明間 則男 (あけま のりお)さんの自己紹介
「割烹山福」は兄が料理、姉は接客、私は営業担当として接客、経理、送迎バスの運転と、料理以外のことの雑務も担当しています。兄弟仲は良好です(笑)。休日はいろんな街へ出掛けてランチや季節の景色を楽しみ、SNSで紹介するのがちょっとした趣味になっています。
PROLOGUE
「五泉で懐石料理をいただくなら、必ずここです」。
渡六菓子店の渡辺さんご夫妻が、そうおっしゃっていたのが、五泉市のJR北五泉駅近くにある「割烹山福」(以下、山福)さん。
「割烹」とは、肉を割(さ)き、烹(に)るとの意味で、日本料理の調理を表す言葉。
食いしん坊の私の中では「割烹」=「おいしい料理」の方程式が間違いなく成り立っているのですが…
でも、なんとなく、「割烹」と聞くと、「高級料理」をイメージしたり、「庶民は行きづらい?」と構えたりしませんか…!?
私、お邪魔しちゃって大丈夫ですか?(←ビビリですみません)
「割烹だからハードルが高い??いえいえ、山福さんはそんなことはないですよ〜!お料理の彩り、味、盛り付けと細かな部分までこだわっていらっしゃるにも関わらず、手の届く価格で懐石料理を楽しませてくれる、五泉市内でも貴重なお店です」と渡六の渡辺東子さん。
「私たちは子どもの誕生祝いなど家族のお祝いごとや、ちょっとおいしいものを食べたいといった時は、必ず山福さんにお邪魔しています。私が嫁いできた時に、最初に義母に連れていってもらったのも、山福さんなんです。渡六は代々、山福さんにお世話になっているんですよ」。
そうでしたかぁ。渡辺家の思い出の端々に山福の存在があったのですね!
その山福さん。
実は、渡六菓子店からは徒歩5分!車で1分!
というご近所さんなのです。
お菓子をしこたま買い込んだその足で向かいます(笑)。
お店がある周辺は静かな住宅街です。
歩道では、ランドセルを背負った小学生が元気に駆け抜けていきました。
お店は外から見ると…住宅街に溶け込んではいますが、その佇まいは格式の高さが感じられますねぇ。
住宅街の中の隠れた名店の予感がします。
「ようこそ。いらっしゃませ」。
暖簾をくぐって出てきてくださったのは、接客を担当されている明間則男さんです。
今回は、山福の歴史からお店の成り立ち、お料理、地元五泉への思いについても、明間さんに語っていただきました。
INTERVIEW
鮮魚店から仕出し屋、その経験を生かして割烹へ
「外は寒かったでしょう。さぁ、こちらへどうぞ」。
明間さんに招かれて入り口に向かいましたが、アプローチの石畳や苔むす岩、灯籠、それらを彩る椿の花。
いやぁ、じっくりと眺めたくなる、すてきな店先です。
伺ったのは冬でしたが、「春から秋にかけては苔や木々が青々として綺麗なんですよ」と明間さんが教えてくださいました。
それぞれの部屋は庭に面していて、美しい庭の風景を眺めながら食事ができるそうです。
住宅街にありながら、お店にはいるとそれを一切感じさせない、そんな落ち着いた雰囲気が随所で感じられます。
山福は、いつからこの場所で営業されているのでしょうか?
「ここでの営業は10年ほど前からですね。お店自体は昭和62年(1987年)に始まって、ずっと五泉市本町で営業をしていました。私の父は仕出し料理、祖父は鮮魚店を営んでいて、割烹となったのは兄の代から。山福は鮮魚店がルーツの割烹なんです」と明間さん。
現在の山福は、料理長が明間さんのお兄さんである土田俊明さん、接客担当に姉の直子さん、そして、3兄弟の3番目、次男にあたる明間さんが接客や配達、営業などを担当されています。
「兄とは10歳、姉とは7歳違って、結構年が離れている方なので、兄弟仲はいいんですよ。普通、家族経営、しかも兄弟となるとうまくいかないなんてよく聞きますが(笑)。うちは、兄弟それぞれで役割が違って、一緒にお店をやっていても関わる仕事が違うせいか、ほとんどケンカもしません。珍しがられますけどね(笑)」。
その原点となるのが、明間さんのお父さんが営んでいた鮮魚と仕出しのお店。
その当時は、毎日家族が一緒になって料理や配達に関わっていたのだそうです。
「小さい頃から両親の背中を見て育ちましたが、自転車に乗って刺身を届けてこいとか、盛り付けを手伝わされたりしたことがたくさんありましたよ。商売をしている家の子って、何かと駆り出されるんですよ。今も忙しい時間帯は、私も厨房に入って手伝うことがあります。兄弟が協力し合ってできる背景には、親父がやっていた頃の記憶や経験があるからかもしれませんね」。
料理長の俊明さんと姉の直子さんと共に、3人4脚でお店を営む明間さんですが、もともとは全く違う仕事をしていたのだとか。
「兄弟の3番目だし、店は兄が継ぐし、婿に行っていいし、好きなことしていいよと言われて(笑)。家具店で営業として働いていました。ですが、店を手伝わなければならないさまざまな事情があって、戻ってきたんです」。
それからは家具店での営業経験を生かした接客を中心に、経理や送迎バスの運転など、山福の料理を楽しみに来るお客様のため、その料理を手がける兄と姉のためにと、明間さんはあらゆる業務を日々こなしているのだそうです。
「主役はお客様と料理ですからね。料理や設えを楽しんでいただきながら、気持ちが豊かになるようなお食事の時間を過ごしていただけたらと思っています。私はこの店では黒子に徹しています(笑)」。
