
中澤さんご夫妻の自己紹介
 中澤 裕史(なかざわ ひろふみ)さん(写真右)
 佐渡市両津生まれです。大学卒業後、東京で電子部品製造の仕事をしていましたが、2020年に佐渡へUターンしました。家業を継いで、中澤仲助商店の4代目として頑張っています。
 
 中澤 加奈(なかざわ かな)さん(写真左)
 出身は北海道です。看護師として働いていた時に、トルコへの旅行中に夫の裕史と出会いました。夫と5歳の娘と、佐渡暮らしを楽しんでいます♫
PROLOGUE
「ごっつぉLIFE」の佐渡シリーズ、今回の舞台も引き続き「両津」になります。
前々回ご紹介した「お食事処 満るか」の加賀さん母娘、前回の「KUJIRA WALL」の阿部耕介さんと、新しいことを始める人が少しずつ増えている両津エリア。お店やスポットができることで、両津は今後また新たな魅力が生まれてくるのでは……と期待が高まりますが、歴史あるお店も負けてはいませんよ〜!

今回ご紹介する「中澤仲助商店(なかざわなかすけしょうてん)」は、両津夷(りょうつえびす)商店街で100年以上の歴史を持つ一店。佐渡汽船の両津港から車で約3分、徒歩10分ほどの場所にある老舗海産物加工店です。
店構えも昔ながらのお店らしく、ガラス戸には商品の写真がたくさん貼ってありますね。塩辛、天日干し汐いか、昆布巻きなどなど…うーん、どれもおいしそう……!店内にも冷蔵ケースが置かれ、干物や佃煮などが並んでいます。

さて、そんな100年の歴史を持つ中澤仲助商店の4代目店主が中澤裕史さんです。2020年に妻の加奈さんと佐渡へ戻ってきたそうです。
今週は前編として、中澤仲助商店の歴史と、お二人が佐渡で守り続ける100年続く味とお店についてお話を伺いました。
INTERVIEW
両津の街で100年続く海産物専門店
中澤仲助商店の歴史は、裕史さんの曽祖父にあたる仲助さんの代に遡ります。それ以前から魚の加工は行っていましたが、実店舗として商売を始めたのが初代の仲助さんで、その名前が店名の由来といわれています。
両津はかつて海産物加工業で栄えた町。昔の両津夷商店街には魚屋が多かったそうですが、創業当初の中澤仲助商店は海産物だけでなく野菜や調味料なども扱う「よろず屋」のような店でした。

「正確な創業年は分からないのですが、100年を超えているのは間違いないです。昔は野菜などいろいろ売っていたんですが、周りにスーパーができたこともあって、海産物に集約されていったようですね。両津の町の商売は、海産物の加工販売がほとんどだったと聞いています」と裕史さん。時代の変化とともに商品構成も変わり、裕史さんのお父さんの代で海産物専門店へと舵を切りました。

現在も、両津には魚屋が幾つか残っています。昔に比べると軒数は少なくなったそうですが、海産物の町としての歴史は今も受け継がれています。
「佐渡に20数年ぶりに帰ってきた時は、商店街のシャッターの数が多くなっていて正直驚きましたが、今も頑張っているお店もあります。うちも父が頑張って店を続けてきてくれたおかげで今があります」

中澤さんの魚は、なぜうまいのか
100年もの歴史を持つ中澤仲助商店。これだけ長くお店が続いているということは、きっと商品に定評があるということですよね?どんな海産物加工品を作っているのか、裕史さんにお聞きしました。
「看板商品は、昔から変わらない『イカの一夜干し』です。戦前の店の写真にもイカを干している様子が残っているほど、長い歴史を持つ商品です。一夜干しっていう名前なんですけど、一晩干すわけじゃないんですよ。3時間から5時間ぐらいですね」

人気の「イカの一夜干し」(写真下)は焼くとこんな感じになります(※ご提供画像)
一夜干しは、季節や気温、湿度によって干す時間を微妙に調整する繊細な作業。夏と冬では、イカの状態も大きく異なるそうです。
「冬のイカは大きくて身が厚く、夏のイカは小さめで薄いのが特徴です。夏は気温が高くて乾くのも早いので、うっかりしていると透けて見えるぐらいになっちゃうんですよ。夏場の一夜干しは、ちょくちょくチェックしないといけないんです」

中澤仲助商店の一夜干しに主に使用するのはスルメイカです。時期によってはヤリイカやアオリイカも使うそうです。特にアオリイカは「イカの王様」と呼ばれ、甘くねっとりした味わいが特徴だとか。
「佐渡ではスルメイカとヤリイカとアオリイカが多く獲れます。一番獲れるのがスルメイカなので、これが扱いやすいですね。値段も手頃なので、うちの商品は、ほとんどスルメイカで作っています」
もう一つの看板商品が「塩辛」。こちらは小さいイカの方が柔らかくておいしいそうです。小さいイカだと、とろけるような食感に仕上がるのだとか。

