
遠藤 俊 (えんどう しゅん)さんの自己紹介
10代から20代前半は、音楽、映像関係の仕事をし、料理人をしていた時代もありました。父の他界とともに瓦業界に入り、継いでから早20年くらいになります。昔は何十軒と軒を連ねていた地元瓦メーカーがどんどん姿を消していくのを目の当たりにして、「この産業を消す訳にはいかない」と始めたのが自社ブランドのテーブルウェア製作です。2015(平成27)年当時は工場長をしていたので、デザイナーさんにデザインしてもらったものを自分で試作を繰り返し、商品化してきました。世界に通用する“安田瓦ブランド”を目指し、新商品の開発、国際展示会への出品に力を入れています。
PROLOGUE
屋根材として古くから日本家屋に使われてきた瓦。
「日本3大瓦」と呼ばれる三州瓦 (さんしゅうがわら・愛知県)、石州瓦(せきしゅうがわら・島根県)、淡路瓦(あわじがわら・兵庫県)に次ぎ、全国4位のシェアを誇るのが新潟県阿賀野市(旧安田町)の安田瓦(やすだがわら)です。
(参考資料:経済産業省「工業統計調査2019年」都道府県別瓦生産額)

安田瓦は、日本最北の瓦産地。
光沢のある銀鼠色を帯びた鉄色(てっしょく)が特徴です。
瓦は、その土地の土を使い
それぞれの気候に合わせて発達してきました。
安田瓦を語る上で欠かせないのが、雪国に特化した“強度”。
両面に釉薬(ゆうやく)を施し、1200℃以上の高温で焼き、
さらに、酸素が乏しい不完全燃焼状態で硬く焼き締める“還元焼成法(かんげんしょうせいほう)”を採用しています。
吸水率が低く、断熱性や耐寒性に優れ
凍結や雨水、積雪にも強い寒冷地仕様の瓦。
江戸末期からおよそ200年続く安田瓦の真価は全国各地で認められ、
鶴ヶ城(福島県会津若松市)や旧弘前偕行社(青森県)の屋根にも使用されるほど。
これはもう、「雪国最強の瓦」と言えるのではないでしょうか……!?
歩いてみよう!おもしろさが増す「やすだ瓦ロード」。
今回は丸三安田瓦工業さんに車を停めさせていただき、
瓦ロードを散策してきました。


やすだ瓦ロードの見どころを、丸三安田瓦工業
取締役の遠藤さんに聞いてみました。

「やすだ瓦ロードは、歩くほど瓦アートを見つけられます。
村秀鬼瓦工房さんの中庭はかわいらしい鬼がたくさんいるので
ぜひ覗いてみてください。
近くにはヤスダヨーグルトさんのY&Y GARDEN(ワイワイガーデン)もありますから、お茶をした後に散策するのもおすすめです。
瓦飾りバス停の横にあるうちのギャラリーも、なかなかの穴場スポットですよ」








ここでご紹介したのは「やすだ瓦ロード」のほんの一部。
まだまだ見どころがあります。
阿賀野市各所で配布されている「やすだ瓦ロードマップ」
を片手に巡れば、気分は宝探し!

歩くほど出合える瓦作品の数々を探してみてください。
取材中、「瓦テラス」の反対側に「にいがた瓦館・かわらティエ」ができるという情報もキャッチしました。
オープンは2023年7月30日(日)。
さらに阿賀野市がおもしろくなりそうです。
INTERVIEW
連綿と続く伝統・安田瓦の新しいカタチ。
従来の発想に捉われない斬新なアイディアで
安田瓦の新しい製品を手掛ける、丸三安田瓦工業の遠藤さん。

実は、元フランス料理のシェフなのだそうです。
安田瓦の質感が活きるハイセンスなテーブルウェア
TSUKIシリーズは、料理人経験からインスピレーションを得ているのでしょうか?

「自分が本当に使いたいものを作ったのが
最初のオリジナルブランドTSUKI。
『屋根から手元へ』をコンセプトに、
屋根材である瓦を、何とか日常的に使ってもらいたいと商品化したものです」
2015(平成27)年、プロダクトデザインを得意とする梅野聡さん(UMENODESIGN)をデザインディレクターとして迎え、製品づくりを開始。
翌年2016(平成28)年には、インテリア業界の「パリコレ」と呼ばれる
世界最高峰のインテリア&デザインの国際展示会「メゾン・エ・オブジェ(フランス)」で初めてTSUKIがお披露目されました。
丈夫で吸水性が低い安田瓦の特性が見事に活かされつつ
シンプルで洗練されたデザインは人々に衝撃を与えました。

海の向こうでデビューした安田瓦の食器は次第に評判を呼び、
2017(平成29)年にグッドデザイン賞を、2018(平成30)年には日本インダストリアルデザイナー協会が運営する「JIDAデザインミュージアムセレクション vol.20」を受賞。
さらに、そこから遠藤さんの快進撃が始まります。

「TSUKIを出してから地元企業とのコラボをやりたいと思い
鬼瓦屋さんや神田酪農さんと商品を開発してきました。
阿賀野市には魅力的な資源が豊富にあることを
商品を通して伝えたいと思い、取り組んでいます」
コラボ商品の特徴についても、教えていただきました。

