神蔵 みゆき (かんぞう みゆき)さんの自己紹介
高校卒業後は佐渡を飛び出して、東京の短大に進学しました。ワーキングホリデーでカナダにも渡りました。東京にいた頃にはメンタルの不調を感じることが多くなって、2005年頃に佐渡にUターンしました。佐渡で農業をしたいと考えて、思い浮かんだのがブルーベリーの栽培です。2007年自宅一角にハーブの店Berriesを開業して、ブルーベリー栽培も同年にスタート。2015年にはブルーベリー畑の近くの養鶏場跡地に移転、ジャムの製造も始めました。
PROLOGUE
突然ですが、皆さんは佐渡というと、どんなことを思い浮かべますか?
佐渡金山や二ツ亀、北沢浮遊選鉱場、小木や宿根木の街並みといった観光地から、美しい海、新鮮な魚という壮大な魅力まで、佐渡の魅力はあげるとキリがありません。
ですが、実は佐渡というと、さまざまなフルーツの産地でもあることはご存じでしょうか?
佐渡は有名なおけさ柿はもちろん、西三川のリンゴ、ル レクチエ、黄金桃、日本でも栽培地が数箇所しかない貴重な黒イチジク「ビオレ・ソリエス」、ミカン、キウイ…などなど、数多くのフルーツが栽培されているのです。
そして、数々のフルーツに紛れて、最近、密かな注目を集めつつあるのが、佐渡産ブルーベリー。
生産農家はほんの数軒。採れたてのブルーベリーは出回ったとしてもあっという間に完売してしまうなど、知る人ぞ知るブルーベリーがあるといいます。
そんな魅惑のブルーベリーを栽培しているというのが、「Berries」というジャムとハーブのお店を営む神蔵みゆきさん。
今回は、神蔵さんに「なぜ佐渡でブルーベリーを栽培に挑戦したのか?」「おいしいと評判のブルーベリーやジャムはどうやって作られているのか?」などをたっぷりとお聞きしてきました!
INTERVIEW
都会と海外で学んだのは食と環境の大切さ
両津港から佐渡一周線(国道350号)を車で走ること15分ほど。
田んぼと畑が広がり、時折、「コケコッコー!!」と鶏が甲高く鳴くのが聞こえる、ひたすらのどかな風景の中にBerriesはあります。
お店の中には、ブルーベリーや季節のフルーツでつくったジャムから、ハーブティーや食品、製法にこだわったオイルや洗剤など、自然派の商品や食品が並んでいます。
決して数は多くないのですが、どれもこだわり抜いた商品を置いているというのが、ヒシヒシと伝わってくるようにも感じました。
「高校を卒業して以来、長らく佐渡を離れていて、東京で働き、ワーキングホリデーでカナダにも渡りました。都会や海外での暮らしでジャンクフードばかり食べていたせいか、体の調子が悪くなってしまったんです」。
カナダではサプリメントやハーブに関することを学ぶ機会もありましたが、東京に戻るとメンタルに不調を感じることが続いていたという神蔵さん。
時々佐渡に帰省し、自然に触れたり、ゆったりとした気持ちで過ごす生活を繰り返している中で、心と体に少しずつ変化を感じるようになったといいます。
「心も体もどんよりとした気持ちが続いていたのですが、佐渡にいると、暗闇の先に光が見えるような感覚になっていきました。症状も徐々に良くなり、佐渡という地に足を下ろすことでエネルギーを感じるような気がしたんです。大地に触れることで元気をもらえる。ということは、土に触れるといえば農業だ!と思い立ち、佐渡に戻って農業を始めたわけです。唐突でしょう、よく言われます(笑)」。
生まれ育った佐渡という場所のパワーで、英気を養ったという神蔵さん。
新たに挑戦しようと心に決めたのは、なぜか、全くの未経験だった“農業”だったのです。
ポッと頭に思い浮かんだのはイチゴでも鶏でもなく「ブルーベリー」
