五十嵐 佑子 (いがらし ゆうこ)さんの自己紹介
遊ぶこと大好き!以前、脳脊髄の動きを見てもらった時「右脳しか動いていない」と言われた右脳100%発想型。基本じっとしていられないタイプで、表現方法は「行動」です。大勢の前で話すのは苦手だけど、1対1になるとイキイキする。文字や数字を見ると具合が悪くなるのに、法人を立ち上げてしまったので一苦労、いや百苦労。左脳が元気で経営やりたい人募集してます(本気)!子どもたちはもっともっと遊んだり、失敗したり間違えたり、時には休んだりしたらいいと思う。自分で実際に経験しないと分からないし、答えは検索では出てこないし、答えなんてそもそもないのかもしれないし。そのためにも、私は率先して「堂々と失敗をする大人代表」でありたいと思います。
会津・芦ノ牧温泉「大川荘」代表の渡邉さんからご紹介いただいた、社団法人「福のもと」代表の五十嵐佑子さん。インターネットで調べても情報が少なく、ご本人からは「畑へ来てください」と言われ、少し不安な気持ちを抱えたまま西会津へ向かいました。
待ち合わせの場所に着くと、そこには一棟のビニールハウスが。
なるほど!ここが畑!ビニールハウスの中なのね!
「このマイクロきゅうり、子どもたちが自由に食べられるようにと思って入口に植えたんです。パクっと食べて中へどうぞ~って、いいでしょう?」
と、五十嵐さんがビニールハウスの中へ案内してくれました。
マイクロきゅうりの門をくぐると、中はふんわりと優しい明るさ。そして地面にはたくさんのハーブ。奥には舞台のようなものもありました。
「舞台もこの前作ってもらったんです。イベントもここでやりたいなーと。ここを福のもとの活動ベースにしたくて。この場所、“里山サティスファクションの「テントガーデン」”って呼んでいます。2022年の夏にこのハウスを借りて始めたばかりなので、まだまだなんですけどね」
と、笑う五十嵐さん。
「里山サティスファクション」とは、福のもとのプロジェクトの1つ。「子どもたちと地域の接点を作りながら、すでにある里山の宝(植物や果実やヒト)にエッセンスを加えて、アップデートしていく」と公式サイトにありました。このビニールハウスはその中心拠点となるそうです。
そして、ビニールハウス奥にある舞台手前の、木製のテーブルとイスに案内され、ここでお話を伺うことに。畑に来るようにと言われたので、農作業を手伝いながらの取材になるのか?など、いろんな覚悟してきた私でしたが(笑)、なんとも素敵な、非日常空間での取材が始まりました。
今は「ハーブ屋さん」と思われているかも
「クラフトコーラ、作りますね。寒いから、あったかいやつを」
と、五十嵐さんが小鍋で何かを作り始めました。
初めて飲んだ、ホットクラフトコーラ。温かくて、甘くて、おいしかった…。これはハーブを煮出して作った「クラフトコーラシロップ」を炭酸で割ったもの。炭酸水は温めても意外と炭酸が抜けないので、冬場はこの飲み方がオススメとのこと。シロップの原材料は5種類のバジル「レモン、ライム、シナモン、レッド、アジアン」と、スパイスの「カルダモン」、甘味の「甜菜糖(てんさいとう)」のみ。使用しているバジルは、ここ里山サティスファクションに遊びに来る子どもたちと五十嵐さんが一緒に育てているものだそうです。シロップは福のもとのオンラインストアから購入できます。
そうだ、五十嵐さん、ご紹介くださった大川荘の渡邉さんも「詳しい事は分からなくて」と仰っていたのですが、五十嵐さんは、ハーブ農家さん…?
