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伝統の杉桶仕込みで創業176年 地域に愛され地域とともに歩む 伝統と革新のこだわり醤油

伝統の杉桶仕込みで創業176年地域に愛され地域とともに歩む伝統と革新のこだわり醤油

あがのagano
(有)コトヨ醤油醸造元

小林 丈将 (こばやし たけのぶ)さんの自己紹介

1978年生まれ、「コトヨ醤油醸造元」の代表取締役で、10代目です。昔ながらの杉桶仕込みを継承しながら、新しい商品の開発にも積極的に取り組んでいます。経営だけでなく、製造と販売すべてに携わりながら、県内外を飛び回る日々です。趣味は野球で、小中高と野球少年でした。今は自分はやらなくなりましたが、息子が県外の高校で野球をしているので、応援しています。

PROLOGUE

「うちの桜チップを使ってもらって、燻製しょうゆでコラボレーションをしているんですよ。この地域の里山で伐採した桜の木のチップを、歴史ある醤油の蔵元さんの新商品に使っていただけるなんて、とても光栄なことです」

阿賀野市で、木の伐採から木製品の製作・販売までを行う「Junshin-潤森-」成川さんご夫妻にご紹介いただいたのが、同じ笹神地区にある「(有)コトヨ醤油醸造元」(以下、コトヨ醤油)さん。

なんと、創業1848(嘉永元)年。江戸時代後期からこの地で170年以上も続く、地元の人で知らない人はいないであろう醤油の老舗蔵元です。

実は偶然にも、ごっつぉライターの私が愛用中の醤油は、コトヨ醤油さんのもの!夫の転勤で新潟市に来て、当初は実家で愛用していた醤油を送ってもらっていたのですが、新潟の醤油を使ってみようとスーパーで目に留まったのが、コトヨ醤油さんの「コトヨ和院」というだし醤油でした。

コトヨ和院※ご提供画像

その名の通り、白ワインを使っているとのことでどんな味なのか気になり、お試しサイズの小さなボトルを購入してみることに。

これが、とてもおいしいだし醤油で!醤油のキレ、コク、まろやかさ、そしてだしの旨み。バランスのとれた美味しさにすっかり虜になり、それ以来我が家の味になりました。

そんなコトヨ醤油さんにお話を伺えるなんて嬉しい限り。そして、潤森さんとのコラボ醤油をはじめとする新商品も手掛けていらっしゃるとのことで、お話を伺えることを楽しみにしていました。

コトヨ醤油の事務所と蔵があるのは、阿賀野市笹岡の住宅街。新潟県道55号新潟五泉間瀬線から細い脇道に入ったところに、ひっそりと佇んでいます。

外観を飾るのは華美な装飾ではなく、老舗らしい趣のある看板が1枚だけ。なんとも奥ゆかしさを感じますね。

今回は、コトヨ醤油の歴史から今に至るまで、そして10代目としての決心や地元阿賀野市への思いについても、小林さんにお話を伺いました。

INTERVIEW

江戸時代から今なお続く、職人による手作りの杉桶仕込み

日本の伝統的な発酵調味料の一つである「醤油」。その起源は室町時代まで遡るそうですが、新潟県では江戸時代半ばから北前船の往来が盛んになったことにより、その過程で醤油が作られるようになったそうです。

1930年頃に撮影された、6尺桶の前での集合写真※ご提供画像

コトヨ醤油醸造元は、嘉永元(1848)年創業。初代創業者の「小林豊次郎」の頭文字、小(コ)と豊(トヨ)を取って、コトヨ醤油醸造元と名付けられました。当主は代々、「小林豊次郎」の名を襲名しているという伝統のある蔵元です。

同社の醤油の特徴は、なんと言っても昔ながらの手作業による杉桶仕込み。6尺桶(ろくしゃくおけ)と呼ばれる、高さ1.9メートル、外径2.1メートルもの大きな杉の木桶を使用する、伝統的な製法を守り続けています。

一般に流通する市販品は、プラスチックタンクで3か月~1年程度寝かせ、機械で絞りあげる製法が主流。一方で、木桶仕込みの醤油は手仕込みで、ゆっくりと1年半~2年間も熟成させるので手間暇がかかります。現在、木桶仕込みの醤油は、日本の醤油出荷量のわずか1%ほどと、貴重なものとなっているそうです。

そんな珍しい醤油づくりを知るために、まずは蔵を見学させて頂きました。蔵見学は事前予約制で受け付けていらっしゃいます。

薄暗く、大きな杉桶が整然と並ぶ工場内に漂うのは、深い醤油の香り。

「仕込みをするのは寒さ厳しい真冬の1~3月頃です。蒸した大豆と小麦に麹菌を混ぜて3日間寝かせ、塩水とともに木桶に加えます。それから季節が移ろう中で気温に合わせてもろみをかき混ぜ、発酵・熟成を管理する作業が何カ月も続くんです。この撹拌(かくはん)作業は、もろみが育つ6~8月は毎日。多いときで1日2回の日もあり、これがかなりの体力仕事なんです。

