
加賀さん母娘の自己紹介
加賀 米子(かが よねこ)さん(写真右)
昭和20年代に祖父が創業した「まるか旅館」の3代目です。旅館ではお客様のお出迎えから料理、サービスとやっております。次女の実穂と一緒にお食事処を始めて、バタバタしていますが楽しい毎日です。
加賀 実穂(かが みほ)さん(写真左)
佐渡・両津で生まれ育って、高校卒業後に東京で学生をしていました。24歳で戻ってきたのは、母の力になりたいと思ったから。旅館では送迎を担当していて、両津港までのお客さんとの会話が楽しいです。昨年、念願だった飲食店オープンを実現しました。大好きな両津の街のために頑張っています!
PROLOGUE
佐渡の玄関口として、多くの観光客や帰省客を迎える佐渡市・両津港(りょうつこう)。
新潟港からは、佐渡汽船のカーフェリーで約2時間半、ジェットフォイルなら約1時間で両津港に到着します。佐渡への船旅は、島が少しずつ近付いてくるのが実感できて、いつもワクワクしてしまいます。

両津は佐渡を代表する港町でもあり、安政5年の日米修好通商条約で新潟港の補助港となった歴史ある街です。かつては佐渡島で唯一の市・両津市でもあり、島内最多の人口を擁していたともいわれています。
両津港から徒歩10分ほどの場所には、両津夷(えびす)商店街があるのは、ご存知でしょうか?この商店街は両津を代表する商店街で、雑貨屋に食料品店、書店やお菓子屋などが営業しています。
商店街のアーケードの下は、近くの小学校の子どもたちがおしゃべりをしながら下校する姿も。地元の方々からは「シャッターが閉まっている」「昔よりもにぎわいがなくなった」といったちょっぴり寂しそうな声も聞かれましたが、実際に歩いてみると、今も商店街が暮らしに根付いている様子がうかがえました。

さて、その両津の商店街、今年1月に一つのお店が誕生しました。その名も「お食事処満(ま)るか」。空き店舗になっていた古い建物をリノベーションして開いたお食事処で、両津出身の元気な母娘二人で営んでいるそうです。

「佐渡島の金山」世界文化遺産登録から1年が過ぎた今、「佐渡を、両津の街を、もっと元気にしたい!!」と奮闘する「お食事処満るか」の加賀米子さん、実穂さん母娘にインタビューしてきました。
INTERVIEW
70年以上の歴史を誇る老舗旅館の挑戦
現在の佐渡市は、1市7町2村が合併し、2004年(平成16年)3月1日に誕生しました。
両津港を中心とした両津エリアは、佐渡島の東部に位置し、今も昔も島の玄関口としての役割を担う地域。「佐渡國鬼太鼓どっとこむ」や「両津川開き七夕まつり」など、島内外から参加者が集うイベントも開催され、年間を通じて多くの観光客が訪れています。

そんな両津の街で、新しくお食事処をオープンした加賀さん母娘。飲食店ということは、もともとお二人ともこういったお仕事をされていたのでしょうか?
「いえいえ。実を言うと、私たちはまるか旅館という宿を長年やっているんです。曾祖父が昭和20年頃に創業しまして、私が4代目になります。旅館はもう70年以上やらせていただいているんです」と話すのは娘の実穂さん。

なるほど!店名の「満るか」は、まるか旅館から来ていたんですね〜。
ちなみに、お二人が営むまるか旅館は、両津港から徒歩12分ほどの場所にあります。今も昔も家族経営で、特徴的なのは昔から「お一人様歓迎」のお宿ということだとか。
「私の父が『一人のお客様でも泊めよう』という考えを持っていまして、それをずっとキャッチフレーズにやってきました。今はいろんなホテルや旅館でもお一人様でも泊まることができるようですが、昔は一人だと宿泊を断られることもあったんですよね。そんな時代だった頃から、うちには一人旅で佐渡に来てくださったお客様や、お仕事で宿泊される方も多かったです」と米子さんは懐かしそうに振り返ります。

ちなみに、まるか旅館は前方に加茂湖を望み、後ろに両津湾を配する絶好の立地!隣にある両津の市場から仕入れる新鮮な魚介を使った料理も、昔から評判だったそうです。
商店街に飲食店がない!?
それにしても、旅館を経営しながら飲食店も営業する……しかも、母娘二人でとなると、なかなか大変なことだと思うのですが、なぜお二人は両津の商店街でお店を開こうと思ったのでしょうか?
「理由の一つは、両津ににぎわいがなくなってきたことですね。商店街にはシャッターを下ろした店舗が増えて、昔は数十軒あった旅館も今では数軒を残すのみです。私が幼かった昭和30年代の両津のにぎわいは、今とは比べ物にならないほどでした」と少し寂しそうに語る米子さん。