「農業をやる!」と決めた神蔵さん。周りの人たちに相談する中で、「イチゴはどう?」「お父さんがやっていた養鶏は?」と、いろんなものを勧められたそうです。
でもなぜか、「私の中ではイチゴも鶏もピンとこなくて。ある時、ぽっと頭の中に思い浮かんだのがブルーベリーだったんです。なんでブルーベリーだったのかって、それは私も説明できないけど、本当にある時に閃いたんですよね(笑)」。
そうと決めたら行動が早い神蔵さんは、生産の研修会に申し込み、そこで出会った群馬県のブルーベリー農家の方のもとへ通い、佐渡でのブルーベリー栽培に向けて奔走しました。
「最初にブルーベリーの苗を植えたのは2007年で、本格的に収穫できるようになったのは2011年。けっこう時間がかかりましたねぇ。ハウス栽培と露地栽培を併用して、数年をかけて一定量を収穫できるようになると、両津の定期市でパック詰めをしたブルーベリーやハーブの苗を販売するようになったんです」。
朝市で顔を覚えてもらい、買ってくれたお客さんから「おいしかったから知人に送りたい」と言われてつながりができ、さらには送られた人も「おいしかったからまた食べたい!」と注文が入ったり…という循環ができ、神蔵さんのブルーベリーの評判は佐渡から新潟本土や県外にも伝わっていきました。
佐渡で就農することで、果物栽培が盛んな西三川や小木でつくられる果物のおいしさを改めて知った一方で、ハネものと呼ばれる形がいびつであったり、傷があったりと食べることができるのにも関わらず、流通されない果物の多さも知ることになりました。
もちろん、自身が手がけるブルーベリーもハネものが多く出たそうです。
「それを活用するために始めたのがジャムの製造でした。佐渡にはいろんな果物が生産されているし、ハネものを買ってもらうと助かるという農家さんも多かったというのもあります。佐渡で作られる果物だけでジャムを作ったら、佐渡はこんなにいろんな果物がとれるし、実はフルーツアイランドでもある佐渡の存在を、もっと知ってもらえるかもしれないと考えたんです」。
ジャムの製造に必要なのは、農園に併設された加工所でした。
神蔵さんは自宅車庫を改装した佐渡市三瀬川のお店から、車で数分の下横山に移転を計画。加工所とカフェスペース、ハウスと畑を兼ね備えたお店を、2015年に再オープンしました。
佐渡の農産物の可能性と魅力をもっともっと底上げしたい
手作りジャムの評判はさらに広がり、Berriesのお店に訪れる人もこれまで以上に増えてきました。時に介護や人間関係などで日常に疲れたというお客さんもいらっしゃるのだとか。
「ここにふらっといらっしゃって、“なんだか落ち着くね”とか“お茶を飲んだら心が癒やされた”というお客さんもいるんです。この場所はものをただ売るだけじゃなくて、来るだけで心が少し軽くなるような場所でもあるんだと実感しています」。
こだわったものづくりをしていく中で、興味深いコラボレートも生まれたそうです。
それは、麹と果物を合わせた砂糖不使用のジャム。
「甘酒やどぶろくを製造する佐渡発酵さんとの出会いがきっかけで、佐渡発酵さんの商品“麹のおちち”と果物を合わせて、砂糖を使わないジャムを作ることになりました。砂糖は一切使っていないけれど、麹の力でほのかに甘みを感じるし、果物そのものの味が際立つんです。素材を合わせることの面白さを発見できたコラボでした」と神蔵さんはうれしそうに語ります。
ブルーベリーとハーブの栽培、カフェと食品の販売と、多角的に取り組んでいるBerriesですが、神蔵さんのベースになるのはやはり「ブルーベリー」。
春先の整枝・剪定、植え付けから始まり、摘果、害虫取り、除草といった地道な作業をしながら、5月下旬の極早生の果実の収穫から始まり8月中旬頃までハウス栽培、露地栽培の果実を毎日収穫していきます。
