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佐渡金山の歴史から 派生した赤土がルーツ。 伝統を新しいアイデアと 自由な発想で受け継ぐ「無名異焼」。

佐渡金山の歴史から派生した赤土がルーツ。伝統を新しいアイデアと自由な発想で受け継ぐ「無名異焼」。

さどsado
北沢窯

其田 弘輔 (そのた こうすけ)さんの自己紹介

佐渡市相川の窯元「北沢窯(きたざわがま)」の無名異焼(むみょういやき)の職人です。以前は自動車関連の仕事をしていましたが、26歳で北沢窯に入り、二代目の父から焼き物づくりを一から学びました。最近力を入れているのは、皿の制作です。若い方にも気軽に使っていただけるデザインや形を考えています。皿や器、カップなどにとどまらず、無名異焼の新しい使い方も模索しています。

PROLOGUE

前回ご紹介したShow by JAWS(ショーバイジョーズ)の拠点となっている達者地域。今回は、ここから南下して、かつて金山でにぎわった相川中心部へと向かいます。目指すは、Show by JAWSの岡部さんから教えてもらった「北沢窯」です。

佐渡で北沢といえば、国の史跡としても知られる「北沢浮遊選鉱場(きたざわふゆうせんこうば)」が残る場所。「北沢浮遊選鉱場って最近よく聞くようになったし、有名になっているようだけど、何があった場所なの?」という方に、簡単な歴史紹介を。

佐渡の北沢地区は、かつて佐渡金山選鉱・製錬の中心地として栄えた場所。特に1937年から1940年にかけては、金の増産という国策を背景に、採掘した鉱石を選別する大規模な選鉱施設の整備が進められました。独自の浮遊選鉱技術を取り入れた北沢浮遊選鉱場は、月間5万トンもの鉱石を処理する一大選鉱場として稼働を開始。1940年には、明治時代以降、佐渡鉱山史上最高の産出量を記録しましたが、1952年の鉱山縮小に伴い、北沢浮遊選鉱場も役目を終えることになりました。

参考文献
佐渡金銀山 佐渡金山遺跡(北沢地区)旧佐渡鉱山工作工場群跡発掘調査報告書(新潟県佐渡市 佐渡市教育委員会)
旧佐渡鉱山近代化遺産建造物群調査報告書(佐渡市教育委員会)

「佐渡観光PHOTO」

私も何度か訪れたことがありますが、静寂に包まれた現在の姿は、想像以上に巨大!緑が生い茂った様は時の流れを感じ、非日常感に浸れる場所なのです。
ですが、ただの観光名所ではないのが北沢浮遊選鉱場のすごいところ!2010年に整備された広場はグッドデザイン賞を受賞し、夜にはライトアップも行われたり、現代アートの会場になるなど、歴史的遺構に新しい命が吹き込まれています。

「佐渡観光PHOTO」

さて、北沢地区についてアツく語ってしまいましたが(笑)。今回ご紹介するのは北沢浮遊選鉱場のお隣、「無名異焼」の窯元「北沢窯」です!
無名異焼の原料となるのは、佐渡金銀山周辺で採れる「無名異」と呼ばれる赤褐色の土で、面白いことに、この赤土は中国では漢方薬として使われていたといわれています。

無名異焼というと、「あの茶色の湯呑みでしょう?」「修学旅行で焼き物を作った」という方もいらっしゃると思います。

©北沢窯

無名異焼は江戸時代後期の天保年間に始まった、佐渡固有の焼き物。現在、無名異焼は12の窯元で作られていますが、北沢という地で歴史を受け継いでいるのが「北沢窯」の其田弘輔さんです。今回は北沢窯の歴史と地域との関わり、其田さんの無名異焼にかける思いに迫ります!

INTERVIEW

簡単には就けない、窯元という仕事

取材にお邪魔したのは、北沢窯の店舗兼アトリエ。
こちらは4年前に改装し、無名異焼の商品を販売する他、職人が絵付けなどをしている様子も見学することができます。店内には北沢窯を紹介する動画が流れ、外国人観光客が足を止めて見入っていました。

「北沢窯は祖父が初代で、父は二代目になります。祖父の時代からこの場所で窯元を続けています。ちなみにですね、北沢浮遊選鉱場跡はその昔、ゴルフの打ちっぱなし場として地元の方々に使われていたんですよ(笑)」と其田さん。
今や貴重な産業遺構……、昔はそんな使われ方をしていたとは驚きました。

ところで、佐渡の無名異焼にはどんな特徴や魅力があるのでしょうか?其田さんに尋ねてみました。
「無名異焼の魅力は、なんといっても使い込むほどに増してくる味わい深さだと、私は思っています。酸化鉄をたくさん含む土のおかげで、使うたびに器の表面に朱色の艶(つや)が深まっていくんですよね。
それから、硬さも特徴の一つです。無名異の粒子は非常に細かいので、焼成時の収縮率が高くなるのですが、そのおかげでとても硬質な器に仕上がります」。
なるほど、土のチカラが最大限に生かされた焼き物なんですね。
土地が持つ力強さ、使い込んでいくと増していく魅力……それって、行けば行くほど魅力が深まっていく、私にとっての佐渡とまさに同じ!と感じました。

