
河口 晶 (かわぐち あき)さんの自己紹介
京都出身です。夫の仕事の都合で札幌、岐阜、福岡、徳島と各地で暮らし、徳島では「だしソムリエ」として料理教室や商品作りに携わっていました。夫の仕事をきっかけに佐渡へ移り、2025年9月からスマイルファームで働いています。guesthouse UZU佐渡では、ゲストハウス運営や農泊・体験作り、食の加工にも関わっています。
INTERVIEW
暮らしの中で育った「食」を考え、伝える力
前編では、佐渡の果物を使った商品開発に加え、農家さんとの会話から食材に新しい価値を見つける、河口晶さんの仕事をご紹介しました。
規格外の果物を前に、まず味を見て「これ、何かにできないかな」と考える河口さん。その「食材を見る目」は、どこで育ったのでしょうか。歩みをたどると、その背景には、暮らしの中で積み重ねてきた経験がありました。
暮らす土地が変わるたび、その土地の「味」が身近に
河口さんは京都府出身。結婚後、ご主人の仕事に伴って札幌、岐阜、福岡、徳島へ移り住み、子育てをしながら長く専業主婦として暮らしてきました。
「料理を専門的に学んだことはなく、基本的にはずっと自己流です。ただ、両親が働いていたこともあって、小さい頃から家族のために料理をしていました。作ること自体が好きでしたね」

岐阜で子育てを始めた頃から続けていたのが、雑誌『婦人之友』の読者組織「友の会」での活動です。
衣食住や家計について、会員同士で実践しながら学ぶ勉強会が行われる際には、会員が託児中の子どもたちの昼食づくりも分担していました。事前に献立を立て、カロリーや栄養バランス、彩り、食べやすさまで確認します。バザーで提供するお菓子にも審査があり、おまんじゅうを半分に割って「あんこが真ん中に来ていないからやり直し」と言われたこともあったそうです。
「友の会は本当にきっちりしたところで、私は家事に関してかなりおおざっぱだったので、最初は大変でした(笑)。それでも、食や家事を学び、自分なりの工夫を人前で発表する中で、生活する上での力をずいぶん鍛えてもらいました」
作る、考える、見直す、伝える。今につながる力が、暮らしの中で育ちました。
転勤先では、その土地ならではの味にも出合います。友の会で味噌作りを始めた河口さん。福岡では麦味噌や米味噌を合わせる仕込みに出合い、徳島では麹を多く使う御膳味噌を知りました。同じ味噌でも、土地が変われば材料も配合も味も違う。各地での暮らしは、その土地の食文化を知る時間でした。
暮らしの知恵が少しずつ仕事へ
ご主人の転勤に伴って各地で暮らす中で、徳島には約17年間住みました。3人のお子さんたちも少しずつ手が離れ、河口さんは「そろそろ何か仕事をしようか」と考えるようになります。背中を押したのがご主人でした。
「夫が『食が得意なんだから、それを仕事にしてみたら』と言ってくれたんです。今までいろいろ勉強しながら自由にやってきたんだからって」
あるご縁から挑戦することになったのが、日替わりで料理人が入るシェアキッチンの「ワンデーシェフ」でした。河口さんが考えていたのは、友の会でも作ってきたお団子やおまんじゅうなどの甘いもの。ところが、求められたのはランチでした。
「本当は和菓子の販売をやりたかったんですが、『ランチをやってほしい』と言われて。岐阜にいた頃に大好きだった五平餅なら、できるかもしれないと思ったんです。作ったこともなかったのに……謎の自信があったんですよね(笑)」
一人でランチを出せるよう、仕込みから調理、提供までの流れを考え、家庭用コンロでも回せる方法を数ヶ月かけて組み立てました。月に2回ほどの営業を、約2年間続けます。
家族のために作ってきた料理が、「お客さんに届ける料理」へ。ここから河口さんの「食を仕事にする」時間が本格的に始まりました。
もう一つ思い描いていたのが、自宅で外国人向けの料理教室を開くことでした。

「外国の方が家に来て英語を話す環境ができたら、子どもたちにもいい刺激になるかなと思ったんです。料理を通して交流でき、自分の得意な『食』も活かせるならやってみようかなって」
ここで新しい疑問が生まれます。外国の人に日本料理を教えるとして、何を伝えればいいのだろう。料理を専門的に学んだわけではないからこそ、まずは「日本料理の基本」を自分自身が知る必要があると考えました。
日本料理の基本を考えて、たどり着いた「出汁」のこと
その頃、お子さんの学校で映画『Canta!Timor(カンタ!ティモール)』を観る機会がありました。河口さんが心を動かされたのは、遠くのことを考える前に、まず自分自身や、自分が暮らす場所を大切にするという考え方でした。
「映画の中で、『自分が飲んでいる水が、どこから来ているか知っていますか』と問われたんです。でも私は答えられなかった。毎日使っているものなのに、その背景を全く知らなかったんです。その問いが、自己流でやってきた料理にも重なりました」
普段当たり前のように作っている日本料理を、自分はどれだけ知っているだろう。そこで思い浮かんだのが、「出汁」でした。

