
小片 真理子 (おがた まりこ)さんの自己紹介
1979年三条市生まれです。東京で18年ほど働き、カフェ、クレープリー、居酒屋、パン屋など様々な飲食店で経験を積みました。妊娠をきっかけに夫とともに新潟へUターン。2023年3月より三条市の「bistrot CLEO」内で「aretosore」として焼き菓子の販売をはじめました。
PROLOGUE
仕事や家事の合間にほっと一息つきたい時のおとも、はたまた頑張った自分へのちょっとしたご褒美と言えば、何を思い浮かべますか?
ごっつぉライターの私が真っ先に思い浮かぶもの……それは、おやつです! コーヒーや紅茶と共にお気に入りのおやつがあるだけで、少し特別な休憩時間になります。おいしさに癒やされたり、また頑張ろうと元気をもらったり、おやつの力って偉大だなぁって思うんです。

今回、燕市にある「小さな花屋 Tette(てって)」の水沼さんにご紹介いただいたのは、そんな癒やしとパワーを与えてくれるお菓子屋さんです。
取材に行く前にお店のことを調べてみると、現在は店舗を持たず、間借り営業中とのこと。営業日は週3日程度、オープン時間は9:30~14:00まで。限られた営業日時にも関わらず、営業日当日の朝にInstagramで商品のラインアップが発表されるや否や、取り置き連絡で完売となる商品もあるのだとか。
口コミで人気に火が付いた、知る人ぞ知るお菓子屋さんなのです!

特徴的なのは、素材の組み合わせとちょっと遊び心のある見た目のお菓子たち。花椒(ホワジャオ)とキャラメル、味噌とキャラメル、オールスパイスとチョコレート、春菊とベリーなど、どれもあまり見慣れない組み合わせばかり。「どんな味なんだろう」と想像するだけでワクワクしちゃいます。

今回は、三条市でお菓子を製造・販売する「aretosore(以下、アレトソレ)」の小片真理子(おがた まりこ)さんにお話を伺いました。
おいしく楽しいお菓子の誕生には、小片さんのこれまでのキャリアが色濃く影響していたのでした。
INTERVIEW
多くの人を虜にする唯一無二のお菓子

2023年3月から始動し、今年で3年目を迎えた「アレトソレ」。自身の店舗は持たず、現在は三条市にある「bistrot CLEO(ビストロ クレオ、以下クレオ)」内で間借り営業をしています。営業日は月・木・金曜の週に3日という、限られた時間で販売を行うスタイルです。

まるで友人宅に遊びに来たかのように、玄関で靴を脱いで中へ上がります。販売は、主に持ち帰りのお菓子が中心ですが、コーヒーやジュースなどのドリンクメニューも。カフェとして、リベイクしたお菓子とドリンクも提供しています。小片さんとのおしゃべりを楽しみに、一人で来店する方も多いのだとか。

キッチンカウンターには常時10~13種類の焼き菓子が並びます。半分は定番商品、残りは季節にちなんだものやその時々に登場する限定のお菓子たち。オープン日によってラインアップが変わる楽しさがあるのも、同店の特徴の一つなんです。

そして、興味を掻き立てられるのが、「花椒サブレの生キャラメルサンド」や「ブルーチーズキャラメルフィグ」など、あまり見かけたことのない組み合わせ。あれもそれも、食べてみたくなってしまいますね。

「お菓子屋さんをやるからには、私にしかできないお菓子を作りたいという思いがありました。うちのお菓子には、スパイスなど色々なものが混ざっていますし、私自身がさまざまな素材を組み合わせることが好きなので、“あれ”も“それ”も入れるという意味で『アレトソレ』という店名に。販売を始めてまだ2年しか経っていませんが、三条市外からわざわざ1時間以上かけていらっしゃるお客さまもいて、ありがたい限りですね」とにこやかに話します。
現在、一人でお菓子の製造と販売をする一方で、プライベートでは子育て真っ最中のお母さんでもある小片さん。お子さんの体調不良などで急な予定変更が入ることもあり、営業日を限定しているそうですが、それでも多くのファンがいるのは、ここでしか出会えないお菓子があるから。
営業日を目がけてわざわざ足を運びたい、唯一無二のお菓子屋さんなのです。
好きなことは作ること、表現すること

小片さんのお菓子作りの始まりは、小学生の頃。図書館で借りた本を見ながらさまざまなお菓子を作っていたそうです。
「初めて作ったお菓子はチョコテリーヌでした。作りたてを食べた時はおいしく感じなかったのですが、次の日に冷めた状態で食べたらとてもおいしかったんです。お菓子ってすぐ食べるより、一晩寝かせた方がおいしくなるんだって驚きました。子どもながらに大発見でしたね」と小片さんは当時の様子を振り返ります。
その頃は誰かにあげるというよりも、自分が食べたいから作ることが多かったと言う小片さん。中学、高校とずっと趣味として作り続け、高校卒業後の進路は製菓学校へ!……と思いきや、目指したのは美容師の道。東京の美容専門学校へ進学したのです。

