
水沼 いすず (みずぬま いすず)さんの自己紹介
1993年生まれ、大阪府出身です。新潟県燕市で夫と子どもと3人暮らしをしています。大学卒業後、バックパッカーで世界一周の旅に出かけ、お花屋さんになるという夢を見つけました。帰国後、大阪の生花店に勤め、のちに友人の誘いで燕市に移住。2019年、燕市の宮町商店街にあるゲストハウスの一角を借り、ドライフラワー専門店「小さな花屋 Tette」をオープンしました。お店以外では「まんまるしぇ」というマルシェイベントの企画・運営にも携わっています。絵本と笛が大好きです。
PROLOGUE

「ものづくりの町」と呼ばれ、金物や金属洋食器の生産が盛んな新潟県燕市。そんな燕市のまちなかにある宮町(みやちょう)商店街は、かつて「サンロード宮町」として知られ、全長700メートルに及ぶアーケード街として地域の中心的存在でした。
2013年にアーケードの老朽化に伴い撤去工事が行われ、商店街の景観は一新。そして、時代とともにそれまでの活気は失われ、シャッター商店街になってしまったのです……が、2018年頃から何やら商店街に新たな店舗が次々とオープンしているんです!

ゲストハウスやバー、花屋、写真館、カフェ、古着屋など、多彩な業態の店舗が増え、新たな賑わいを生み出しています。
これらの新店舗の多くは、県外からの移住者やUターンした地元出身者なのだとか。「自分の好きなことを形にできる場」として、新しい風が吹き始めているそうです。

今回訪れたのはその中の一つ、ドライフラワー専門店の「小さな花屋 Tette(以下、Tette)」さんです。

ドアを開くと、そこには天井から吊るされた100本近いドライフラワーと芳醇なお花の香りが。あまりにもいい香りに思わずうっとり……。
まるでおとぎ話の世界に入り込んだような店内には、ドライフラワーを用いたさまざまなアイテムが並びます。

すぐに飾れるアレンジメントや壁に映えるリース。

ウエディングや七五三、セレモニーなどに華やかさをプラスする、花かんむりやコサージュ。

生花から作るボタニカルキャンドルやハーブティーなど、そのラインアップは多岐にわたります。

「こんにちは~!お会いできるのを楽しみにしていました」と我々ごっつぉLIFE編集部を迎えてくださったのは、「Tette」のオーナー、水沼いすずさんです。
大阪府出身の水沼さんは、とあるご縁がきっかけで燕市に移住し、自らのお店だけでなく宮町商店街や地域を盛り上げようと、さまざまな活動もしています。
今回は水沼さんに、ドライフラワーのことやお花屋さんになったきっかけ、燕市に移住した理由などをお聞きしてきました!
INTERVIEW
想いをかたちに、ずっと残せるドライフラワー

「Tette」がオープンしたのは2019年。当初は宮町商店街にあるゲストハウスの一角で営業を開始し、2021年12月に現在の店舗へと移転しました。
お花屋さんですが扱うのは生花ではなく、生花を乾燥させたドライフラワー。お手入れが不要でインテリアとして暮らしに取り入れやすいだけでなく、思い出を枯らすことなく、時を経ても残しておけるのが最大の魅力です。

「子どもからご年配の方まで、幅広いお客さまがいらっしゃいます。男性の方も多く、彼女や奥さまにプレゼントしたいと、お一人でふらっと来ていただけるのがうれしいですね。商品は花束やリースなどさまざまなものがありますが、ご来店された方のご要望をお聞きして、ご提案することが多いです」と水沼さん。
来店する方のほとんどが、誰かに贈るための「ギフト」として選ぶというドライフラワー。水沼さんはその思いをお客さまとの会話で汲み取り、商品を提案し、贈る相手を想像しながら想いを込めて制作しています。
また時には、「自分で作ってみたい」というお客さまに、マンツーマンや少人数でのワークショップを開催することも。

「先日、結婚する娘さんのために花かんむりを作りにいらしたお母さまがいました。最初は自分で作れるか不安そうでしたが、『一緒に作りましょう』とサポートさせていただきました。娘さんはそのことを知らず、うちでウエディングブーケをオーダーしてくださっていたんです。ブーケのお渡しの日にお母さまも来店して、サプライズで娘さん夫婦にお渡ししました。お母さまと娘さん夫婦、みんなが笑顔に包まれて、私にとっても幸せな瞬間でしたね」と、水沼さんは目を潤ませながら話します。

