
吉田さんご夫妻の自己紹介
吉田 達洋(よしだ たつひろ)さん(写真右)
1949年創業の家業を引き継ぎ、10年以上になります。仏壇に加えて、木工雑貨ブランド「KOUGI」や木育事業を展開しています。デザインやブランディングが得意です。小規模企業でも、誠実にものづくりをすれば、必ず道は開けると信じています。
吉田 香那子(よしだ かなこ)さん(写真左)
滋賀県から新潟に移住してきました。以前は広告制作会社で営業職を経験し、結婚後は夫と共に家業に就いています。木のぬくもりや文化を伝える「木育インストラクター」の資格も取得して、ワークショップも開いています。趣味はサーフィン!海とスノーボードの両方が楽しめる新潟での生活、楽しんでいます!
PROLOGUE
新潟市の8つの区の中でも、金属加工、木工、製紙、印刷など、さまざまな産業が息づく新潟市東区。最近では、2023年から開催されている「東区オープンファクトリー」など、普段は見ることができない工場の製造現場を一般に公開し、ものづくりの現場を体験できるイベントも開催しています。自治体と企業、大学が連携する産学官金の取り組みが活発になり、「産業のまち東区」の魅力を発信する動きが進んでいるそうです。

今回ご紹介するのは、そんなものづくりが盛んな新潟市東区にある仏壇製作所。木工団地と呼ばれる工業団地に工場とお店があるそうなのですが……見てください。

仏壇店というよりも、おしゃれなセレクトショップのよう……!木で作られた雑貨が並び、子ども服やファッション小物も置いてあります。あ、お店の奥にはちゃんとお仏壇もありました!
この素敵な空間と阿部仏壇製作所を営むのは、三代目の吉田達洋さんと妻の香那子さんです。仏壇だけでなく木工雑貨なども取り扱い、親子向けのワークショップも行っているそうです。一風変わった仏壇店を営む理由やお店についても詳しく聞きたい!ということで、お二人を訪ねてきました。
INTERVIEW
三本柱で支える仏壇店の新しいカタチ
さて、皆さんは、「お仏壇」と聞くと、どんなものをイメージしますか?金箔が輝く豪華な「金仏壇」が思い浮びますが、阿部仏壇製作所の店内に並ぶ仏壇のほとんどはナチュラルなデザインが印象的です。最近のお仏壇って、シンプルな造りなんですねぇ。古くから伝わるお仏壇も厳かで美しいですが、今どきのお仏壇は木のぬくもりも感じられます。

「初めていらしたお客様は、本当にお仏壇のお店?と驚かれますね!阿部仏壇製作所としての事業は仏壇業、家具などの木製品、そして木育事業の三本柱で展開しているんです」と香那子さんが教えてくれました。
まず、仏壇。これは伝統的な事業で、今でも全てオーダーメイドです。お客さんの希望する寸法や仕様を聞き、一つ一つ丁寧に作られています。
かつての仏壇は、家の「仏間」に置かれることを前提にしていたため、サイズも大きかったといいます。ところが、生活スタイルが変わった今、仏間を持つ家は減ってしまいました。だから今のオーダーメイド仏壇は、小さめのものが増えているそうです。
次に、木製品。手元置き台、ダイニングテーブル、オーダー家具。こうした生活を彩る木のアイテムには、仏壇作りで培った細かい木工技術が活かされています。

「仏壇の内部は一個一個パーツを外して作っていますから、細かいものの製作は仏壇店として得意なんです。仏壇が本業だからこそ、その技術を他の商品に活かしました」と話すのは達洋さん。なるほど〜!仏壇を作る技術が、他のものづくりに活かされているのですね。
阿部仏壇製作所の木製品の中でも、最近話題を呼んでいるのが木工雑貨ブランド「KOUGI(こうぎ)」です。こちらは阿部仏壇製作所独自のブランドで、2011年に達洋さんが兄と共に立ち上げました。箸置き、筆箱、ティッシュケースといった日常使う小さなものから、季節の木工雑貨まで丁寧に手作りしています。

ブランド名「KOUGI」は、達洋さんのお父さん(二代目)の法名「孝義」に由来していて、親孝行の「孝」と義理人情の「義」を組み合わせてブランド名にしたそうです。
「お仏壇に関しては、私が嫁いだばかりの頃は、仏壇の塗料技法を使ったり、螺鈿(らでん)を施したり、従来の仏壇らしい豪華なものが多かったですね。ですが、最近の家づくりの傾向に伴って、徐々にシンプルでナチュラルな方向へ移行していきました。今は技術というより『木を大事にする』というマインドを大切にしています」(香那子さん)。