「あはは!確かに、渡邉さんは私のこと”ハーブ屋さん”って思ってらっしゃるかもです。本当は違うんですよね。確かに今はハーブを育てて、こうやって商品を作ったり、イベントに出店して販売しているので、ハーブ屋さんなんですけどね」
と、笑って答える五十嵐さん。
ただ、「ハーブを育てているのも、子どもたちの遊び場づくりの一部」だと五十嵐さんは言います。
「ハーブのいい香りの中、彩り豊かなたくさんのエディブルフラワーの中、子どもたちがそれに触れ合って過ごすというのは、五感をフルに使いながら心身ともにいい影響を与えると思うんです。こんな風に、心が解きほぐされた中で面白い体験やワクワクな体験をするというところがポイントで、同じ体験をしても、体験をする環境や心の状態で吸収の仕方が全く変わってくると思っています。意識しなくてもここに来れば勝手に心が体が開いていく。そんな場所を作りたいなと」
どうやら「本当に五十嵐さんがしたいこと・考えていること」は奥が深そうなので、まずは一般社団法人「福のもと」設立までの経緯、そして目的と活動内容を、順を追ってお尋ねしました。
東京生活の最後に湧いた、伝統工芸を継ぎたい気持ち
五十嵐さんは会津若松市生まれ。進学・就職で東京に出て、10年ほど東京で働いていたそうです。よく働いたし、たくさん遊んだし、この生活はいつまでも続かないと思ったある日、ふと「伝統工芸を継ぎたい気持ち」が湧いたと言います。
「昔から布が好きだったので、染物職人さんで後継ぎを探しているところないかなー?と思って探し始めたんです。でもよく考えたら、自分の父が元職人だった!と思い出し、会津に帰ってきました」
五十嵐さんのお父さまは、会津漆器に絵柄を施す蒔絵師(まきえし)さん。ご実家は、お父さまで16代目の蒔絵師家系でした。
「16代も続いていたから、もう1代でも続けばご先祖さまも喜ぶかな…と思って」
しかし、自ら職人を辞めサラリーマンになっていたお父さま。職人の世界の厳しさ、漆器業界の厳しさを、身をもって感じてらっしゃったため、娘の将来を案じてあまり積極的ではなかったそうです。
「“職人になっても苦労するから、漆の世界に入るより嫁に行った方が幸せになるれる”と一旦断られたんですよね。それでも教えて欲しいとお願いしたら承諾してくれました。きっと内心は嬉しかったのだと思います」
と、五十嵐さん。
お父さまの教え方は、「まず作りたいものを作ってみなさい。わからないことがあったら都度聞きなさい」という古き良き職人スタイル。こうして、五十嵐さんの漆職人修行が始まりました。
運命の本と出合い、インドへ
会津に戻り、お父さまの元で漆職人修行を始めてしばらくした頃、五十嵐さんはあるイベント会場で『究極の旅』という本に出合います。
「Take Free(ご自由にどうぞ)と書かれた一角にあった本で、なんとなく手に取った本でした。インド哲学の本で500ページくらいある本です。私、昔からじっとしていられない性格で、本も全く読めなかったのに、なぜかその本だけは一気に読めたんです。そして、それを読み終わると同時に、インド行きのチケットを買っていました(笑)」
五十嵐さんは、即行動の人なんだな(笑)。
インド滞在は2カ月ほどだったと言いますが、ここでの経験は五十嵐さんの生き方に大きな影響を与えることになります。
「インドは“全てが近い”と思いました。自然も動物も生死も近い。生々しいくらいに近いんです。日本に帰ってきて、それらが遠い存在、お互いに壁があるような感覚、違和感を覚えました」
帰国後テント1つ持って自給自足生活スタート
帰国後の五十嵐さん、今度はテント1つ持って実家を出て、自給自足の生活を始めます。
「自分は1人で何ができるのか?生きることができるのか?を知りたくて」
と、五十嵐さん。
インドで新たな価値観が目覚めたんですね。そしてやはりここでも即行動。
その後ほどなくして、西会津に閉校した小学校で暮らす方がいることを知り、その校庭にテントを張らせてもらうことに。食べ物は自然から採ってきたもので、煮たり焼いたりして暮らしていけたと言います。テントを張らせてもらった場所は、後の「ダーナビレッジ」という宿泊施設で、今では世界中からヴィーガンの方が集まる場所になっています。
「ここのオーナーが有機野菜を育てていたので、その手伝いもしました。ビニールハウスを1棟任せてもらえることになったこともあり、今、ハーブを始めとする野菜が育てられているのは、ここでの経験が大きいです」
自分で野菜を育て、会津若松市内のレストランに自ら営業したり、イベントに出店して販売したりしていたとのこと。たくましい!!