お食い初めから法要まで 大事な人と大切な時間を過ごす場所に
昭和62年、明間さんの兄・土田俊明さんが「割烹山福」としてお店を開き、35年以上が経ちました。
数年前から、俊明さんと共に厨房に入っているのが、明間さんの甥である土田俊輔さん。
四代目として、日々料理に磨きをかけているといいます。
「俊輔は京都で修行をして、コロナ禍になる前に山福に戻ってきてくれました。俊輔が修行先での経験をもとに作る「胡桃豆腐」や「鯖寿司」といったメニューも、ここ数年で加わりました。父と二人で山福を盛り上げる甥っ子を、叔父としてうれしく思いますね」。
実は、コロナ禍では「もうお店を閉めようかなんて兄弟で相談したほど大変な思いをしました」と振り返る明間さん。
料理、接客を担当するそれぞれのスタッフと相談しながら、新しい取り組みを始めたことで、売り上げの回復を図ったのだとか。
「うちは基本的に懐石料理が中心で、そうなると品数の多いコース形式になるんですよね。でも、せっかく培ってきた和食の技術や味を、この機会に値段を抑えた形で提供できないかと考えました。そのきっかけになったのが松花堂弁当や定食、棒寿司など一品料理の持ち帰りメニューです」。
松花堂弁当や定食は価格を2、3種類に分けて、お酒のつまみになる晩酌セットも販売しました。
「これがね、意外とお客様に好評だったんです。どうもうちのお店は気軽に来てもらうよりも、ちょっとした記念日や慶弔の際に利用するというイメージが、地元の皆さんにはあったようなんです。けど、こうして料理をお弁当や持ち帰りで味わっていただくことで、より身近で気軽に味わえるお店なんだと、皆さんに実感していただけたのか、コロナ禍が落ち着いた頃に客足が少しずつ増えていったんです。
それならばと、1000円未満で味わえる定食を用意させていただいたり、価格を少し抑えることで気軽に訪ねやすい割烹として打ち出していったんです」。
ランチは評判を呼び、地元五泉はもちろん、新津や新潟市から足を運ぶ人も。
「皆さんがおっしゃるのは、このクオリティをこの価格で味わえるのがうれしいと。私たちのちょっとした工夫をこんなに喜んでいただけるなんて、うれしかったですね。
兄は昔から“小さい店なんだから、やれることは何でもやってみよう”というタイプで、ランチも創業当時からやっていました。うちはこうだ!と決めつけず、お客様のためにどう変わっていけるか、そう考えさせられる機会になりました」と明間さんは微笑みます。
最近では、ご夫婦とそのご両親、赤ちゃんで訪ねてきて、お食い初めをするお客様も増えているのだそうです。
「35年以上お店を続けていますが、お食い初めをしたいというお客様が増えたのは、ここ数年ですね。割烹というと、年齢を重ねた方が利用するというイメージをお持ちの方もいるかもしれませんが、若い方々の感性や感覚で当店を選んでいただく機会が増えているのを実感しています。
普段使いで気軽にランチを楽しんでいただくだけでなく、大切なお子さんの誕生から、大事にされてきたご家族の法要の際にも、当店を選んでいただける。地元の皆さんの大切な時間をお手伝いするお店でありたいですね」。
EPILOGUE
五泉の魅力を伝えるコンシェルジュ的存在に
山福の評判は五泉市内に止まりません。
「市外や県内外からも頻繁にお客様が訪ねてきてくださって料理を味わってゆったりと時間を過ごすことが多いですね」と明間さん。
その際にお客様によく聞かれるのが、
「この後、どこか寄って楽しめるところないですか?」
との一言だとか。
「これはここ数年、よく尋ねられるんです。ですが、私自身五泉って何があるっけ?と、お客様におすすめできる場所やものというものが、思いつきづらかったんですよね。
ですからここ数年、休みの日は妻と一緒に五泉市内や新発田市など下越から、少し足を伸ばして三条や長岡まで巡って、お客様に訪ねてほしいスポットを探しているんです」。
休日になると花の名所や歴史的建造物を見に回ったり、おいしいご当地グルメを味わったり…奥さまとデートを楽しまれているようで、実は観光のリサーチを行っていらっしゃるのだそうです!
明間さんが見せてくださったスマホには、四季折々の花の景色や美しい風景、おいしそうな食べ物の写真の数々が!(ここでご紹介できないのが残念)
「行ったことがない場所だと、お客様にも説明できないですし、聞かれて「わからない」と言われたら、私だったら残念に思うよなと(笑)。女性のお客様が多くいらっしゃるので、花や自然、おいしいものを中心にあちこち探しています。
そんなふうに出かけるようになったら、自分自身も「あ、こんないい場所があったんだ」と知らなかった景色や魅力に出会うことができたんですね。歳を重ねたせいもあるかもしれませんが、身近にあるものをこれからも大切に守っていこう…そんな気持ちになっています」。
五泉を愛してやまない明間さん。
まるで、五泉の観光コンシェルジュですね!
「五泉はニット産業も盛んですし、五泉ニットにふれる施設やイベントも、昔に比べて増えてきました。山福で食事を楽しんでいただくことはもちろんありがたいことですが、ニットなどの地域が誇る産業と共に、五泉の自然や魅力あるスポットを、この場所から発信できたらいいですね」。