さらに、中澤仲助商店の干物づくりには、大きな特徴があるそうです。それは、魚を開かずに丸のまま加工する製法。一般的な干物は、アジの開きのように魚を開いているものが多いですが、中澤仲助商店の干物は……「開かない」のですね!?
「そうなんです。一般家庭で食べる魚は、グリルで焼きやすい小型な魚が中心ですが、それを開いて干して、さらに冷蔵や冷凍で保存をしていると身が硬くなってしまうんです。身を開かない状態の方が、中がふっくらして食べてもおいしいことから、うちでは父の代からこのやり方を続けているんです」
なるほど〜!!ちなみに、中澤仲助商店の干物は、鱗や内臓はすべて取り除いてきれいに洗ってあるため、解凍すれば焼くだけで食べられるそうです。
「見た目も鮮魚みたいな魚だし、食べても干物のおいしさがある。お客さんにとっても手間がかからず、ふっくらとした食感と魚の味をしっかり楽しめるのが魅力ですよね」と裕史さん。

この製法は、お父さんの代から続けてきたもの。受け継がれた技法を守りながら、素材の旨味を最大限に引き出して商品作りに励んでいるのですね。
塩加減も時代と共に変えていく
中澤仲助商店の干物は、塩だけで味付けした「塩干し」が基本。塩をきつくしないよう調整しながら作っています。
「ちょうどいいおいしさを求めたら、今の塩分濃度になったんです。自分たちがおいしいものを追求していたら、結果的に減塩になっていたということですね(笑)」と裕史さん。

この優しい味付けには、妻の加奈さんの視点も大きく影響しています。加奈さんはトルコへの旅行で裕史さんと出会い、2019年に結婚。2020年に裕史さんと共に佐渡へ移住してきました。地元である北海道では看護師として働いていた加奈さんですが、娘の一華(いちか)ちゃんが誕生して、食の安全にもより気を配るようになったそうです。

「佐渡に来たばかりの頃は、干物も今よりもしょっぱくて(笑)。それでもおいしかったのですが、娘が生まれて自分や子どもの体を気遣うようになる中で、子どもが食べてもおいしい、安全に食べられるものを考えるようになりました」(加奈さん)。
娘の一華ちゃんは、離乳食の頃から中澤仲助商店の魚を食べて育ちました。現在は母娘で地域の子どもの集まりにも積極的に参加しているそうですが、集まりに焼いた魚を持って行くと、子どもたちがわーっと寄ってくるのだとか。
「お友達にもうちの魚を勧めると『他の魚食べないけど、中澤さんの魚は食べた』とか、そんな嬉しいこと言ってもらえることもあるんです。魚を食べる子が少なくなっているという話も聞きますが、食べる機会があれば、子どもたちってもっと魚が好きになるんじゃないかと思っているんです」(加奈さん)。

そんな加奈さん、今や中澤仲助商店の「顔」ともいえる存在に!明るく元気な接客でお店を盛り上げながら、看護師の経験と「お母さん目線」を活かし、商品づくりにも取り組んでいます。
イベントで魚を紹介する際には、調理法を記したパンフレットを作り、魚のアレンジレシピを提案するなど、若い世代に魚の魅力を伝えたいと頑張っている真っ最中です。
「うちの干物は、解凍してそのまま焼いてすぐ食べられます。自然解凍してもヌルヌルしないし、ベチャベチャしない!グリルが面倒ならフライパンで焼いても焼けるので、調理もすごく楽なんです。薄味だから煮付けにもできますし、離乳食にも使えますよ」と中澤仲助商店の商品の魅力をアツく語る加奈さん。

ちなみに、中澤仲助商店のお客様は贈答用に買い求める地元のお客様が半数を占め、リピーターが多いのが特徴です。観光客の方はふらっと立ち寄って購入していくことが多く、観光がきっかけでリピーターになる確率もかなり高いといいます。「また食べたい」「また送ってほしい」という要望に応えるために、全国発送にも対応しています。
「贈答品として選んでくれているということは、その方が自信を持って中澤仲助商店の魚がおいしいと思っているということ。自分の大切な人に送るものとして選んでくれていると思うと、本当にありがたいですよね」と加奈さんは嬉しそうに話します。
次回は、中澤仲助商店の一日、佐渡での島暮らしなど、中澤さん夫妻の人生観や暮らしに迫ります。お楽しみに!