さらにもう一つの理由がありました。
「旅館に宿泊されるお客様に『どこか食べに行くところありますか?』と聞かれても、商店街で夜に営業しているお店は限られていることです。両津夷商店街に飲食店が少なくなった影響で、お客様にお店を紹介することができなくて、困っていたというのも大きいですね」とお二人は顔を見合わせて語ります。
まるか旅館は素泊まりのお客様も多く、お二人は観光客の不便さを肌で感じていたのです。
実をいうと、現在、両津夷商店街で飲食店を営んでいるのは、お食事処満るかだけ。少し離れた場所に蕎麦屋が1軒あるものの、商店街で食事ができる場所として、お食事処満るかはかなり貴重な存在というわけです。
ちなみに居酒屋さんやスナックはありますが、お酒を飲まないで食事を楽しめるお店が少ないのだそうです。
「旅館の料理は、どうしてもお客様の到着時間に合わせる必要があって、提供できる時間帯が限られてしまいますよね。飲食店なら時間を気にせず、もっと多くの方に気軽に立ち寄っていただけるのではないかと考えました」と実穂さん。

旅館業と並行して飲食店ができそうな物件探しを進めながら、偶然出会ったというのがこの場所。かつては雑貨などを扱う雑貨屋の店舗だったそうで、間口の広い長屋で土蔵まである立派な造りで「いやぁ、工事が大変でした(笑)。まだ未完成の部分もあります」と実穂さん。
リノベーションする際には、古い建物の良さを残しつつ、現代的な使いやすさを加えることを目指したそうです。

席は24席で、20人程度の団体客も受け入れや貸し切り対応も可能。「両津港から歩いて行ける範囲でランチがしたい」「船の待ち時間に食事がしたい」「仕事終わりにさくっと食べて帰りたい」「みんなでわいわい食べたい」……そんなあらゆる食事のニーズを、お食事処満るかは叶えてくれるというわけですね!
ふらっと気軽に集える場を目指して
旅館業に飲食業に大忙しの加賀さん母娘ですが、お店の営業は旅館業との両立を考えた独自の形態で切り盛りしています。
現在は、月・火・水曜は11時半から14時までのランチ営業と旅館営業を並行し、木・金・土曜は18時から21時の夜営業で旅館は休業、日曜は食事処が休みで旅館のみ営業という変則スタイルです。
「とりあえず、今はお食事処満るかの方に慣れようということで、この営業形態にしています。こっちが終わったらあっちへ移動して……と目まぐるしい日もありますが(笑)。厨房などは動線に慣れるまでがなかなか大変です」と実穂さん。大変な中でも、宿泊業とは違った飲食店の仕事の楽しさを日々実感しているそうです。

「料理でなるべく佐渡の素材を使うのは、まるか旅館も一緒です。基本姿勢は一貫しています。奇をてらったものではなく、毎日でも食べられるような、飽きのこない家庭料理ですね。旅館に泊まらない人たちにも『まるかの味を知ってほしい』という思いもあります」と米子さんは笑顔で話します。

親戚が作る野菜から地元の魚介類、旅館でも使っている佐渡産コシヒカリなど、佐渡の山海の幸の素材を活かし、定食系を中心にハンバーグなどの洋風料理、新鮮な刺身をいただけるメニューなどを用意。幅広い年齢層が利用しやすいメニューが多いのも、嬉しいポイントです。

「家族連れのお客様も利用していただけるように、お子さんが食べられるようなメニューも考えました。旅館経営で培った料理の技術と、宴会などで腕を磨いた経験が、食事処でも活かされているかもしれませんね」と実穂さん。客層は地元の人が大半とのことで、近隣に住む高齢のお客さんもシルバーカーを押して毎日のように来てくれるそうです。それは嬉しいですね〜!
一方で、観光客にはまだそこまで知られていないのが現状という課題があります。
「近所のおばあちゃんたちが待ち合わせしてお食事をしてくれたり、ふらっと訪ねてきてくれたりすることもあります。でも、嬉しい反面、地元の方が集える場所が少なくなったということだとも思うんです。だからこそ、この場所は観光客だけでなく、地元の皆さんが気軽に集える、コミュニティスペースのような場になっていけたら」と実穂さんは力強く語ります。
次回は、加賀さん母娘が振り返る両津の街のこと、街のにぎわいを取り戻すためにお二人が考えていることなど、詳しくお聞きします。お楽しみに!