そして、そのまま東京の美容室に就職をした小片さんでしたが、働くうちに「自分には向いていないかもしれない」と感じる瞬間が増えていくことに。6年目を迎えこの先のキャリアについて悩んでいた時、働いていた美容室の2階にあり、自身もよく利用していたカフェの仕事に興味を持つようになりました。

「もともとお菓子作りが好きだったので、段々と飲食業の世界で働いてみたいという気持ちが強くなっていきました」と小片さん。26歳の時、美容師を辞めてカフェで働くことを決意し、ここから10年以上にわたり、飲食業の道に進むことになったのです。

カフェでは接客だけでなく厨房にも入り、仕込みや調理の仕事も任せられるように。その後も、ガレットを提供するクレープリーや居酒屋、パン屋などでも経験を積みました。
「クレープリーではフランス人たちと一緒に働きました。彼女たちの発想っておもしろいんですよ。バラとトマトを合わせたり、スパイスやハーブをたくさん使ったり、日本人ではあまりやらない食材の組み合わせをするんです。それからパン屋さんでは、現在のレシピの基となる焼き菓子づくりを学びました。パティシエとしてみっちり修業したことはありませんが、全ての経験が今のお菓子づくりの土台になっています」
東京で多くの人と出会い、多様な食文化や自由な発想に触れた小片さん。型にはまらない「アレトソレ」ならではのオリジナリティは、大都会東京でさまざまなことを経験した生き方から生み出されているのです。
暮らしのバランスを求めて新潟へ
専門学校への進学から約18年間過ごした東京でしたが、妊娠を機に故郷である新潟へと家族で移住を決意。それから自身の店をオープンするまでの道のりについて、お話を伺いました。

「東京はすごく楽しかったんですよ。本当は帰ってきたくなかったくらい(笑)。でも、子育てのことを考えたら、両親がいる新潟の方がいいのかなと思い、夫のすすめもあって帰ることにしました。実際に戻ってきて驚いたのは、子育て環境の良さですね。子どもと遊びに行ける公園や支援センターなどの遊び場が充実していますし、行政のサポートも手厚くて。しばらく専業主婦として、子育てに全力投球していました」
その間も、趣味としてお菓子づくりを続けていた小片さんに転機が訪れたのは、2022年のこと。現在間借り営業をしている「クレオ」のオーナーと旦那さんが知り合いだったことがきっかけでした。
「『クレオのオーナーが昼間にお店を使ってくれる人を探しているよ』と、夫から私に声がかかりました。元々、自分の店を持ちたいと強く思っていたわけではありませんでしたが、お菓子作りや飲食業が好きな気持ちはずっとあったので、せっかくだからやってみようかなって思ったんです。子どもが学校や幼稚園に行っている間にできるスタイルで」

そうして始めたのが、焼き菓子を製造販売する「アレトソレ」。店名やロゴのデザインは、知人のデザイナーに依頼し、お店の宣伝はInstagramのみでスタートしました。現在は3日間限定の営業ですが、将来的には自身の店を持つことも視野に入れているそうです。
「いずれはしっかりと自分のお店を構えたいですね。お客さんとお話するのが好きなので、カフェのようなスタイルでできたらと、ぼんやりと頭の中で構想を練っています。子どもたちの成長を見ながら、自分のペースで進めていけたらいいですね」
小片さんの言葉の端々からは、家族との時間を大切にする生き方がひしひしと伝わってきます。そんな小片さんの温かいお人柄も、お菓子の美味しさやカフェの居心地の良さにつながっているのかもしれません。
EPILOGUE
三条地域に根ざすお菓子屋さんを目指して

口コミやSNSの力で徐々にファンが増えていき、3年目を迎えた同店。「クレオ」での販売以外では、時々イベントにも参加しているそうです。「Tette」の水沼さんが主催しているマルシェイベント「まんまるしぇ」では、イベント限定のお菓子も販売しているのだとか。
「イベントでは、初めましてのお客さんが多く、うちのお菓子を知っていただくきっかけになっています。『イベントで買ったお菓子がおいしかった』『手土産で持っていきたい』と、改めて営業日に来店してくださる方もいらっしゃいますね。少しずつですが『アレトソレ』のお菓子を知っていただき、喜んでいただけたら嬉しいです」とにこやかに話します。

遊び心のある見た目にユニークな素材の組み合わせ、そして味わって感じる驚きと発見。同店でしか出会えないおいしさがあるのは、小片さんが自分らしさを大切にしているからこそなのかもしれません。
最後に、小片さんはこれまでを振り返った上で、今後についてこう話してくださいました。
「東京時代に見てきたものや働いてきた場所での経験が、自然とお菓子作りのアイデアに結びついていますが、今でも日々勉強だと思っています。今、うちのお菓子を食べてくれている子どもたちが、大人になってからも食べてくれる『地元の味』のような存在になりたいですね。そのためにも、細く長く続けていけるよう、常にお客さんに楽しみを届けていけたらと思っています」
ワクワクとおいしさがぎゅっと詰まった「アレトソレ」のお菓子たち。これからの展開がますます楽しみなお店です。
