鈴木 康弘 (すずき やすひろ)さんの自己紹介
五泉生まれ、五泉育ちです。2000年に父が脱サラして創業した造園会社「有限会社勝樹園」と、「お庭とお花の専門店 はなんぼ」を経営しています。普段は五泉市内や新潟市近郊の個人のお客様や店舗などに伺って庭の工事や維持管理をしていて、花の販売やお店のことはスタッフに任せています。今は造園業見習いの息子(21歳)と一緒に働いています。
PROLOGUE
前回ご紹介した五泉市のパティスリー「渡六菓子店」さん。
店内のところどころに花が飾られ、店先では遊び心あふれる木のブランコが置かれた小さな庭も印象的でした。
「2014年にリニューアルオープンの際から、庭や外構は「はなんぼ」さんにお願いしているんです。お店は花苗や鉢植え、ガーデングッズもたくさんあって、買い物するのも楽しいと思います。あとね、看板猫がかわいいんです」と教えてくださった渡六菓子店の渡辺さんご夫妻。
花と緑と猫…
ごっつぉライターの私が大好きな組み合わせです。
これはもう、愛でに行くしかありません。
そんなわけで、お二人に「はなんぼ」の場所を教えていただき、五泉の中心市街地から村松方面へ車を走らせました。
「のどかな田んぼ道をひたすら向かっていくと、「田んぼの中の三角屋根」が見えてきますよ」と聞いていましたが…
見えてきましたよ、三角屋根。
看板とノボリも発見です。
砂利道を進んでいきますが、周りは田んぼ。
陸の孤島…のようにも見えます(笑)。
お店の目の前に到着です!
寒い冬の日にもかかわらず、お店の周りには色とりどりの花苗が並び、寒さに負けじと店先を彩っています。
ここだけは華やかな春のよう…。綺麗ですねぇ。
お店の中にも入ってみます。
天井を見上げると、屋根部分にはカーポートの屋根材などにも利用される透明のポリカーボネートが敷かれ、店内に明るさと開放感をもたらしています。
あらゆる場所に鉢植えや観葉植物も置かれて、本当に華やかですね!
そして…いました、猫!
寒いのでしょうね、ストーブの周辺を静かに陣取っています。
か、かわいい…。
さて、「はなんぼ」の経営を行いつつ、「勝樹園」の名称で造園業を営むのが、代表の鈴木康弘さんです。
この場所で、この広さのお店…どのような経緯で始まったのでしょうか?
お店の立ち上げから携わった鈴木さんに、「はなんぼ」のあれこれと、花や緑、五泉という地域への思い入れについて、お話をお聞きしました。
INTERVIEW
「植物のある暮らし」を支える個性豊かなガーデンショップ
外では寒い風が吹き荒れ、身体中に使い捨てカイロを貼って取材に臨んだこの日(笑)。
店内を彩る植物を見ては、「植物ってこんな寒い日でも元気だし、心を癒やしてくれるんだなぁ…」としみじみ。
店内を見回してみると、「はなんぼ」の入り口左手には、テーブルや椅子が置かれたウッドデッキがありました。
このスペースの奥には、植物はもちろんガーデングッズも並び、お店の中は…なかなかの広さ!
「うーん、多分ホームセンターの園芸コーナーを除けば、新潟県内の園芸店の中では一番広いんじゃないですかね?」と鈴木さん。
「はなんぼ」のオープンは24年前。
鈴木さんのお父様が造園業を始めたのを機に、花と緑を楽しめるお店を作り、新潟市内の造園会社で経験を積んだ鈴木さんも家業に入ったそうです。
「その当時って、新津に花夢里にいつができたりと、いわゆる花やガーデニングブームの始まりでもあったんです。うちは造園がメインでしたけど、花や植物をもっと身近に楽しんでもらえるように、父も僕も生まれ育った地元の五泉に園芸店も作ったと聞いています」。
言われてみれば、その頃、テレビや雑誌などの影響で「ガーデニング」が流行り出したような覚えが…!
