岡部 健太郎 (おかべ けんたろう)さんの自己紹介
佐渡市達者集落出身です。地元の高校を卒業後は佐渡を飛び出して、東京の叔父のところに居候し、その後は栃木と群馬で働いていました。佐渡を盛り上げていきたいと、Uターンしたのは2021年です。群馬でカヤックのインストラクターを経験し、2022年4月にシーカヤックとSUP(サップ)の体験ツアーを行う「Show by JAWS」を開業しました。
PROLOGUE
新潟市内の海岸線を車で走っていると、海の向こうにうっすらと見える佐渡の山並み。
夕方、日が沈むと、島のシルエットと地平線がオレンジ色に染まり、時間が経つごとに空が深い藍色へと変わっていきます。今の時期、この景色がとにかく美しいのです。
そんなごっつぉライターの私を魅了してやまない佐渡なのですが、皆さん、佐渡は大佐渡・小佐渡と大きく分けられるのはご存じでしょうか?
ざっくりとした説明にはなりますが……「大佐渡」と呼ばれるエリアは島の北部に位置する雄大な自然が広がる地域で、「小佐渡」は島の南部にあり、美しい海岸線が特徴的ともいわれています。
さて今回、ごっつぉLIFEクルーが朝一のジェットフォイルに乗り、嬉々として向かった先は、大佐渡エリアに位置する「達者(たっしゃ)海岸」です。
達者はかつて金山でにぎわった相川中心部から海岸線に沿って北へ向かい、佐渡の景勝地として知られる「尖閣湾」にほど近い場所にある小さな集落です。
ちなみに、「達者」という名称は、平安時代の物語「山椒大夫」で知られる「安寿と厨子王」の伝説がもとにあるのだとか。「安寿と厨子王」は、安寿と厨子王の姉弟が母と生き別れになる物語。盲目となった母が、息子の厨子王と再会した場所が、この佐渡の達者だと伝えられてきました。「達者」という地名は、互いの無事を喜び合った母子の言葉に由来しているそうです。
そんな歴史ある達者で、近年シーカヤック体験を提供しているのが、今回ご紹介する「Show by JAWS」の岡部健太郎さん。
達者の海岸は、佐渡の中でも透明度の高い海を楽しめると昔から評判でしたが、シーカヤックの体験ができることで、達者の海の魅力が今まで以上に楽しめると今、注目を集めています。
「Show by JAWS」のシーカヤック、SUPの体験ツアーは3月〜11月まで行い、1日5ツアーの中から都合の良い時間帯を選んで参加するスタイル。
参加できるのは5歳からご年配の方までと幅広く、少人数制でガイド兼インストラクターの岡部さんがレクチャー・サポートするので、初めてでも安心して楽しめると評判です。
そして、岡部さんは弱冠29歳!
佐渡・達者出身の岡部さんは、一度は島を離れて東京で暮らしたものの、ふるさとの美しさを再認識しUターン。現在はシーカヤックのガイドとして、佐渡の魅力を多くの人に伝えたいと取り組んでいます。
その活動には、岡部さんが幼い頃から見てきた達者の風景と、地元を思う熱い気持ちが込められていました。
INTERVIEW
美しい海とのどかな山に囲まれた「達者」
「風も気持ちいいですし、せっかくだから浜辺に椅子を置いて、お話ししましょうか」。
岡部さんの粋な計らいで、今回インタビューさせていただいたのは、達者海岸の浜辺!
聞こえるのは穏やかな波の音と、カモメの鳴き声。午前中に漁に出たと思しき漁船が船着場に戻る音も聞こえてきます。ひたすら穏やかでのんびりとした時間が、達者の浜辺には流れていました。
「海岸に沿って家が並んでいて、海岸線の上には「お達者米」というブランド米が作られている棚田が広がっているんですよ」と岡部さん。
そうなんです、海岸の後ろに広がる緑豊かな山々の景色も見事なんです!その山麓には美しい棚田が広がっています。日本海からの潮風と山からの清流に育まれたこの棚田では、昔ながらの手法で丹精込めて米作りが行われています。
「僕が小さい頃、達者はもっとにぎやかだったんですよ。夏になると、海水浴客でいっぱいになって、海には大きなパラソルがずらっと並んで、毎日お祭りのようでした。
親戚が達者で民宿を営んでいましたし、夏場は海水浴に来ていた観光客の方とも一緒に遊ぶこともありましたね。砂浜で駆け回ったり、海に飛び込んだり。本当に楽しい思い出ばかりです」と岡部さんは懐かしそうに振り返ります。
岡部さんは地元の高校を卒業後は佐渡を離れ、“自分探し”がしたいと東京へ。
当時は何かやりたいことが明確にあったわけではなかったそうですが、自動車工場などで働きながら「自分にできることは何か、自分が好きなことは何か」を考え、もがいていたという岡部さん。あぁ、すごく分かります、20歳前後の焦燥感……!