「ありがとう」「おめでとう」「大好きだよ」──水沼さんのもとには、さまざまな人の想いが集います。「私にはマニュアルなんてないんです」と語るように、温かく一人ひとりのお客さまの気持ちに寄り添っています。
ところで、そもそも水沼さんがお花屋さんになったきっかけは、何だったのでしょうか?
世界一周で見つけた“本当にやりたいこと”

幼いころから絵本が好きだったという水沼さんは、大学で児童文学を専攻。卒業後は子どもに携わる仕事を希望し、内定をもらっていた大学4年生の夏、沖縄県にある日本最南端の有人島「波照間島」に初めて一人旅に出かけたのです。
「目の前に広がる、これまでに見たことのない景色に心が震えました。また、旅先で出会ったカメラマンのお兄さんがとても印象的でした。そのお兄さんは世界中を旅していて、世界中に友達がいると。私もそんなふうに世界中に友達を作りたいと思ったんです。その時、世界一周の旅に行こうって心に決めました」

その後、両親に相談をしたところ最初は当然のごとく反対。しかし、水沼さんの強い意志に、最終的には背中を押してくれたと言います。そうして大学卒業後、1年間と期限を決め、バックパッカーで世界一周の旅に出かけました。

水沼さんは「色々な国の幼稚園に行ってみたい」と、まずはタイを皮切りに、ニュージーランド、アフリカ、モロッコ、ヨーロッパ、アメリカ、キューバ、ボリビアなど21カ国へ。現地で幼稚園を訪れ、折り紙を教えるなど子どもたちと触れ合いました。

水沼さんの人生を変えたきっかけが訪れたのは、旅の序盤。ミャンマーでの出来事でした。
「幼稚園に向かう途中、道端で女の子に話しかけられて、お互い拙い英語で1時間ぐらい会話をしていたんです。『じゃぁ、そろそろ行くね』と私が去ろうとしたら、『あなたは私にとって特別な友達だから』と、女の子が黄色いお花をくれて。その時、すごくうれしくて、心の奥底からぶわーっと温かい気持ちになったんです。お花って国を越えて、言葉を越えて、想いを伝えられるものなんだなって」

そのお花は「パダウ」という黄色いお花。パダウの開花は、ミャンマーの人々にとって雨季の始まりを告げると言われていて、特別感があり、愛されているお花なんだそうです。

お花をもらったことをきっかけに、「お花屋さんになりたい」と夢を見つけた水沼さん。1年間の旅を終えた後は、さっそく地元である大阪の生花店に勤め、お花の仕入れや扱い方などを学びました。
しかし、結婚式場の装花を手掛ける中で、まだきれいに咲いているお花が役目を終えていく様子を見て、「この美しさを、もう少し長く楽しむ方法はないだろうか」と考えるようになりました。
そんな時に出会ったのが、時を経ても形として残せるドライフラワー。次第にその魅力に惹かれ、興味が大きくなっていきました。
旅が繋いでくれた新潟とのご縁

ドライフラワーで自分の店を開きたいと考えていた頃。世界一周の旅で出会った友達からのひょんな誘いがきっかけとなり、転機が訪れました。
「キューバの宿で出会い、その後偶然にもまたボリビアで再会した日本人の友達なのですが、帰国後も飲み友達として仲良くしていたら、ある日突然電話がかかってきたんです。『新潟でゲストハウスをやることになったから、一角で花屋をやらない?』と。その誘いがきっかけで新潟に移住することにしました」と水沼さん。
さすが世界一周をしただけあって、フットワークが軽い~! とはいえ、生まれ育った大阪から離れ単身で新潟に移住するとは、さすがに不安はなかったのでしょうか?

