渡辺さんご夫妻の自己紹介
渡辺 修(わたなべ おさむ)さん(左)
祖父が創業した「渡六菓子店」の三代目です。18歳から東京のフランス菓子のお店で修行し、「こんなおいしいお菓子があるのか!」と衝撃を受けました(笑)。その後、何店かで修行し、27歳の時に新潟に戻ってきました。父は和菓子、私は洋菓子と親子二人三脚でお店を営んできました。
渡辺 東子(わたなべ とうこ)さん(右)
出身は新潟市です。歯科衛生士の仕事をしていた20代の頃、夫と出会って結婚。五泉市に嫁いできました。お店での役割はお客様のオーダーを伺ったり、世間話をさせてもらったりと、お客様との会話を楽しませていただいています。25歳、23歳、21歳の3人の娘がいます。
PROLOGUE
自他ともに認める「お菓子大好き!」な、ごっつぉライターの私。
取材はもちろん、プライベートでも、新潟県内のあらゆる場所で「おいしいお菓子」を探すのが、もはやライフワークになりつつあります。
昨今、情報はネットで探せば何でも分かってしまうような時代。
ですが、私が情報を得るときに信頼をしているのが、地元の人の「評判」と「声」です。
だから、おいしいお菓子を探す時も、「ねえ、地元でおいしいお菓子屋さんってない?焼き菓子でも生洋菓子でも和菓子でもいいので教えて〜!」と鼻息荒く聞きます。
(もちろん、ネットでも下調べはしますよ)
五泉を訪ねる時も、友人何人かに、おすすめのお菓子屋さんについて尋ねてみました。
「実家で子どもの誕生日会をする時は、いつもここ」
「洋菓子もおいしいし、昔から粟島饅頭と中皮(ちゅうかわ)が大好き」
「三本木から移転したよね。駐車場がめっちゃ広くて便利」
と、名前が挙がったのが、今回ご紹介する「渡六菓子店(わたろくかしてん 以下、渡六)」さん。
ご覧ください。
まず、口コミの通り、駐車場がめちゃくちゃ広い。
そして、建物もインテリアショップ?結婚式場?に、見間違えるほど大きくて、おしゃれではありませんか…!
あっ、入り口には小さな庭とブランコまであります。
店内に入ってみると…やっぱり広い!天井も高い!
和菓子、焼き菓子、ショーケースには生菓子が並んでいます。
一つ一つ丁寧に作られているのが伝わってくる、お菓子の数々。
販売スペースの右手には、薪ストーブのあるティールームも!
広い店内に駐車場、お菓子の豊富さ、そしてティールーム。
五泉の皆さんが渡六を薦める理由は、お店のホスピタリティーにも通じているような気がしてきました。
ということで、今回は渡六のシェフパティシエである渡辺修さんと、妻の東子さんに、お菓子とお店についてお話を伺いました。
INTERVIEW
街のよろず屋から、フランス菓子と和菓子のお店へ
「いらっしゃいませ」とスタッフの方の明るい声、清潔感あふれる店内。
そして、ずらりと並ぶお菓子。
お菓子屋さん、俗にいうパティスリーって「私のような人間が行ってもよいものか?」と躊躇するお店もあったりするのですが…(笑)。
渡六にはそんな雰囲気は一切感じられません。
高級感がありつつも親しみやすく、ショーケースの前では店員さんとお客様が談笑しています。
お菓子を買いに来たのに、なんだか居心地の良さまで感じてしまいました。
「うちのお店は私の祖父の代から始まりました。創業は80年近くになるんじゃないかな?」
「でも、定かではないんですよ。生き字引と言われた、義母ですら分からないそうです(笑)」
とにこやかに話してくれたのは、三代目でシェフパティシエを務める渡辺修さんと、接客を担当する東子さんご夫婦です。
「初代の頃は、砂糖が貴重と言われていた時代でした。今のように店頭にお菓子を並べて売るというよりは、冠婚葬祭の式菓子が中心だったようです。鯛の形をした粉菓子とかね。その傍らで、お店にはタバコや洗剤なんかも置いていて、今でいうコンビニに近いかもしれませんね」(修さん)。
なるほど!創業時は、よろず屋とは意外でした。
でも、当時から地域には欠かせないお店だったのですね。
ちなみに、お菓子屋さんとなったのはいつからなのでしょうか?