そんなことを毎日考えているうちに、ふと岡部さんの中で思い浮かんだことがありました。
それは、「関東に出てきてからも佐渡には定期的に帰っていた」ということ。
「確か、21〜22歳の時ですね。その時は趣味や特技もなく、ひたすら働いているような毎日を過ごしていたんですが、佐渡には年末年始やお盆、地元のお祭りの時も帰省していました。ある時に、あ、自分は達者が好きなんだ、だからこうして事あるごとに帰るんだと、自分で気付いたんですよね。そうしたら、佐渡を盛り上げるとか地域で活動することに興味が出始めて、佐渡に関することだったら、自分も熱量を持って取り組めるんじゃないかなと思うようになったんです」。
地域の資源と魅力あるコンテンツからイノベーションを生む
「思いに気付くと、行動が変わるんですよね」とは岡部さんの名言!
「達者を盛り上げたい」との思いを持って佐渡に帰省するようになってからは、地域で活躍されている人と出会いやその方々とつながる機会をつくるためにと奔走しました。
「自分が見ていなかっただけで、佐渡には自分の地域のために取り組んでいる、かっこいい大人たちがたくさんいました。そこで自分も初めてこの達者という場所のために、できることはないか、自分と達者を見つめ直す機会になりました」。
それからというもの、岡部さんは佐渡に帰省をする度に地域の先輩や青年会の方々との会話を重ねていきました。その中で最初に立ち上げたのが、「達者プチリゾート計画」です。
リゾート!?プチ!?一体どんな計画だったのですか?
「“プチ”が重要なんです(笑)。ハワイのようなリゾート地じゃなくて、もっとこぢんまりとしていながら、高付加価値なコンテンツがある場所を目指そうと考えました」。
そのために、「達者プチリゾート計画」をベースにして、まずはマーケットと認知度を拡大するために何が良いのか?を模索。地域の資源を活かしたものを取り入れることも考えながら、岡部さんは計画を進めていったそうです。
地域の資源といえば……達者であればやっぱり海!でしょうか?
「そうです!達者の海は、透明度が高くて美しいと昔から評判でしたから、海はまさに地域の資源。でも、今の時代は海水浴場を整えただけでは他との差別化は図れませんし、今はモノより体験が重視される時代。地域の資源と体験をセットで考えて、「達者プチリゾート計画」のスタートとしてベストだと行き着いたのが、シーカヤックだったんです」。
「達者プチリゾート計画」という目的が明確ゆえ、あとは何をすべきかは逆算して考えていったという岡部さん。群馬県みなかみ町と中之条町の湖でカヌーツアーをやっている会社に入社し、カヌーツアーのガイドとして経験を積み、インストラクターの資格も取得。
そして、2021年12月に佐渡へ再び戻り、翌年4月に達者でシーカヤックとSUP体験をメインとした「Show by JAWS(ショーバイジョーズ)」を開業しました。
ちなみにSUPとは、スタンドアップパドルボードの略で、サーフボードより少し大きいボードの上に立ち、パドルを漕いで水面を進んでいくハワイ発祥のウォーターアクティビティ。最近は海だけでなく、川や湖でも体験できる話題のアクティビティです。
ところで、この「Show by JAWS」という名前が素敵だと思いませんか?「商売上手」という意味もありますが、「達者海岸には昔、遊覧船が出ていたんですが、その船がサメの形をしていて「シャーク号」と呼ばれていたんです。それに加えて、サメ=映画の「ジョーズ」ということで、サメにあやかって屋号を付けました(笑)」と岡部さん。遊覧船が出ていた頃の達者のにぎわいを少しでも取り戻せたら……「Show by JAWS」の名前には、そんな願いも込められています。
「シーカヤックやSUPがきっかけで、この場所からマーケットが広がったら、 次に宿をやる人、飲食店を始める人と、この場所で新しいことを始めたいと思う人が一人、二人と増えていって、地域が盛り上がるのではないかとも考えました。
それに、佐渡は移住も促進しています。移住して佐渡で何かやりたいという人も一定数いると思いますが、何もないゼロの場所でやるよりもマーケットが広い場所で何かを始めた方が次につながっていくきっかけになるとも思っているんです。イノベーションの土台といいますか、達者を「何かやりたい」と選んでもらえる場所にしていきたいですね」。
EPILOGUE
海、空、風を五感で感じる、達者ならではの体験を
取材に伺ったこの日。残念ながらシーカヤックを体験することはできなかったのですが、写真を交えてどんな体験ができるのか、岡部さんに教えていただきました。
まずはご覧ください。海の碧さや水の透明度、それに風景の美しさ。
写真を見ているだけで、冒険に出るような高揚感を感じてしまいませんか?もはや私の頭の中には、ドラゴンクエストのテーマ曲が流れています。まるで海を旅する勇者のよう……!