3つ目の柱となるのが、木育(もくいく)事業です。木育とは、木のおもちゃで遊んだり、木工ワークショップをしたり、木の温もりや香りを感じることで、自然と環境を大切にする心を育てる活動のこと。香那子さんはそういった活動に携わる、木育インストラクターとしても活動しています。木育インストラクターは、幼い時から木にふれることを通じて、物の大切さや親しむ心を伝える専門家でもあります。
「木育事業では、子どもや親子向けに木を使ったワークショップを開催しています。木のぬくもりなど木の良さや利用の意義を学ぶため、木材を使ったものづくりなどが中心ですね。これは、仏壇や積み木製造で培った木工技術を生かし、次世代に木文化を伝える取り組みにもなっています」(香那子さん)
KOUGIの「おなまえ積み木」が奇跡を起こす!
阿部仏壇製作所の2つ目の柱である木製品。その中でオリジナルブランドとして展開している「KOUGI」ですが、このブランドと同じく2011年に生まれたのが「おなまえ積み木」です。おなまえ積み木とは、アルファベット文字が刻まれた木製の積み木。名前をアルファベットで表現できることから、出産祝いとして喜ばれているKOUGIのベストセラー商品です。

「夫と出会って間もない頃、夫と義兄が作っている『おなまえ積み木』を知ったのですが、ちょうど赤ちゃんが生まれたばかりの友人にプレゼントしたんです。そうしたら友人が『こんな可愛い素敵な積み木があるんだ!』と大喜びしてくれて。その時に私も「こういう商品を探している人が絶対にいるんじゃないかな!?』と思いました」と香那子さん。
当時、おなまえ積み木はほとんど知られていない商品。クラフトフェアのような限られた場所で、細々と販売されているだけのものでした。しかし香那子さんは、この積み木の価値や魅力を感じていたといいます。
その後、達洋さんと香那子さんは結婚し、香那子さんは新潟に移住します。その頃から、広告制作会社での営業経験を持つ香那子さんが、おなまえ積み木の販売戦略に本格的に取り組むことになりました。
「当時、新しく立ち上がったばかりのハンドメイドマーケット『minne(ミンネ)』に商品を登録しました。最初はほとんど売れなかったのですが、転機が訪れたのはタイトルや説明文を工夫してからですね。出産祝いや内祝いといったキーワードを商品紹介に意識的に入れることで、検索順位がぐんと上がってアクセスが増えて、注文が入り始めたんです。積み木に子どもの名前が入る商品は当時は競合がほとんどなく、出産祝いに何をあげようかと悩む人たちが「これだ!」って思うようになったのかもしれませんね」と香那子さんは振り返ります。

その後の成長は劇的でした。年間4000セット以上の売上を記録。今ではその数字さえ更新されているというので驚きます!口コミで広がり、出産祝いはこれと決める顧客も増えました。
一方、この積み木の成功が、思わぬ流れを生み出しました。なんと、30〜40歳代の若い世代が、お仏壇に興味を持ち始めたというのです。一般的に仏壇を買う年齢は50歳代以降が多い傾向にありますが、積み木を通じて来店した子育て世代が親世代となり、親が高齢になるにつれて、仏壇の必要性を考え始めるようになったといいます。
「ネットでの販売を通じて、阿部仏壇製作所を知っていただく機会になりました。おなまえ積み木を購入したお客さまからは『シンプルな仏壇の存在を初めて知った』と言ってもらえることが多いんです。高齢となった親御さんと一緒に来店されるケースも増えています」(香那子さん)
親から受け継ぐ仏壇ではなく、自分たちで選ぶ仏壇へ。若い世代が選ぶのは、インテリアになじむナチュラルな木の仏壇。その入り口が、おなまえ積み木だったのですね!
子連れで来店できる仏壇店へ
仏壇、オリジナルブランドKOUGIを含む木製品、木育事業を展開する阿部仏壇製作所ですが、おなまえ積み木の成功を追い風に、2023年3月、店舗の全面リニューアルが実現します。
新しい店舗にはKOUGIの商品の他、子ども服や木工雑貨、ファッション小物、子育てグッズやアクセサリーなどが所狭しに並んでいます。お店の中央には、子どもたちが遊べるキッズスペースも!木製のおもちゃが並び、木の温もりを感じさせる空間で、授乳室やオムツ交換台も完備。子連れで来店できるお店としての工夫が満載です。

「お子さんたちにとって『木ってどんなもの?』と感じてもらえる空間にしたかったんです。小さい頃に木に触れた体験って、大人になっても何となく心に残るものだと私は考えているんです。そういう瞬間を想像しながら、このスペースを作りました」と香那子さんはお店づくりへの思いを語ってくれました。
ここでは定期的にワークショップも開かれています。「木の温もりを感じる」「職人の手の温度を知る」といった体験を子どもたちに提供しています。
「地元の方々も気軽に立ち寄ってくれるようになりました。おばあちゃんたちが待ち合わせをして来店してくれたり、ふらっと訪ねてくれたりします。このお店が、地元の皆さんにとってコミュニティスペースのような場になっていけたら」と達洋さんも笑顔で話します。

仏壇を通じて新しいものづくりに挑み、同時に子どもたちが遊び、地域の人々が集う場へと変えていった阿部仏壇製作所の吉田さんご夫妻。次回は、達洋さんが家業を継ぐことになったきっかけや香那子さんの移住の経緯など、お二人の人生をより深掘りします。お楽しみに!








