとくくりに扱われることに違和感を感じるようになったと言います。
「なので、農協へ出荷する量を徐々に少なくしていって、直販に力を入れるようになりました。“まずは知ってもらわないと買ってもらえない!しかも、ここに来てもらわないと買ってもらえない!”と思い、1997(平成9)年から観光果樹園をすることにしました。ただ果物を収穫するだけじゃなくて、コンサートを開いたり、ろうそくを300本立てたキャンドルイベントを開催したり、とにかく“普通の農家じゃ来てもらえない”と思って、いろいろしましたね…」
あれこれと工夫をして、知ってもらおう・来てもらおうとした観光果樹園。その努力が実り、知名度も上がり、定期的にご購入くださるお客さまも増えたため、観光果樹園はオープン11年目の2008(平成20)年に閉園したそうです。
それからしばらくして、図らずもこの経験が次につながります。
2009(平成21)年4月に現在の公益財団法人 燕三条地場産業振興センター内に「燕三条ブランド推進室※」ができ、燕市と三条市が一体となって魅力を発信していく「燕三条プライドプロジェクト」が立ち上がります。この動きに渡辺さんも参加されており、プロジェクト内に作られた3つのグループのうちの1つ、「レストラングループ」に所属。このグループが主体となって、参加農家の畑で農業体験をし、燕三条産のイスやテーブル、カトラリーなどを使って畑で朝ごはんを食べる「燕三条 畑の朝カフェ」(以下「畑の朝カフェ」)が展開されることになります。
※現在は「燕三条ブランド推進部」に変更されています。
「この畑の朝カフェの前身みたいなものが動き出していた頃に、3回くらい、うちの果樹園を会場として貸したことがあるんです。その時、私は場所を貸しただけだったので、参加者さんが来られるのを見ていただけなのですが、参加者さんの表情がね、パァッと変わるんです、うちのブドウ畑に入った瞬間。それを見て、“あぁ、観光果樹園の時に、あんなに必死にいろんなことをやったけれど、このままで良かったのか…”と気付きました」
と、渡辺さん。
その後、畑の朝カフェを中心に、果樹園のことも地域のことも「ありのままの魅力」を伝えるようになったと言います。
これは行きたい!「燕三条 畑の朝カフェ」
畑の朝カフェ、開催年ごと、開催場所(参加農家さん)ごとに、内容が変わります。なので、下記写真も過去の例なのですが…
ああ…、なんて気持ち良さそうなんでしょう…!!
朝早起きして外へ出掛けるだけでも気持ちがいいのに、こんなすてきな朝食まで用意していただけるなんて、最高ですね!!
私、ごっつぉライター、参加します。
参加したいです!どうすれば参加できますか!?渡辺さん!!
希望者が多すぎて、抽選になるという記事も拝見しましたが!!
「大丈夫、もう抽選になるほどではないですよ(笑)。畑の朝カフェの公式WEBサイトに、募集が始まったら案内が掲載されます。同じく公式WEBサイトにある“朝カフェ倶楽部”に登録いただくと、募集を開始したらメールでご案内もしますよ」
分かりました!
登録します!
畑で生き生き!
取材後半はブドウ畑で、ブドウの木の下でお話を伺ったのですが、やっぱり渡辺さん、畑の方が生き生きとお話されるんです。
おそらく、ここに育っている果樹のことを知り尽くし、今どんな状態にあるのか、もしかしたら「どんな気持ちなのか」まで分かるんじゃないかしら…。この記事には掲載しきれなかった「果樹の手入れ・世話の仕方」や「果樹園経営のお話」も、とても興味深かったです。
「畑の朝カフェ」でも、こうやって生き生きとお話をしてくださるんだと思います。またお話を聞きたいし、あのブドウの木に葉が茂り、実が成ったところを見たい!と強く思いました。ぜひ皆さんも「畑の朝カフェ」チェックしてみてください。
そして、8~9月はブドウやナシ、11~12月はル レクチエ。オンラインショップかドライブスルーで、お買い求めください。ドライブスルーは予約制なので、渡辺さんとお話もできるかも!「ごっつぉLIFE読みました」と言って、声を掛けてみてくださいね。
渡辺さん、楽しいお話をありがとうございました。
今度は朝カフェでお会いしたいと思います!