「初代が和菓子を、洋菓子は父が始めました。今も名物として親しまれている粟島まんじゅうや中皮は、初代が考えたものなんですよ。私は18歳の時から東京のフランス菓子店で修行したんですが、初めて食べたフィナンシェやダックワーズは衝撃でしたねぇ。“こんなうまいお菓子があったんだ!”と衝撃を受けたのを今も覚えています(笑)」。
現在、お店に並ぶお菓子は、和菓子が12種類、焼き菓子が20種類、生洋菓子系が25種類ほどで、全部で57種類ほど。和菓子はお父様の弟子だった職人さんが引き継ぎ、修さんは洋菓子を担当しているそうです。
職人の夫とアイデアマンの妻による店づくり
三代目として家業である渡六に入った修さん。
後継者として順風満帆だったのでしょうか…と思いきや、まさかの全否定!
「いやいや!とんでもない!当時は、五泉にはないおいしいフランス菓子で、みんなを驚かせたい、なんて思っていたんですが、斬新なお菓子は受け入れられず…ジレンマを感じていました…」。
本当ですか?とてもそんなふうには…。
「ええ、もう泣かず飛ばずの毎日。どうしたら上手くいくのか、悩んでいました。でもね、転機といいますか、その頃から小さなことでも、人からのアドバイスには耳を傾けるようになったんです。
大阪から毎月来る業者さんからは「せっかくええもの作ってるのに、店が目立たないから通り過ぎてしまいますわ〜。もっと外に向けてアピールせな」と言われたり、問屋さんからも「年配のお客様のためにお店の前にベンチを置いたら?」とアドバイスをもらったり。
ほんの小さなことなんですが、うちのお店を思って言ってくださった方々のアドバイスを受けているうちに、お菓子とお客様に対する向き合い方が変わってきました」。
そこで修さんが気付いたというのが、「自分はお菓子を作っているばかりで、お菓子を売ることに関して、全く勉強してなかった」ということ。
お客様にとって魅力のあるお菓子かどうか?最も大切にするべきことを、考えていなかったのだそうです。
「その時、妻の存在もとても大きかったんです。妻は聞き上手で、アイデアを捻り出すのが得意。アドバイスというよりは、接客という面からお客様に必要とされることは何かを、一緒に考えてくれました」。
一方、27歳で修さんと結婚し、全くの未経験だったお菓子屋さんに嫁いだ東子さん。
歯科衛生士として歯科医院に勤務していた頃に受講した接遇講座で、接客を学ぶ機会があり「患者さんの歯磨き習慣を変えるには、まず聞き上手になりなさい!」と院長に教わったそうです。その経験が今に生きていると語ってくださいました。
「聞き上手」。修さんの話とリンクしていますね!
また、東子さんは嫁いだ頃からずっと心掛けていることがあるといいます。
「結婚当初から夫の母に言われていたことで、“お店では笑顔でも、よそでムスッとしていたらだめだよ。五泉の方々のおかげで今、お店があるのだから、地域を大事にしなさい”と。義母はご近所さんや地域で暮らす方々をとても大切にする人で、私も大好きな母なんです。夫はお菓子作り、私は夫が作ったお菓子を通じたコミュニケーションで、地域の皆さんに寄り添いたいと考えているんです」。
それぞれの“得意”を生かし、足りない部分は二人で考え、補ってきたお二人。
「365日、結婚してからずっと一緒にいますけど、ほとんどケンカもしたことないね」
「うん、ないね(笑)」。
確かに、お二人を見ているとお話をされている最中も終始仲良し。
時に目線を合わせながら、互いを尊重しながらお話をしているのが伝わってきました!