「肥料の種類やタイミング、実をならす枝を見極めて剪定するなど、こだわりはたくさんありますが、おいしさの最大の決め手は収穫のタイミングかな。ブルーベリーが「完熟だよ!」と私だけに教えてくれるサインがあるんです(笑)。だから、Berriesのブルーベリーは甘い完熟ブルーベリーの果実だけをパック詰めしているんですよ」。
EPILOGUE
Berriesの最終目標は佐渡産ブルーベリーのブランド強化
現在、ブルーベリーと手作りジャムの販売はBerriesの店頭とオンラインショップで行い、ジャムは新潟市の伊勢丹やぽんしゅ館でも一部を取り扱っています。
残念ながら秋から冬にかけて、ブルーベリーはシーズンオフですが、「10〜11月は除草と灌水、12月に入るとハウス栽培の植え付け、植え替えも始まります。もう来年に向けて動き始めていますよ〜!」と神蔵さん。
「実は、うれしいことに佐渡でブルーベリーを栽培したいという若い方が最近いらっしゃるんですよ。でもね、ただ栽培すればいいというわけではなくて、おいしさと品質に徹底的にこだわらないといけないと思うんです。少しでも未熟で酸っぱすぎるものがあれば、それだけでブランド力が下がってしまいますから。おいしく実らすための栽培方法や品種の選び方も、ブルーベリーを栽培してみたい!と意気込む方には、もう喜んで伝授しちゃいます」。
神蔵さんの最終目標は、佐渡産ブルーベリーのブランド化を図ること、ジャム作りでは佐渡産フルーツのおいしさを伝えること。
Berriesから佐渡の新しい魅力がまた一つ、二つと生まれていくのが楽しみですね!
NEXT EPISODES
佐渡の版画文化を受け継ぐ新鋭の版画家
最後に、佐渡市の魅力的なお二人を、神蔵さんからご紹介いただきました。
1人目は、佐渡市出身・在住の版画家の本間尚子さん。
鮮やかで優しいタッチの色使いと、独自の世界観を版画に仕立て、オリジナリティあふれる版画作りをされている本間さん。佐渡島内の雑貨屋やギャラリーで版画の展示販売や、本間さんがデザインした手ぬぐいなども販売されています。
もちろん、神蔵さんの「Berries」でも商品を購入したり、本間さんの版画にお目にかかることもできますよ!
「本間尚子さんとの出会いは、2020年に百貨店で商品を販売することになった際に、インパクトのあるパッケージをつくろうと、お声がけさせていただきました。
佐渡は版画文化が残っていますが、本間さんの版画は“これが版画なの!?”と思うくらい、カラフルで独特の雰囲気があるんです。
以来、本間さんと同じく佐渡在住の洋裁士・木村澄子さんのお二人に、Berriesで毎年冬に“光合成”という版画と洋服・小物の展示会を開催していただいています。2023年12月2日から4日までの3日間限定で開催の予定です」と神蔵さん。
県外から佐渡へ移住したこだわりの農家「カルム農園」
2人目は、県外出身で佐渡に移住し、農業を営む「カルム農園」の梶原由恵さん。
「梶原さんとは数年前にお会いしたのですが、以前は法律関係のお仕事をされていて、お父様の実家がある佐渡で新規就農されたんです。
“とにかく農業がやりたい!”とバイタリティーあふれる方で、私もとっても刺激をもらっています。私とは作っているものが異なりますが、実際に生産している農産物の評価も高く、生産方法にもとことんこだわっている方です。コツコツと努力を積み重ねる姿がすごく好きなんです」と、同じ生産者として梶原さんをリスペクトする神蔵さん。
梶原さんはトウガラシやサンショウ、ショウガやトマトなどを主に栽培されているそうです。実際に畑や田んぼにお邪魔をして、生産環境も拝見してきたいと思います!
版画と農業。
ジャンルは全く異なりますが、佐渡から新しい魅力を発信しようと頑張るお二人に、どんなお話がお聞きできるのか?楽しみです!