「僕が提案するシーカヤックやSUPの強みは、単なるアクティビティではなく、佐渡の自然や文化、歴史を深く知ることができる点にあります。カヤックに乗りながら、達者の伝説や集落の成り立ちなども参加者の皆さんにお話しているんですよ」。そんな岡部さんの計らいは、新潟県内外はもちろん、海外からの観光客にも喜ばれているそうです。
特に人気なのが、夜のカヤックツアー!
漆黒の闇に包まれた海の上を、海中を照らすライトを付けたカヤックで進むナイトカヤックは、海の中を泳ぐ魚たちやゆらゆらと漂う海藻の姿を幻想的に映し出します。
空を見上げれば、満点の星。星空の下を滑るように進むその体験は「感動する!」と参加者の方々から大好評です。私もこれ、今年の夏に絶対に体験してみたいな〜!!
「Show by JAWSの活動を通してやっていきたいのは、達者を今まで以上に盛り上げて、100年後も続く持続可能な地域にしていくことです。
そのためには地域の方々の力も必要ですし、祭りやイベントを通じて、達者の文化や伝統にも触れてもらうなど、一緒に新しい魅力を作っていきたいですね。訪れる人と地域の人が交流することで、達者への理解も深まると思っているんです。そこに暮らす人々の想いや、地域の歴史も共に伝えていくこと。それも大切にしていかなければなりません」。
取材の最後、岡部さんに「佐渡の一番の魅力は?」と尋ねてみました。すると岡部さんは「何といっても人と人との絶妙な距離感です」とにっこり。
「小さな島だからこそ、みんな顔見知り(笑)。でも、べったりし過ぎない、ほどよい繋がりが佐渡にはありますね」。
達者の海岸に佇む岡部さんの目は、達者の海のようにキラッキラ!これまでの佐渡にはなかった新しい風が、達者の海から今、吹き始めています。
NEXT EPISODES
最後に、佐渡の魅力的なお二人を、岡部さんからご紹介いただきました。
代々続く無名異焼の窯元を受け継ぐ「北沢窯」
1人目は、佐渡市相川で無名異焼の窯元を営む「北沢窯」の其田弘輔さん。
無名異焼は江戸時代末期から作られている佐渡独自の焼き物です。
「其田さんとは年齢は違うのですが、お互いにバスケをしていたので、僕は中学生の頃から其田さんを知っていました。今は佐渡で北沢窯を継いで、新しい無名異焼の表現に取り組んでいらっしゃいます。密かにリスペクトしている地元の先輩なんです」と岡部さん。
無名異焼や北沢窯の歴史、現在はどんな器を作っているのかお聞きしてきたいと思います!
TikTokなどSNSで話題の「キムチの家」
2人目はSNSで発信した直後にキムチが売り切れると、全国的に話題の「キムチの家」の硲(はざま)博巳さんです。
「硲さんも高校の1個上の先輩で、同じバスケ部でした。今はTikTokで話題になるくらいの人気ぶりですが、常に新しいことにもチャレンジされている姿に刺激を受けています。キムチもおいしいんですよ」。
硲さんもお母様が始めたキムチの販売を受け継ぎながら、SNSを駆使して国内外へ佐渡とキムチのPRに励んでいるそうです。
「北沢窯」の其田さんと「キムチの家」の硲さんのエピソードも、どうぞお楽しみに!