©北沢窯

さて、父・和彦さんと共に北沢窯を支える其田さん。もともとは、北沢窯を継ぐつもりはなかったそうです。
「父が窯から出てくると、服は土だらけ。座布団には赤い土が付いていて、風呂場にも土が溜まっている、そんな環境を見て育ったから、正直言ってこの仕事は嫌いだったんです(笑)」。

其田さんが高校卒業と共に島を離れ、新潟市の短大卒業後は県内の自動車関連の会社に就職。佐渡とは全く違う環境で働く中で、ふと家業の存在を心に留めた瞬間がありました。
「ある時に、父から電話があって“そろそろ後継ぎを探さないといけない”と言われたんです。その時は正直、ピンとこなかったのですが、同じ県内で働く友人にその話をしたら“陶芸家を継ぐなんてかっこいいじゃん”なんて言われて、初めて家業と無名異焼の価値に目を向けることになりました」。

佐渡島外の人たちが窯元という家業に抱く憧れや関心が、其田さんの意識を大きく変えることになりました。焼き物を作るという仕事は、一般的には窯元に弟子入りをして修業をするなど、そう簡単になれるものではないということですよね。
「そうなんです。それは周りからの言葉で気付かされましたね。自分はラッキーな存在かもしれない、それに焼き物に興味を持っている人って、意外といるんだと感じました。その時の経験がなければ、今の自分はないかもしれません」。

伝統工芸の品から、普段使いの日用品へ

其田さんが北沢窯へ入ったのは、26歳の時。二代目のもとで、職人としての生活が始まりました。マンツーマンで厳しい修業の始まり!かと思いきや……「うちの父は寛大といいますか(笑)。“ちょっといろんな窯元の先生方の作品を見せてもらってきたら”と提案してくれたんですよ」。おっと、スタートは少々ゆったりとしたペースだったのですか。

ちなみに、其田さんのお父様の和彦さん。もともと北沢窯は其田さんのお母様の実家であり、後継として和彦さんが入ったそうです。
「父は伝統的な技術を守りつつも、新しいことにチャレンジする柔軟な精神の持ち主でした。二代目として、無名異焼の定番でもあった湯飲みや急須といった製品だけでなく、マグカップやお皿などの製作にも取り組んでいたんです。
ある時、地元相川で父が仲良くさせてもらっていた焼き鳥店「金福(きんぷく)」のご主人に、無名異焼を“ぜひお店で扱ってもらえませんか”と声をかけさせてもらったそうです。それからはビールカップや皿を作ってみたりと、毎日使うような実用的なものを北沢窯でも作るようになっていきました」。

佐渡市相川の人気焼き鳥店「金福」で使われている角皿(©北沢窯)

職人になりたての頃は、オリジナリティーを出そうと作品に装飾を加えたり、器の表面を覆うガラス質の膜、釉薬(ゆうやく)を使って表現を模索したこともありました。
「正直、どれも相性が良くないと感じて、どう変えて行こうかと悩んでいた時期でもありました。その時に出会ったのが、藍九谷(あいくたに)職人として知られる山本長左(やまもとちょうざ)先生でした」。

山本さんの工房にお邪魔した際、その絵付けの美しさに見惚れて、思わず「先生のような素晴らしい作品が作りたいです!」と伝えたという其田さん。
「無名異焼についてもお話をしたら、山本先生は“土の性質からして釉薬をたっぷり塗ったものではなくて、素朴な焼き物なんでしょう。 綺麗な絵ではなくて その土に合った作品を作った方がいいですよ”とアドバイスしてくださったんです」。

©北沢窯

その頃から、其田さんは伝統工芸の品としてだけでなく、普段使いができる無名異焼を独自に追求。焼き物は使い込んでもらってこそ、価値があると考えるようになりました。現在も、一般消費者に向けた日常使いの皿やカップの販売はもちろん、飲食店に積極的に足を運んで無名異焼を提案し、無名異焼に新しい価値を生み出しています。

EPILOGUE

風土と歴史と共に育んできた「うつわ」

其田さんが無名異焼の職人として歩み始めて10年ほど。器を使い込むことで変わっていく、器の表情や手触りを楽しんでほしい……そんな思いを込めて、北沢窯のモットーを「育てる、うつわ」と掲げてきました。
「いやぁ、この10年は新しい挑戦の連続でしたよ」とほほ笑む其田さん。北沢窯の無名異焼を見てみると、無名異焼独特の赤茶色を残しながら、ポイントや差し色を加え、さまざまな形やデザインに挑戦しているのがうかがえますよね!