「地元の鬼瓦屋さんとのコラボで完成した鬼瓦の土鍋は直火OK。小さいサイズは一人鍋や一人前のご飯を炊くのにもぴったりのサイズ感です」

「酪農業界を盛り上げるためスタートした神田酪農とのコラボ商品『PU.LE.LA/プルレ』。瓦粘土の陶器に注ぐことで牛乳がいつもより甘く感じられる不思議なミルクカップです」※遠藤さんご提供画像

「オール阿賀野市産で作る阿賀野市×SDGsをコンセプトとした「AGANO瓦器(がっき)」シリーズは、これまでに新之助米の稲藁や脇坂園芸さんの廃棄花を素材に使用して食器を展開しています」※遠藤さんご提供画像
2021年からはお隣・福島県の方からSNSで依頼が届き、
福島県郡山市の「町B遺跡」から出土された猫型土製品を模した
「a-be cat.(エービーキャット)」を商品化。

「この形にロマンを感じる」と遠藤さんは言います。
「私自身、猫が大好きで。話をもらって数分後には試作品を作り上げていました。
縄文時代からこの形があったって、すごいですよね。
お皿の販売は現在中止しています」

再販を希望する声が挙がりそうなかわいい商品。
作る工程が難しいのでしょうか?
「この猫の手形、実際に工房にいる猫の手を借りているんです。
なかなか押すのが大変で……
というのは冗談で、本当の理由は顔料の高騰。
値段が上がってしまうくらいなら販売を止めようという考えに至った訳です。
猫の手は本当に使っているんですけどね」

さり気なく笑いの要素を入れてくる遠藤さん。
ニヤニヤが止まりません。
「a-be cat.シリーズは1個売れると
22(にゃんにゃん)円が福島県郡山市に寄付されます。
箸置き、ペーパーウェイトなど、いろんな使い方でかわいがってあげてください」
作って、割って!安田瓦をもっと楽しもう。
丸三安田瓦工業を訪れたら、さまざまな体験企画は見逃せません。
中でも、SNSや各メディアで話題になっているのが瓦割り体験です。
しかも、コースは
A・平瓦を投げる爆音コース、
B・のし瓦を割る発散コースの2種類。
「やってみますか?」
という遠藤さんの問いかけに、「ぜひ!」と即答しました。

行った先に用意されていたのは6枚の安田瓦。
雪国仕様の強固な瓦との対決の始まりでした。
「瓦割りは女性のお客さんの気合いの入れ方がおもしろい方もいて。
旦那さんの名前を言ったり、会社の名前を叫んだりされる方もいらっしゃいますよ~」
笑いのハードルを上げて来る遠藤さんをよそに、いざ挑戦!

割る直前、何を叫んだかは全く覚えていませんが、
今年一番スッキリしたことはよく覚えています。
瓦は1枚500円なので、自分の手とお財布と
よ〜く相談してから挑戦しましょう。
その他にも、会社敷地内にある「ギャラリー粘土工房ものがたり」では3つの体験企画を楽しめます。

・絵付け体験:瓦もしくはタンブラーに絵付けをしてオリジナルの焼き物を作れます。
・粘土体験:オリジナルの焼き物作りに挑戦。
・フレグランス体験:瓦モチーフに色を塗り、お好みのフレグランスを付けてルームフレグランスを作ります。
体験によって料金や所要時間が変わるので、詳細は各種体験予約フォーム(記事最後にリンクあり)を確認しましょう!
体験の他、瓦を焼き上げる工場見学も無料で参加できます。
私たちごっつぉLIFE編集部も実際に回らせていただきました。






やすだ瓦ロードを歩いただけでも十分楽しかったのですが
丸三安田瓦工業に来ればさらに楽しい体験が待っています。
日によってはおいしい食べ物の販売も行っているそうです。

「GW期間は『この地区が混みますように』と願いを込めて
ちくわとコンニャクのおでんをゲリラ的に販売しました。
直前にTwitterで告知しただけですが
意外とそれ目当てに訪れる方もいらっしゃって。
秋は瓦の窯で焼いた焼き芋が大人気です」
EPILOGUE
安田瓦を世界ブランドへ!
人々を楽しませることに長けている遠藤さん。
現在取り組んでいる新たな挑戦についても教えてもらいました。

「TSUKI シリーズをパリで発表した時、食器であるにも関わらずお花屋さんからのご要望があったんです。
その経験を踏まえて、ずっと挑戦したいと思っていた
花器やインテリアとしてのシリーズ『MYK(マイケイ)』を作りました。
2023 年 6 月に開催された国際見本市(東京ビッグサイト)がデビューの舞台。
目標は、安田瓦を世界ブランドにすることです。
『日本といえば安田瓦』と世界中の人々から認知されるくらい
阿賀野市から世界に、安田瓦を発信していきます」

その他にも、「実は安田瓦の素材を派生させた医療器具方面の製品化も
視野に入れているんです」と目を輝かせながら教えてくれました。
技術継承が難しい伝統工芸の世界で
職人の技術はそのままに、次々と新しい商品に転換していく遠藤さん。
安田瓦は単なる頑丈な瓦ではなく
日常使いにも、遊びにも、最適な暮らしの道具なのだと実感しました。
遠藤さん、ありがとうございました!