ちなみに、五泉はチューリップや牡丹(ぼたん)など、花の街としても知られていますが、ガーデニングが流行る以前から、花に親しむ文化はあったのですか?
「いや、そうでもないと思います(笑)。見ての通り、店がある村松の辺りって五泉の中でも自然が豊かで、緑しかないでしょう。自然が身近だっただけに、わざわざ自分で花や植物を育てたいって人は少なかったんじゃないかな?と僕は想像してます」。
切り花を売るいわゆるお花屋さんは五泉市内にも昔から何店かあったそうですが、花の苗や庭木、鉢植え、園芸用品の専門店は、当時はまだ珍しかったそうです。
「花好き、植物好きのお客様のおかげで、徐々に口コミが広がっていった感じですね。今では五泉市内だけでなく、店の噂を聞いた方々が県内外からいらっしゃっています。ありがたいですよね」。
植物に誠実に向き合うから、人にも真摯に向き合える
お店がオープンしてからの24年間。
「はなんぼ」ではお客様や時代のニーズの変化と共に、扱う商品も少しずつ変えながら、種類や品数も増やしてきました。
現在の「はなんぼ」では、植物は一年草から多年草、宿根草、インテリアとしても楽しめる観葉植物や多肉植物と幅広く展開。
植物をより身近に楽しむための鉢やガーデニング雑貨、土や肥料など、園芸を楽しむためのツールが充実しているのも「はなんぼ」の強みです。
さらに印象的だったのが、店の入り口付近や店内でたくさん見かけたリース状の鉢植えや寄せ植えの花々。
パッと見た感じ、いわゆる「寄せ植え」なんですが、花や葉の一つ一つが生き生きとして、野原の中に咲いているような…そんな自然な雰囲気が感じられるのです。
「これは看板商品でもあるギャザリングです。ギャザリングは、根っこが付いた植物を花束のように組み合わせていく園芸の新しい手法なんですが、一般的な寄せ植えよりも花が自然に咲いているように見えつつ、お手入れもしやすいです。この手法だと、ゆっくり植物が成長していくんですよ」と鈴木さん。
うっとりするような美しさがあるギャザリング、自宅用はもちろん、新築祝いや開店祝いなどにも喜ばれているそうです。
「はなんぼ」にはギャザリングを教えることのできるギャザリストが数名在籍し、商品としてのギャザリングの販売はもちろん、一般の方むけのギャザリング教室も開催しています。
それゆえ、鈴木さんが思う「はなんぼ」の一番の魅力は、「人」にあるといいます。
「うちのスタッフって、お客様と花や植物に関する世間話を楽しむだけじゃなく、よくいらっしゃるお客様からは人生相談や恋愛相談をされることも多いそうなんです。
それってどうしてなんだろう?と僕も思ってたんですが、植物に向き合うことや育てることって、人に向き合うこととすごく似ているからなのかなって。
日々植物に向き合うことは、お客様にも向き合うことと同じだと思うんです。
だから、わざわざこの場所まで訪ねてきて植物を楽しんでくれるお客様のためになりたい、そんなふうに思いながら仕事をしている結果、お客様から頼っていただける機会が増えていったのかもしれませんね」。
実際に、お店ではいたるところでお客様とスタッフの方々の会話が繰り広げられ、中には「卵焼きを作ったから持ってきたの」と差し入れを届けに来たお客さんや、「遊びに来たよ〜」と挨拶するお客さんの姿も。
園芸店に来るお客様は植物をじっくり見て選ぶ…そんなイメージがありましたが、ここにいらっしゃる皆さん、とにかく楽しそう!