(いやー見習いたいものです…笑)
名物お菓子は、ふとした会話と試行錯誤から生まれる
シェフパティシエの修さんと、明るく気さくな接客で店を切り盛りする東子さん夫妻。
お店に並んでいるお菓子は、渡辺さんご夫婦はもちろん、お店で働くスタッフの皆さんと共に考え、共に作り上げてきました。
どのお菓子も、地域に愛されるお菓子とお店作りに励んできた中で生まれてきたものです。
あぁ、どれもおいしそう。全部買い占めたいくらいなんですが…
その気持ちをグッと堪えて、お二人が特に思い入れのあるお菓子を3つ、教えていただきました。
栄養満点の4つの野菜、五泉産の新鮮な卵、北海道産の純生クリームを使ったロールケーキ。野菜の自然な甘さを感じます。
「まず一つは、看板商品でもある野菜ロールケーキです。このケーキは、三女が野菜嫌いだったことがきっかけで生まれた商品です。ちなみに、次女が入院した時に隣で点滴していたお子さんの親御さんがプロデューサーで、そのご縁から今でもパッケージデザインしてくださっているデザイナーさんと知り合い、野菜のロールケーキのパッケージやロゴなどをデザインしていただきました」と東子さん。
こちらの「野菜ロール」、にんじん&トマト、ほうれん草、カボチャと3つの味がありますが、どれもほのかに野菜の味と香りがするのです!
「野菜の冷凍粉砕ピューレを生地に練り込んでいます。生野菜を使って作ったこともありましたが、こっちの方が生地の味も香りも濃厚に仕上がるんですよ。もちろん国産の野菜のピューレです」と修さん。
試しに、うちの子どもたちにも食べさせてみましたが…野菜が入っているとは最後まで気付きませんでした(笑)。
野菜嫌いのお子さんがいる皆さん、ぜひお試しください!
二品目は、東子さんの何気ない一言で生まれたという「サンクフォンテーヌ」。
「泉はフランス語でフォンテーヌっていうんだってという話から、じゃあ五泉の「五(5)」はフランス語で「サンク」だから、五泉は「サンク・フォンテーヌ」だねと。そして、5つの素材が乗ったお菓子はどう!?と、私が言い出しっぺになったお菓子です」。
イチジク、アプリコット、プルーン、クルミ、パンプキンシードが乗り、アーモンド粉をたっぷりと入れた味わい深い焼き菓子です。五泉のお土産にぴったりです!
そして最後は…修さんが現在も試行錯誤中だという「シュークリーム」。
「実は今のシュークリームの味と形に行き着くまでに、かなり試行錯誤をしました。常に粉の配合、卵の割合やクリームの混ざり具合を考えながら作っています。ちなみにクリームはカスタードに生クリームも混ぜ合わせているのですが、ざっくり混ぜ合わせた状態。お客様に召し上がっていただいた時に口の中で完全に混ざり合うように、風味と口溶けにアクセントをつけているんですよ」。
「シュークリームは、きっとどのお菓子屋さんでも作っているもので、お子さんから年配の方まで愛されるお菓子でしょう?だから、作る人の心意気や味へのこだわりを表すお店のバロメーターでもあると、私は思っているんです」と、シュークリームに並々ならぬ思い入れをお持ちの修さん。
常に「おいしさ」を追求して、進化させていきたい!と、力強く語ってくださいました。
また、お菓子には五泉や近郊で取れる食材を積極的に使うのも、こだわりの一つとか。
「キムラファームさんの卵や北徳農園さんのサツマイモ、佐藤りんご園さんのリンゴもお菓子作りには欠かせませんね。最近は五泉の農家さんから、市場に出せないっていう小さいキウイを買い取らせてもらって、味は良いから大福にしたりね。五泉はおいしい素材の宝庫です」と修さん。
皆さんもぜひお店でいろんなお菓子を購入して、味わってみてくださいね!