未婚の母になり、再び漆器職人の道へ
次の大きな節目は母になったこと。
未婚の母になることを決めた五十嵐さんは実家に戻り、今度は「この子を女手ひとつで育てるために何をするか?」を考え始めます。「手に職をつけたい。そうだ、一度は目指した漆器職人の道、これをもう一度本気でやろう」と考えた五十嵐さんは、会津漆器協同組合連合会が運営する「会津漆器技術後継者訓練校訓練校」へ。
ここで漆器業界の現実を、改めて実感します。
「父に習っていた時に父の作品を販売する活動もしていたので、売れない現実は知っていたのですが、学校に通って「漆器業界の作り手側の問題」も見えたような気がしました。まず、漆器って高級品でむやみに触れてはいけないというような雰囲気になっていますよね?これ本末転倒で、もともと会津漆器は日用品として愛用されてきたものだから、もっと気軽に触ってもらっていいんです」
と、五十嵐さん。
この思いは、子どもたちへの思いとシンクロしていきます。
漆器が子どもにできること
この「漆器はもっと気軽に触っていい」という思いは、卒業制作にも込められたそうで、
「私の卒業制作作品だけ“ご自由に触ってください”にしました。子ども向けの作品にしたのですが、“触ってOK!なめてOK!”にしたんです。今の子どもって、乱暴に扱っても壊れないプラスチック製品ばかりに囲まれて、力加減が分かっていない。漆器は乱暴に扱うと壊れます。壊れるからこそ、大事にする気持ちが生まれると思うんですよね」
確かに。壊れないものばかりに囲まれていたら、力加減も分からず、壊れるものを大切にする感性も育たないですよね。
漆器の良さが分かる人、漆器を買う人を育てる
ここから五十嵐さんのインスピレーションが冴えます。
「そうだ、私は漆器の良さが分かる人、漆器を買う人を育てよう、って思ったんです。一通りやってみて、私は職人気質ではないことも分かったので(笑)。父の後を職人として継ぐことはできなかったのですが、それでも漆器の文化は途絶えさせたくない。これなら違う形で、継承ができるんじゃないかと思いました」
漆器の良さが分かる人、漆器を買う人を育てる。
すなわち、「自然の恵みをもらって作る物」に対して「いいな」と思える感性を育てることだと、五十嵐さんは言います。
「自然に触れていないと、自然の素材でできたものの良さって分かるわけがないですよね。特に自然からの恵みをいただいて作ることが多い漆器を始めとする伝統工芸品は、生き物である自然の温もり、出来上がるまでに関わった人の思いやあたたかさが詰まっています。その良さを感じられる感性を育てるために、子どもたちには自然や人と関わる経験をたくさんさせてあげたい。そうだ、大人も一緒に!…と思い始めたんです」
そして「福のもと」設立
子どもたちの感性を育てよう!
今の子どもたちは、インターネットで調べて出てきたことが答えだと思っている。
そうじゃない。自分で感じたことが正解なんだと教えたい。
そしてこれは、自分の子どものためにもなる。自分の子育てにも役に立つ。
「漆器の良さを分かる人、漆器を買う人を育てる」という考えが、五十嵐さんの中で、自分の子育てとつながりました。そして、一般社団法人「福のもと」設立を決意。
「福のもと」のホームページには下記のような記述があります。
”ホンモノ”の体験を積み重ねることで子どもたちの好奇心、探究心、創造力を刺激して、
更には健康でたくましく生きる強さを身につけていけることでしょう。
すべての子どもたちが、自らの人生を自分らしく歩み、豊かな人生を送っていけるように。福のもとは、そんな「福のタネ」を蒔くお手伝いができれば嬉しいです。
福のもとでは、稲刈りや月見団子作りなど、季節に応じた体験型イベントを開催。今回お邪魔したビニールハウスは、今後その中心拠点として、地域のお年寄りから子どもまで、みんなが集える場にしたいとのことでした。
「自然や人、土地、モノなどとの“直接的な関わり”にこだわり、そこに関わる人や土地やモノに制限は設けません。地域の人も海外の人もボーダレスに!この周辺地域のご年配の方が持ってらっしゃる藁を編む技術やコマ回しなんかも、自然に触れつつ文化を継承できるいい材料だと思っているので、今後そういうイベントも開いていきたいです」
と、五十嵐さん。
めぐりめぐって、つながってきた今
「自分で感じたことが正解」それは、福のもと設立に至るまでの五十嵐さんの半生が物語っていますよね。全て自分で体験して得た感覚を元に歩んで来られた半生。
「漆器は昔ながらの”自然の恵みをもらって作るもの”。この良さが分かる人を育てたい。遠回りかもしれないけれど、直接職人として父の後は継げなかったけれど、これが”私らしい”継承の仕方かなと」
と、五十嵐さんは言います。
「でも結局は、私がずっと遊んでいたいだけなんですけどね!」
と、笑う五十嵐さんの表情はとても生き生き。
子どもが自然と触れ合える遊び場を作る。そのためにやりたいことはたくさんあるけれど、目下の課題は費用の捻出。そのため、ハーブを育て商品化して販売する活動も並行して行っている五十嵐さん。最後にこの記事を見た方への一言をお願いすると…
「サポーター大募集!あと、私は完全に右脳型の人間なので、左脳型の方で、この事業を一緒にやってくださる方、大募集中です!」
とのこと。
五十嵐さんの考えに共感する方、まずはイベントに参加してみてください。お住まいの地域に関係なく参加できるそうです。最新情報は公式インスタグラムで随時発信中です。
五十嵐さんの夢が詰まった素敵な空間での取材、気持ち良かったです。ありがとうございました!