そして、木桶仕込みの醤油は、季節の温度変化によって自然に発酵させるため、冬は寒く、夏は暑いという環境の中で寝かせて完成します。特に、夏場の蔵はものすごい暑さですよ」と小林さん。

取材にお伺いしたのは春分の頃。真冬に仕込まれたもろみが、じっと静かに眠りについているように、蔵の中は静けさに包まれていました。しかし、もろみに近づき耳をすませば「ぷつぷつ」と発酵する音が。

「うちの醤油の特徴はこの天然発酵なんですよ。杉桶の内側や、蔵に住み着いている酵母菌がいい働きをしてくれます。先々代の祖母からは『酵母菌がうちの財産だよ』と言われていたぐらい、長い年月をかけて培ってきたもので、簡単に手に入るものじゃない。これが醤油に深みと旨みをもたらしてくれるんですよ。蔵の梁(はり)に白い点々がついているでしょう、あれが酵母菌ですよ」

ふと天井を見上げると、おっしゃる通り梁に白い酵母菌が!

そして約2年をかけてゆっくりと熟成されたもろみは、ポンプを伝って圧搾へと移ります。ここでも手作業による、「袋しぼり」という伝統の手法を継承。その職人技は、思わず見惚れる格好よさがありました。

そうして火入れをし、瓶詰めをして完成。手間暇かけた昔ながらの製法を、今なお守り続けています。

この製造の全工程を、小林さんと従業員のお二人だけでされているとのことで、これまた驚きです。

地域で守られ続けてきた、地域の醤油

※ご提供画像

これだけの歴史と伝統を受け継ぐコトヨ醤油。阿賀野市エリアの皆さんにとっては誰もが知る馴染の味ですが、意外にも市外へ出ると、知る人ぞ知る醤油なのです。それはなぜでしょうか?

「うちが代々ずっと大事にしていたのは『郷土に郷土料理があるように、地域には地域の醤油をつくりたい』ということ。地域を大切にしたいという思いから、幅広く販売店を増やさずに、長年このエリアの商店や、市外の酒屋さんにだけ卸していました。この地域の学校給食や介護施設、数多くの飲食店では、ずっとうちの醤油を使ってもらっているんですよ。

でも、時代とともに商店の数も少なくなってきて、この地域を拠点にすることは変わらずに、もっと多くの方の手にとってもらえるように、ここ数年で県内の大手スーパーなどにも卸すようになりました。ただ、蔵を見てもらったように手作りなので、大量生産はできないんですよ」

なるほど、それでなかなか見かけないお醤油だったのですね!

笹神延喜、数量限定笹神延喜、笹神喜昜 ※ご提供画像

主力商品は、じっくりと熟成させた濃口醤油の「笹神延喜(えんぎ)」、県産丸大豆を使用した「数量限定笹神延喜」、延喜より塩分控えめですっきりとした「笹神喜昜(きあげ)」、白ワイン入りのだし醤油「コトヨ和院(わいん)」の4種類。

コトヨ和院 ※ご提供画像

我が家も愛用しているコトヨ和院は、先代が作った同社初のだし醤油。みりんを控えめにし、その分隠し味に白ワインを加えるという新発想!後味がすっきりしていて、だしの旨みと醤油のコクが感じられる逸品です。

2021年度新潟県みそ・しょうゆ品評会で、一般社団法人新潟県食品産業協会長賞を受賞されました。県内の多くの飲食店でも使用されているとのことで、料理のプロたちからも評判の高さがうかがえます。

ぜひ一度、味わってみてください。家庭料理の味がワンランクアップしますよ!

老舗ゆえの苦悩、跡継ぎとして決心するまで

蔵や商品について熱心に説明してくださる小林さん。ここ最近は、関東圏の百貨店への出展も多く、県内外を飛び回る日々を過ごされています。10代目として代表取締役に就任したのは、2024年の春から。

小林さんが10代目に就任するまでのお話を伺うと「全く継ぐ気はなかったんです。むしろ子供の頃から嫌で嫌で」と、老舗の長男ならではの苦悩がありました。

「これだけの老舗だから、昔からいい意味でも悪い意味でも目立って。祖母や両親は継げだなんて言わなかったけど、周りからのプレッシャーがありました。それが嫌で、就職で上京したけれど、何をやっても中途半端で。

数年で新潟へ戻り、家の仕事をしたり、他へ働きに出たりもしました。でも跡取りとしての決心がついたわけでもなく、心ここにあらずというような状況が続いていて。それが変わったのが、祖母が亡くなってからですね。『自分がこの蔵を守る』と決心がついたんですよ」

祖母の小林ノリさん(左)と母で専務取締役の小林江利子さん(右)

祖父は若くして他界し、先々代の社長である祖母のノリさんが奮闘する姿を幼い頃から見てきた小林さん。家業を強要することなく「お前の好きにしたらいい」と、いつも応援してくれたと言います。

老舗に生まれたゆえの苦悩。そして、数々の失敗を乗り越えて看板を背負った小林さん。代々歴史が続くということは、決して簡単なことではありません。人の数だけ人生がある、歴史がある、そして今がある。まさに地域の宝とはこのようなことを言うのだと、お話を伺っていてしみじみと感じました。

