
加茂 豊和 (かも とよかず)さんの自己紹介
2012年に福島市から阿賀野市へ移住し、現在は安田瓦(やすだがわら)協同組合で事務長を務めています。瓦や建築について全く知識がなかったのですが、地元出身者ではない目線から安田瓦の価値を広く発信したいと頑張っています。安田瓦のことなら、何でも聞いてください!
PROLOGUE
酪農発祥地や庵地焼の町で知られる阿賀野市安田。安田を代表する産業として、もう一つ欠かせないのが「安田瓦」と呼ばれる屋根瓦です。実際に阿賀野市を訪ねてみると「瓦ロード」に「瓦テラス」など、瓦と名がついたスポットが点在しています。

2年前にご紹介した丸三安田瓦工業の遠藤俊さんの記事でも、街歩きを楽しみながら安田瓦について紹介しました!
街をあげて盛り上げている安田瓦ですが、前回ご紹介した庵地焼旗野窯の三姉妹さんから教えてもらった加茂豊和さんも、安田瓦のブランド発信に関わる一人。
安田瓦協同組合の事務長を務めている加茂さんがどのように安田瓦に関わっているのか、そして、2023年に新しくできた「かわらティエ」とはどんなところ?といった素朴な疑問まで加茂さんにお話を伺いました。
今回も2週にわたり、安田瓦に関するあれこれをご紹介します!
INTERVIEW
雪国の工夫と知恵から生まれた安田瓦
さて、安田瓦と連呼しておりますが……まずは「安田瓦とはどういったもの?」というお話から。

安田瓦とは約200年前の江戸時代から続く、阿賀野市安田地区で生産される屋根瓦のこと。安田地区は日本最北の瓦の産地として知られ、「日本3大瓦」とされる愛知県の三州瓦 (さんしゅうがわら)、島根県の石州瓦(せきしゅうがわら)、兵庫県の淡路瓦(あわじがわら)に次ぐ瓦生産量を誇り、重要な地場産業となっています。
「安田瓦の最大の特徴は、雪国の気候に適した瓦だということに尽きます。この瓦が他の産地と大きく違うのは、新潟の厳しい冬を乗り切るために開発された特別な製法にあります。最も印象的なのは、鉄分を含んだ釉薬(ゆうやく)によって生まれる独特の銀鼠色(ぎんねずいろ)の光沢です。この美しい色合いが安田瓦の代名詞になっています」

製造技術で注目すべきは還元焼成(かんげんしょうせい)という焼き方。
通常の瓦は酸化焼成と呼ばれる酸素を供給しながら焼く方法が一般的ですが、安田瓦の焼成は酸化焼成から還元焼成の二段階で行い、途中で酸素を減らしながら焼き締める製法を取り入れています。

27時間ほどかけて行う独特の手法により、瓦は非常に硬く仕上がり、水をほとんど吸わない性質になるため、雪や雨にも耐えられる強さになるそうです。
他にも、安田瓦の表面に現れる細かな凹凸は、屋根に積もった雪が一度に滑り落ちることを防ぐ役割を果たすなど、安田瓦には雪国ならではの工夫が随所に光っています。
安田瓦に触れて学ぶ「かわらティエ」誕生!
……と安田瓦の話を聞いていると、もっと知りたい!実際にどんなものか見てみたい! と思ってしまいますよね!?
そんな方にぴったりなのが、2023年にオープンした「かわらティエ」です。

こちらは、加茂さんをはじめ安田瓦協同組合の提案から生まれた、安田瓦に触れて学べる体験型産業施設。
「安田瓦にまつわる施設やスポットはありますが、安田瓦そのものを詳しく知る場所って実はなかったんです。一般の方が瓦の世界に触れ、実際に体験できる施設を僕らは作りたかったんです」と加茂さんは企画の想いを語ります。
普段、加茂さんがいらっしゃるのも、ここ「かわらティエ」です。
館内は大きく展示エリアと体験工房に分かれており、展示エリアでは安田瓦の歴史を紹介するパネル展示、製造工程を説明する資料が並び、実際の瓦製品のサンプルを手に取って質感を確かめたり、瓦の上を歩くことまでできちゃいます!


エントランスの壁面には安田瓦を使った装飾が施され、瓦をアートとして体感できる空間になっています。

メインとなる体験工房では、粘土を使った鬼瓦作りが楽しめます。週末には親子連れで、鬼瓦の型押しと模様付けを楽しむ人も多いそうです。

「面白いもので、皆さん最初は『粘土なんて……』と言うんですが、始めて20分ほどすると夢中になって作業されています(笑)」と加茂さん。
使用する粘土はなんと安田瓦と同じ原料!安田瓦ならではの独特の手触りを体験できるのはここだけ!遊びながら瓦づくりの技術を学べる仕組みになっているんですね。

「この粘土のザラザラ感も実は安田瓦の特徴なんですよ。強度を出すために必要な要素で、コンクリートに砂利を混ぜるのと同じ理屈です。完成した作品は後日焼成して、体験に参加してくださった皆さんにお届けしています」
他にも、素焼きしてあるミニ鬼瓦に好きな色を装飾する「ミニ鬼瓦絵付け」もあり、こちらは鬼瓦づくりがまだ難しいお子さんや時間が限られている方に人気の体験です。
凛々しい鬼瓦も素敵ですが、カラフルな鬼瓦もいいですねぇ〜!これは欲しくなる……。

安田瓦が抱える課題と希望
200年の歴史を持つ安田瓦ですが、現代の産業を取り巻く環境は決して楽観的ではありません。加茂さんは業界の現状について率直に語ります。
「10年前はまだ危機感が薄く『まだ大丈夫』という意識でした。問題意識はあったけれど、変わっていくためにはどうしたらいいか、それを考えることも難しかったというのが正直なところです」

今、安田瓦が直面している課題は複数あります。まず深刻なのが、屋根工事を担う専門業者の減少です。瓦屋根の施工には熟練した技術が必要で、その技術を受け継ぐ職人が少なくなっていることが、需要の減少にもつながっているといいます。
「全国市場では愛知県の三州瓦が圧倒的な存在感を示していて、全国シェアの6〜7割を占めています。価格も安く、販売も上手い三州瓦は営業力が強いと感じていますが、安田瓦にも他にはない強みもあります。それはね、地域全体からの手厚い支援なんです。
県内でいろんな産業の組合化が進む中でも、安田瓦協同組合はかなり早い時期に組織化されました。当時から新潟県にとって安田瓦は大きな存在だったんだと思います」と加茂さんは力強く語ります。
さまざまな課題がある反面、安田瓦は2007年に特許庁の地域団体商標登録、2022年には「安田瓦鬼瓦」が新潟県の伝統工芸品にも認定されました。先人たちが地域をあげて製造に取り組んできた努力と加茂さんを中心としたブランド発信が、少しずつですが、確実に実を結んでいます。

「意外かもしれませんが、地元の方々は同業者でなくても『安田瓦、頑張れよ!』って応援してくれる人が多いんですよ。積み重ねてきた歴史と物語があるからこそ、地域の皆さんも誇りに思ってくれているのを実感します。だからこそ、この先も安田瓦を残していくための努力が必要なんですよね」
安田瓦は地域の人にとっては身近な存在。一方で、加茂さんは県外出身者としての目線で、まだ目に見えない安田瓦の価値を模索し、発信し続けたいと意気込みます。
次回は、加茂さんの移住の背景から、安田瓦のブランド発信や県外展開など、加茂さんの思いや挑戦をご紹介します。お楽しみに!