「レシピに『出汁 大さじ2』と書いてあっても、そもそもその出汁って何だろうって、ずっと思っていたんです。昆布なのか、顆粒でいいのか。日本料理では当たり前に出てくるのに、自分はきちんと説明できなかったんですよね」
外国の人に教えるなら、まず自分が知るところから。そんな時、新聞で「だしソムリエ」という資格を知り、認定講師を目指して学ぶことを決意しました。その後、1年以上かけて出汁について学びます。
そこで知ったのは、出汁は昆布や鰹節だけではないということ。魚、肉、野菜など、さまざまな食材から旨味を引き出すことができます。「素材の数だけ出汁がある」と知り、料理の見方も変わっていきました。
「例えば同じ鰹出汁でも、醤油を合わせればおすましになりますし、ナンプラーを合わせればタイ料理のような味になる。素材から取った旨味を土台にして、何を合わせるかで料理は変わるんです。それが分かったら、料理ってもっと自由に考えていいんだと思えました」

出汁を学んだことで、河口さんの視線は「レシピ通りに作ること」から、「素材がどんな味を持ち、何と組み合わせられるか」へ移っていきました。徳島では出汁の教室を開き、自ら出汁パックを作って味噌店で販売。味噌作りも人に教えるようになり、保育園などで味噌や出汁の教室を続けました。さらに農家の加工現場にも入り、農産物をどう加工し、商品にするかを学んでいきます。

この「まず素材を見る」という感覚は、今の佐渡での仕事にもつながっています。規格外や未熟な果物を、すぐに「使えない」と決めつけない。まず味を見て、渋みや酸味、香りを確かめ、「こうすれば活かせるかもしれない」と考える。
家庭の料理から、人に届ける料理へ。そして、素材を活かす仕事へ。一見ばらばらに見えた経験が、少しずつ今の河口さんにつながっていきました。
EPILOGUE
佐渡でも新しい土地の味を知っていく
ご主人から「次は佐渡」と告げられたのは、徳島で17年ほど過ごした後。北海道、本州、九州、四国と暮らし、「四島制覇」と冗談を言っていた河口さん。周囲から「次は離島だね」と言われていたそうですが、「そんなわけない」と笑っていたら、本当に佐渡行きが決まりました。
「徳島には料理教室も商品作りも農家さんとの仕事もありましたし、子育てもほとんどそこでしてきました。暮らしが全部でき上がっていたんです。だから、佐渡への転勤を聞いた時は、正直ショックでした」
築いた仕事も人間関係もある徳島を離れ、知らない島へ。それでも、「これが自分にとって新しいチャンスかもしれない」と捉え直してみたそうです。
「何も知らない場所へこの年齢で行けるのは、海外へ行くくらいのことかもしれない。そう考えたら、少しワクワクした自分がいたんです。私は、少しでもワクワクできるなら、なんとかなるだろうと思えるタイプ。あっ、ここでも謎の自信が(笑)」

移住前に仕事を探し、その際に見つけたのが現在働くスマイルファーム。自ら連絡して履歴書を送り、佐渡へ来てほどなく入社しました。
スマイルファームへの入社は、河口さんにとって約30年ぶりの会社勤めでした。それまで一人で企画から販売まで担ってきただけに、「人と一緒に働く」ことも新鮮でした。
「会社で動くと、一つのアイデアが宿や商品、販売先など、いろいろな仕事につながっていくんです。一人でやっていた時より広がり方が大きいですし、人と一緒に働くことで、できることが増えていくのを実感しています」
佐渡で印象に残ったのは、人との距離の近さと、暮らしの中にある祭りでした。
「農家さんたちは、こちらから尋ねればいろいろ教えてくれますし、手を差し出すと、ちゃんとつかんでくださるんです。お祭りも身近で、鬼太鼓は地域ごとにありますし、一年の暦に自然に入り込んでいる。徳島にも阿波踊りがありますが、佐渡では集落ごとに受け継がれていて、その地域で生きる力強さを感じました」
知らない土地へ移り、その土地の人に教わり、味を知り、自分の経験と重ねていく。振り返れば、河口さんはこれまでもそうやって、新しい場所で自分の暮らしを営んできました。
「佐渡は、お米も魚も、果物も野菜も本当においしい場所です。今までやってきたことを佐渡でも表現できていることを幸せに思います。UZU佐渡のUZUには、『ここにいると何かを作りたくなって、行動したくなって、ウズウズしてくる』という意味が込められているんです。私にぴったりな場所だなって思っています」

当初は移り住むことに不安を感じていた佐渡も、今では「ずっと住める」と思える場所に。これまで培ってきた食の知恵と行動力を携えて、河口さんの“好奇心の渦”は、これからさらに広がっていくことでしょう。
NEXT EPISODES
最後に、河口さんゆかりの魅力的な方々をご紹介いただきました。
「ふれあえ農園」の河部佳奈子さん、大地貴之さん
まず、佐渡で農薬を使わない米や果物作りに取り組む「ふれあえ農園」の河部佳奈子(かわべかなこ)さんと大地貴之(おおちたかゆき)さん。農作業や収穫体験も受け入れ、UZU佐渡では朝食に「ふれあえ農園」のお米や平飼い卵を使っているそうです。
「無農薬を特別なものにせず、もっと身近にしたいという考え方が素敵なんです」と河口さん。自然体で農業と向き合う河部さん、大地さんのお話、ぜひ聞いてみたいです!
「民宿 又七」の榎谷裕人さん
続いて、小木の「民宿 又七」を営む榎谷裕人(えのきだにひろひと)さん。「農泊のアドバイスをもらえるのでは」と榎谷さんを紹介してもらったことをきっかけに交流が始まり、たらい舟の漕ぎ方も教えてもらったそうです。
「榎谷さんはとにかくエネルギッシュ!話を聞くのが毎回楽しみなんです。もっといろんな人に活動を知ってもらえたらと思って、ご紹介しました」
ふれあえ農園のお二人と、榎谷さんのエピソードも、どうぞお楽しみに。