EPILOGUE

伝統はそのままに、進化し続ける10代目の挑戦

2019年、世界に猛威を奮った新型コロナウイルスの流行は、同社にも影響を及ぼしました。
取引先の飲食業界の低迷により、工場の生産は一時完全ストップし、売上も半分以下にまで落ち込んだ時期があったそうです。

そのような中で“ピンチをチャンス”に変えたのが、小林さんでした。

「コロナ禍で工場がストップして何もやることがなくて。そんな時に、新潟県の県産食品新市場開拓支援事業というものを知って、県産の農林水産物を使った新商品の開発にチャレンジしてみたんです。そこから生まれたのが、燻製しょうゆとポン酢です」

潤森の成川さんがおっしゃられていたものですね!

かければ燻製 ※ご提供画像

「そうなんです、燻製醤油『かければ燻製』は、以前から交流のあった同じ笹神エリアの潤森さんの桜チップを使っています。ほのかな桜の燻香を特殊技術で醤油に合わせたんですが、醤油の味が損なわれないように、香りだけを抽出するのがなかなか大変で、かなり試行錯誤しましたね」

潤森の成川さんが阿賀野市の里山から切り出した桜のチップを、阿賀野市を代表する老舗蔵元であるコトヨ醤油さんが使うという、地域間のつながりから生まれた新商品なんですね。

柿酢と佐渡レモンの和院しょうゆポン酢 ※ご提供画像

「次にポン酢は、以前からお客様に『作ってほしい』とリクエストをいただいていたのですが、実は私、酸っぱいのが嫌いで(笑)渋々開発に取りかかったんですが、ポン酢が苦手だから中途半端なものしか作れないんですよ。どれだけ失敗したか分からないぐらい、試作に試作を重ねて、それならとことん酸っぱいものにしてやろうと思って完成したのがこちらです。柿酢と佐渡レモンにだし醤油の和院を合わせて、あとは企業秘密ですね。」

その場で試飲をさせていただいたのですが、思わず歓声が…!ガツンと力強い酸味とともにやってくるのは、爽やかな佐渡レモンの風味。そして後味には、和院のだし醤油の旨味が…こんなポン酢は初めて!衝撃的なおいしさでした。

これら2つの新商品は、生産数がごくわずかとのこと。この日は商品の在庫がなく購入できず残念…新潟県内の道の駅や土産物店で販売されているそうなので、早速探しに行ってみます。

その他に、地域とのコラボはこんなところでも。

もろみを圧搾したあとの、もろみかす。昔は母乳の出にいいからと、ご近所さんに配っていたそうです。現在は、阿賀野市安田にある「神田酪農」さんの牛の餌に混ぜているのだとか。

「阿賀野市をはじめ、新潟にはいいものがたくさんあるんですよ。この地域にずっと根差してきたからこそ地域とコラボして、まだ市場に出ていない面白い商品を世の中に出していきたいですね。伝統の醤油を守りながらも、どんどん挑戦をし続けていきたいと思っています」

決して妥協しないものづくりへのこだわりは、美味しさにつながり、いつの時代も人々の舌を喜ばせる隠し味に。こんなにも貴重な醤油蔵が阿賀野市にあり、気軽に買い求められて家庭でおいしさを楽しめるとは、なんとありがたいことでしょう。

長期熟成、伝統の杉桶仕込みの醤油を、ぜひ味わってみてください!

小林さんの特別なこと、
「コトヨ醤油醸造元」の
170年余りの深い歴史のこと、
地域とのつながりで
新たに挑戦していきたいこと、
たっぷりと教えていただきました!
ごっつぉさまでしたー!!

小林さんの#マイごっつぉ

人生の恩人

老舗蔵元の長男として生まれ、様々な葛藤や苦悩を抱えてきた小林さん。そんな中、ずっと応援し続けてくれた恩人がいると教えてくださいました。「阿賀野市の市議会議員をされていた雪さんです。失敗をしたときも、将来について悩んでいたときも、『お前なら絶対にできる』と背中を押し、信じ続けてくれました。残念ながら、6年前に病気で亡くなられてしまったのですが、毎年お盆には必ずお墓参りをして、頑張っていることを報告するのが私の生きがいになっています」と優しく微笑みながら話してくださいました。小林さん、ありがとうございました!

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(有)コトヨ醤油醸造元(ことよしょうゆじょうぞうもと)

店名(有)コトヨ醤油醸造元(ことよしょうゆじょうぞうもと)
住所阿賀野市笹岡1119
地図
アクセスJR神山駅から車で約7分
磐越道 安田ICから車で約16分
営業時間8:30~17:00
定休日日曜、祝日、第2・4土曜
電話番号0250-62-2416
HPhttp://www.kotoyosyoyu.jp/
SNSFacebook: https://www.facebook.com/profile.php?id=100064419113396
備考【参考情報】
Junshin 潤森 - 阿賀野市の木製品・木材販売店
https://gozzo-line.com/agano/7997/
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