©北沢窯

「機能面やデザインに関しては、僕の妻の意見もとても参考にしているんです。女性が持つ「おしゃれ」や「かわいい」といった感覚と、台所に立って料理や器と向き合う視点から、ビジュアルと使い勝手の良さを両立できる無名異焼を捉えてくれています。そういった視点が、僕と父の作品作りにも良い影響を与えていると思います」。

さて、数ある挑戦の中でも北沢窯にとって大きな転機となったのが、佐渡島内外の飲食店への展開でした。強度が高く硬いこと、使い込んでいくと艶が出ること、熱伝導率が高く、器が温まりやすいといった特性があることで、料理との相性の良さが無名異焼の新たな強みにもなっています。

「ラ・プラージュ」のフランス料理と無名異焼のコラボレーション(©北沢窯)

「父とのご縁があった相川の「金福」さんだけでなく、佐渡・佐和田のフレンチレストラン「ラ・プラージュ」さん、「燕三条イタリアンBit」さんの東京の店舗など、飲食店さんに向けた提案が実を結んで、お店で使っていただく機会が増えてきました。無名異焼はとにかく強度があるため、ナイフやフォークを使っても大丈夫ですし、食洗機で洗っていただいてもOK。さまざまな料理に組み合わせていただいています。
職人として働き始めたばかりの頃は、新しいことばかりに目が行ってしまっていましたが、無名異焼本来の風合いや魅力に親しみを持っていただけることがうれしいですね」。
実際にインバウンドで訪れる外国人観光客の方にも、この土の風合いがとても評判だそうです。

「ちなみに、僕らが作る焼き物の歴史でいうと、先祖がいきなり焼き物を始めたわけではなかったんです。そのルーツは土と同様に佐渡金山だと伝えられていて、金鉱石を採掘して溶かす炉に空気を送るための送風管の土管のようなものを作っていたのが、僕ら職人の大先輩に当たる人たちだったといわれています。その土管が鉄で作られるようになるとその人たちの仕事はなくなって、金山坑内の土を使って焼き物を始めたのが原点と伝えられてきました」。
佐渡金山と無名異焼は思っている以上に密接!その背景には、佐渡という地域の文化と風土が積み重なってきた深い歴史があるのですね。

©北沢窯

「その地域文化を生かして、現代的なものや新しいものを作れるという点において、僕の仕事は本当に恵まれているんだなって感じますね。無名異焼はまさに地域が育んできたブランドでもありますから、その受け継がれてきた魅力を、自由な発想やアイデアを取り入れながら島内外へと発信していく。これが僕が佐渡に向けてできることだと思っています」。

お店の天井には無名異焼で作られた風鈴が飾られ、涼やかな音色を響かせています。

取材に訪れたのは小雨の平日。雨が降っているにもかかわらず、北沢窯と北沢浮遊選鉱場には国内外からの観光客が訪れていました。
佐渡で生まれた無名異焼という文化。目で見て、肌で感じて佐渡の歴史を体感してみてください!

其田弘輔さんの特別なこと、
北沢窯で取り組んでいること、
佐渡の歴史と風土と共に
地域で育んできた、
無名異焼というブランドへの思い、
たっぷりと教えていただきました!
ごっつぉさまでしたー!!

其田さんの#マイごっつぉ

ニューヨークでの体験

実は北沢窯に入った後に大病を患ったという其田さん。 「だいぶ長い間、入院生活を送っていました。その時に、病室でノートに“やってみたいこと”を書いたんです。その中の一つが“ニューヨークに行ってみたい”という願望だったんです」。 病気が治った後、実際にニューヨークを訪れて、最も印象的だったのがブロードウェイミュージカルで見た「CHICAGO」だったといいます。 「CHICAGOは以前、映画で見たことがありました。音楽やストーリーも魅力的でしたが、CHICAGOのようにアメリカではもはや当たり前のように親しまれているコンテンツでも、僕らから見ればやっぱり新鮮。逆にアメリカから見れば、佐渡も価値ある場所なのだろうと考えるようになりました」。 普段何気なく触れることの多い、佐渡伝統芸能や文化、工芸。佐渡には世界に誇るたくさんの伝統があります。 「外の価値観を知ることで、改めて自分の地元の良さが分かる。CHICAGOを観てそう感じたのは、自分にとってすごく大きな経験でした。だからこそ、無名異焼を通して佐渡の魅力を発信していくことが、今の自分の使命だと思っているんです」。 其田さんの気概を感じるエピソードです。其田さん、ありがとうございました!

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住所佐渡市相川北沢町3-1
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アクセス佐渡汽船両津港から車で約50分
営業時間9:00〜17:00
定休日なし(冬季は土日祝日休み)
電話番号0259-74-3280
HPhttps://www.kitazawagama.com/
SNSInstagram: https://www.instagram.com/kitazawagama/
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