「友達のゲストハウスがこの宮町商店街にあって、移住前に遊びに来てみたんです。商店街を案内してもらう中、当時、商店街の会長をしていた床屋のお父さんと話す機会がありました。話してみると、宮町愛に溢れる方で『ここで頑張りたいって思うんだったら、俺は全力で応援するよ』って言ってもらえて。また、行政の方も一緒にこの街を盛り上げようと一丸となっていて、すごくパワフルであたたかい街だなと思いましたね。『ここに引っ越したい』と移住を決めました」と、懐かしむように当時を振り返ります。
そして2019年、ゲストハウスの一角でドライフラワーを専門にした「小さな花屋Tette」をオープンし、2年後には現在の場所に移転。人と人がつながる場所を作りたいと、商品の販売だけでなく、お花屋さんの枠を越えたワークショップも開催しています。

EPILOGUE
つながり、広がる、想いの輪
2020年、水沼さんは「Tette」と同じテナントの2階でフォトスタジオを営むカメラマンとともに、宮町商店街を拠点としたイベント「まんまるしぇ」の企画・開催を始めました。

このイベントは、地域の活性化や多文化交流を目的にしたもので、毎回テーマを変え、地元の新鮮な野菜や果物、パン、雑貨などを販売し、地域の魅力を発信しています。現在は、年2回春と秋に開催。取材にお伺いした際は、アイルランドをテーマにした「アイリッシュまんまるしぇ」の準備の真っ最中でした!
(アイリッシュまんまるしぇの様子は5/28公開の、ごっつぉライターの取材こぼれ話【けんおう編】をお楽しみに)

「まんまるしぇは、私たち主催者が魅力的だなと思うお店さんに声をかけて集まっていただいています。告知の際は、ただ店名を出すだけでなく、事前に出店者に私たちがインタビューをして、Instagramでどんなお店なのかをしっかり伝えるようにしているんです。私たち出店者同士も、出店者とお客さんもみんながつながって、この地域に賑わいをもたらせたらいいなと思っています」
今や水沼さんは、お花屋さんを営むだけでなく、宮町商店街を盛り上げる一員として、地域になくてはならない存在になっています。

「『Tette』としては、今後はお店だけでなく、移動販売もできたらいいなと思っています。いろいろな場所に行くのが好きなので、自分からお客さんに会いに行きたいですね。地元はもちろん、県内外にも足を運んで、そこでまた友達を作れたら楽しいじゃないですか。そして、『まんまるしぇ』も続けていきながら、宮町を拠点にたくさんの人の輪を広げていきたいですね」と優しいまなざしで語ります。
言葉は通じなくても、生まれた場所が違っても、人と人は想いやれるし気持ちは通じ合える──。 人への愛にあふれた水沼さんだからこそ、水沼さんの周りには、すてきな人と、すてきな想いが集まるのですね。
世界一周の旅で見つけた夢を叶えたのは、縁もゆかりもないこの場所。燕市宮町商店街で出会った人々とともに、これからも水沼さんの人生の旅は続いていきます。
NEXT EPISODES
最後に、県央エリアの魅力的なお二人を、水沼さんからご紹介いただきました。
会えるのは週3日、驚きと発見のお菓子屋さん「aretosore(アレトソレ)」
1人目は、三条市で手作りの焼き菓子を製造・販売する「aretosore」の小片真理子さん。店舗を持たず、同じ市内のビストロ「CLEO(クレオ)」内で、間借り営業をしています。
「真理子さんのお菓子がおいしくて、「Tette」でポップアップショップを開いたり、『まんまるしぇ』に出店したりしてもらっています。私のおすすめは、『オールスパイスチョコレートキューブ』。名前だけでもワクワクしません?ぜひ、食べてみてください」と水沼さん。
はい……まだ食べていませんが、絶対においしいという確信があります(笑) そして「aretosore」というお名前も気になりますねぇ。アレもソレも、たくさん買ってしまいそうです!
国内外のナチュラルチーズを扱う「Moitié-Moitié(モワチエ・モワチエ)」
2人目は、同じく三条市にある「チーズとワインのセレクトショップ Moitié-Moitié(以下、モワチエ・モワチエ)」の岡田知子(おかだともこ)さん。家業だった酒屋を事業継承し、国内外から選び抜いたナチュラルチーズとワインを販売しています。
「私も夫もワインが好きで、お客さんとしてチーズやワインを買いに行っていました。ある時、私が携わっているイベント『まんまるしぇ』でパリの朝市をテーマにしようとした時、ぜひモワチエ・モワチエさんに出ていただきたいと熱くオファーをし、出店していただきました。扱っている商品もおいしいし、知子さんがチーズやワインのことを丁寧に説明してくださるところも素敵だなと思っています」と水沼さん。
一度聞いたら忘れられない店名のこと、チーズのこと、詳しくお聞きしたいと思います。
aretosoreさん、そしてモワチエ・モワチエさんのエピソードも、どうぞお楽しみに!