「店の中を歩いて回ってもらうと気付くと思うんですけど、ここって園芸店でありながら、目的が一つに絞られない店なんですよ。
ギャザリングで検索して来てくださる方もいれば、ふらっと花苗を買いに来て猫や植物に癒やされたとか、ちょっと日常に疲れたからウッドデッキでぼーっとしたいという方もいたりね。ここはもう店というよりも、いろんな方の目的や思いが交わる一つの“場”なんだと思っています」。
EPILOGUE
五泉の交流人口を増やすために、「はなんぼ」ができること
花や植物に限らず、さまざまな思いや目的をもって訪ねてくる人が多いという「はなんぼ」ですが、「普段は外仕事がメインで、店にはほとんどいません(笑)」と鈴木さん。
で、何をしていらっしゃるのかというと、五泉市内外の造園やエクステリアの工事に数多く携わっています。
お店は頼れるスタッフの皆さんに任せられることで、「はなんぼ」のもう一つの顔である造園業に集中することができるのだそうです。
個人宅から店舗や施設など、鈴木さんはさまざまな場所の庭づくりに関わってきました。
庭づくりは出来上がった直後だけでなく、その先の数年、数十年先の風景を思い描きながら作り上げていきます。
その中で鈴木さんが大事にしてきたというのが、ご自身の“感性”。
「感性っていうと、何だか気恥ずかしいんですけどね(笑)。
でも、渡六菓子店の渡辺さん夫妻から依頼を受けたお店の庭もそうでした。デザインはお任せしてくださったんですが、ティールームを設けるということで、窓から紅葉を楽しめたらいいんじゃないかと思って、モミジの木を植えてね。秋になると葉が真っ赤になって絵になると、喜んでいただきました!」。
一方で鈴木さん、「もっと五泉の魅力を身近に、もっと深く知ってもらえたら」と、地道な活動もされているのだそうです。
「例えば、新潟市の家具屋さんが主催するイベントで観葉植物のブースを出店したり、 “花があると華やかになるから”とお声がけいただいて、「五泉ニット複合施設 LOOP&LOOP」の五泉ニットのイベントでもワークショップをやったり、植物の物販も行いました。
いろんな方と会って話をしてみると、五泉って水や花、風景といった自然に、おいしい食べものもたくさんあるにもかかわらず、五泉市外の人は意外とそれを知らないんだなと感じることがあって。
そういった魅力を自分が少しでも発信することで、五泉を訪れる人がちょっとでも増えたらと…要するに、僕は五泉に人を呼びたい!と密かに思っているんです(笑)」。
その密かな思いは、「はなんぼ」で行うイベントにも込められています。
「はなんぼ」では、苗を販売する春のお祭り「花咲か」、フードやドリンクの販売とワークショップ、お花の販売などを行う春の感謝祭「じゃりんこマーケット」、秋にも同様の感謝祭「さんぎで」が開催されています。
「大人の方だけでなく、お子さん向けの企画もあるんですよ。昨年の秋のイベントでは重機の体験乗車も喜ばれましたし、ダンプカーを敷地内に置いて、ダンプカーの上で芋堀りを楽しんでもらった年もありました。
お祭りや買い物を楽しんでもらった後に、“じゃあ帰りに五泉の街や観光スポットを見て回ってみようか”とか、五泉に足を運ぶきっかけにつながればうれしいですよね。
僕も自分や店ができる範囲で、五泉を楽しんでもらえることを考えていきたいです」。
終始笑顔でお話してくださった鈴木さん。
「はなんぼ」は地域の方々と関わりながら、五泉の魅力を発信する一員なのだと語ってくださいました。
あ!大事なことを聞き忘れていました。
かわいい5匹の猫ちゃんたち…お店で飼っているのですか?
「そうです。たまに外に出ていることもありますが、基本、お店の中で過ごしていることが多いかな。冬はストーブの周りでぬくぬくしてます(笑)。
猫に会いに来ていただくだけでも、もちろん大歓迎ですよー!」と鈴木さん。
スリスリと寄ってくる子もいるんですよ…猫好きの皆さん、悶絶必至です。
「はなんぼ」の周辺は、春から夏にかけて、花や緑が最盛期を迎えます。
ぜひ、思い思いの時間を過ごしに、出かけてみてくださいね。