EPILOGUE
五泉で暮らす人々の人生に寄り添うお菓子と空間を
2024年。
渡六にとっては、移転リニューアルから10年を迎える節目の年です。
お店の内装や外構は、全て地元五泉の業者さんに依頼をして作り上げたもの。
中でも、東子さんが特にこだわったというのが、ティールームです。
「このティールームは、購入いただいたお菓子と飲み物を一緒に楽しんでもらうため、あとは本を読みながらゆっくりとくつろいでいただけたらと作りました。
私の母は、新潟市の西堀でマルコという喫茶店を営んでいたのですが、私、その空間が大好きで。席数もコーヒーをサイフォンで淹れるのも、母のお店の影響です。地域の皆さんに居心地の良い場所をと頑張っていた母を見習って、私も五泉の皆さんを少しでも支えていけたらと思っています。コロナ禍でずっとできなかったジャズライブも今年は回数を増やしたいですね!」と意気込む東子さん。
そして、入り口の正面には、地元の子どもたちとケーキの写真が飾られています。
お二人がお店を切り盛りするようになって20年以上が経ちますが、赤ちゃんだった子が成人して晴れ着姿を見せに来たり、小学生だった子が結婚して自分の子どもを連れてやってくる…そんなうれしい瞬間がたくさんあるそうです。
「この前は、新津の市場で“渡六さんですか?うちの息子が彼女の家に遊びにいく時に渡六さんのお菓子を持っていって喜ばれたそうで、感謝してます”って言っていただいたんです。もうね、ふとした時にこんなふうに言われると、本当にうれしくてね。誕生日に進学・就職祝い、結婚式、お葬式と、お菓子って人生の節目だけじゃなくて、お客様の日常生活の中のふとした瞬間に喜びや楽しみを生むものなんだなぁと。
お世話になった人へのプレゼントとか、ちょっとしたお礼の品とかを考える時に“あ、渡六のお菓子を持って行こう”と選んでもらえるお店であること、地域の皆さんの日常の中で必要とされるお店でありたいです」と修さん。
そして、修さんの後継として、次女ののどかさんがパティシエとして渡六へ…!
取材に伺った日はいらっしゃらなかったのですが、すでにお菓子職人の一人として働いているそうです。四代目の活躍も楽しみですね!
取材に伺ったのは寒い冬の日。
ティールームは薪ストーブが設置され、サイフォンで淹れるコーヒーとお菓子の香りが心地よく香っていました。
暖かい空間でお二人の話を聞き、心が温かくなるようなひとときでした。
こんなすてきな場所が身近にある五泉にお住まいの皆さん…うらやましい限りです!
NEXT EPISODES
最後に、五泉市の魅力的なお二人を、渡辺さんからご紹介いただきました。
花と緑に囲まれた造園・ガーデンショップ「はなんぼ」
1人目は、村松地区にあるお花とお庭の専門店「はなんぼ」の代表 鈴木康弘さん。
渡六の入り口にある木のブランコや店内に飾られた花も、どれも「はなんぼ」にお願いしているものだそうです。
「2014年にお店を移転リニューアルした時に、植栽や外構をお願いしたのが、はなんぼの鈴木さんでした。このブランコもそうですが、私たちが思い付かないようなアイデアで、花と緑を楽しませてくれる方です」と東子さん。
調べてみると、「はなんぼ」は、根っこが付いたお花を花束のように寄せ植えをする“ギャザリング”が有名だとか。
お店には花苗から多肉植物、ガーデングッズもたくさん並んでいると聞き、今からわくわくしています!
兄・妹・弟の3人で営む、懐石料理が自慢の老舗「割烹山福」
2人目は、北五泉にある「割烹山福」の明間則男さんをご紹介いただきました。
「割烹山福」は当初、大正末期に「山福鮮魚店」として創業。
現在は、三代目で料理長である土田俊明さんと妹さん、明間則男さんの3兄妹で営んでいらっしゃいます。
「昔から式菓子を納めさせてもらったりと、父と母の代からずっとお世話になっているお店です。私が五泉に嫁いできた時に、初めて義母に連れて行ってもらったのも山福さんでした。それからは子どもたちのお祝いごとや家族の誕生日祝いなどでお邪魔していて、長くお付き合いさせてもらっています。お料理もおいしいし、見た目も本当に美しくて!お庭も綺麗で、いつも伺っても感動しちゃいます」と東子さん。
調べてみると、お店があるのは、渡六から真っ直ぐ北五泉駅に向かった先のようです。
本当にご近所さんなんですね!
老舗割烹のこだわりの懐石料理…また食べる楽しみが…(笑)。
五泉を支えるお二人に、しっかりとお話を聞いてきたいと思います!