
歸山 芳文 (かえりやま よしふみ)さんの自己紹介
新潟県三条市生まれ。服飾系の専門学校を卒業後、出版社勤務などを経て2021年9月に燕市宮町商店街にカフェ併設のフォトスタジオ「写真と珈琲 SIIKS(シイクス)」をオープンしました。「家族のことが大好きになる」をコンセプトに、写真と想い出を残すお手伝いをしています。その他、人材育成とまちの活性化に取り組む任意団体「つばめまんなか商店街」の座長も務め、多彩な活動を通じてまちづくりのお手伝いもしています。
INTERVIEW
迷いの中で磨かれた多彩な力

新潟県燕市の宮町(みやちょう)商店街でフォトスタジオと併設のカフェ「写真と珈琲 SIIKS(シイクス)」を営む歸山 芳文(かえりやま よしふみ)さん。その活躍はカメラマンやカフェオーナーという枠にとどまらず、デザイナー、ライター、イベンターとして一人で何役もこなすマルチクリエイターです。しかし歸山さんは長い間、自分の進むべき道を模索し続けていました。
ファッションが好きで服飾系の専門学校に進学した歸山さんは、服の魅力を発信することに興味を持ち、雑誌編集の道へ憧れを抱くようになりました。専門学校を卒業後、通信講座でグラフィックデザインや写真の編集などを学びながら、出版社で働き始めることに。しかし、華やかに見えた雑誌編集の世界は、想像以上に過酷だったそうです。

「一日に26時間ぐらい働いていたんじゃないかと思うぐらい、働き詰めの日々でした。何カ月分もの仕事が並行して進んでいて、一冊の雑誌が完成しても喜びを味わう間もなくまた次の仕事に追われるんです。達成感がずっとない状態で……」と当時を振り返る歸山さん。30歳を手前に、一度立ち止まることを決意しました。
雑誌編集の仕事を辞めて地元に戻った歸山さんは、次にやりたいことを見つけられないまま、昼はトラック運転手、夜はイタリアンバルで働き始めました。さらにグラフィックデザインの副業も手がけ、まさに「三足のわらじ」を履く生活を6年間続けたのです。
「昼夜働きに出て、仕事が休みの日に知り合いのお店のチラシを作ったり、年賀状を作ったりしていました。なんだかんだ出版社時代と同様に働き詰めでしたが、気持ち的には安定していましたね。とにかく自分ができることをやろうと必死でした」と語るように、多様な経験を積み重ねていきます。しかし、この一見迷走に見える時期こそが、後の人生を決定づける重要な土台作りの期間だったのです。
人を喜ばせることが人生の目的に

人生の大きな節目は、目的と手段を明確に分けて考えた瞬間でした。
「それまで目的がないままに”何をやるか”という手段ばかりを考えていたんです。でも、自分が手掛けたことで相手に喜んだり笑ったりしてもらえることが自分の人生の目的だな、とあるとき腑に落ちて。だから手段はその都度でいいと思えた時、とても気持ちが楽になりました」
この気づきが歸山さんの人生哲学を根本から変えることに。写真を撮って家族が笑顔になる、料理を作って美味しいと言ってもらえる、雑誌を作って読者が喜んでくれる──。自分ができることで相手を喜ばせたいと思った時、頭に浮かんだのは写真とデザインでした。
そして、この2つの路線で進んでいきたいと考えた時、歸山さんに素敵な出会いが訪れます。

「カメラは出版社時代に先輩に教わりながら撮影した経験があったものの、ずっと独学でやっていました。しっかり学ぶために働けるスタジオを探していたところ、知り合いの紹介で新潟市のフォトグラファーさんの下で業務委託として働かせてもらえることになったんです。こちらでは撮影の技術だけでなく、心構えや人としてのあり方など大切なことも学ばせてもらいました」
その後、歸山さんは県央エリアを中心に活動を広げ実績を積み重ねる中、2020年のコロナ禍が思わぬ追い風に。

コロナ禍で家族写真の撮影は激減する一方、地元企業のホームページ改修や動画制作の需要は急増したのです。対面での営業が難しい分、会社紹介や社長インタビュー動画など、オンライン上の営業ツールを作成する企業が増え、依頼が殺到。3足のわらじを履いていた時期に、グラフィックデザインの仕事を少しずつ始め、さまざまな人との出会いを通じて築いてきた地域とのつながりが、ついに花開いた瞬間でした。
それを機に2020年6月、個人事業主として独立を果たし、2021年9月、燕市の商店街に念願の自身のスタジオ「SIIKS」をオープンしました。
「人を喜ばせることのすばらしさを、これまでに出会った人たちから教わってきました。バイト時代の先輩だったり、フォトグラファーの師匠だったり、人を思いやる心を大切にする先輩たちの姿勢が私の原点になっています」と語る歸山さん。ウィンウィンな関係性を築きながら、相手を喜ばせることで自分も幸せになる──そんな歸山さんならではの哲学が、今日の「SIIKS」の活動に息づいています。
EPILOGUE
輝く大人の姿で若者に希望を

写真下/ 国際交流を目的とした体験型イベント「ジャパニーズカルチャーフェスティバル」
※ご提供画像
歸山さんのもう一つの顔が、「つばめまんなか商店街」の座長としての活動です。「つばめまんなか商店街」は2021年に設立され、宮町商店街を拠点に人材育成とまちの活性化に取り組んでいます。歸山さんもメンバーの一員として会議に参加していた中で、「ぜひ座長をやってほしい」と声がかかり、2022年から引き受けています。
燕市の出身ではない歸山さんですが、まちの活性化を目指す団体のトップである座長を務めることについて、地域への思いをこう語ります。

「縁あってこの商店街にスタジオを構えていますが、いわゆる“地元愛”だけで活動しているわけではありません。地域での取り組みはボランティア的に行うのではなく、自分の仕事の延長線上にあるものとして考えています。たとえば『つばめまんなか商店街』では、チラシ作成やイベント企画などをお仕事として受注しながら、地域の役に立つ形を目指しています。そうすることで、まちづくりも無理なく続けていけるのではないかと思うんです」
仕事と地域活動を両立させることで、歸山さん自身も、商店街も、お互いにとって良い関係を築けるよう努めています。そのうえで、特に意識しているのは若い世代へのメッセージです。

「中高生や大学生たちに、私たちが前向きに働く姿を見せたいんです。このまちで働く大人が疲弊していては、将来に憧れを持てないですよね。だからこそ、しっかり仕事をして心も生活も豊かにしていくことが大切だと思っています。キラキラと輝いて働く姿を見せることで、『自分もこのまちで働きたい』と感じてもらえるんじゃないでしょうか」
そう語る歸山さんの表情からは、単なる地域貢献ではなく、次世代のロールモデルになろうとする強い意志が伝わってきます。
ボランティア頼みのまちづくりではなく、事業者一人ひとりが自分の仕事を通して地域を元気にしていく。歸山さんの活動は、地方都市の商店街再生に新しい可能性を示しているのかもしれません。
地域の未来を創るのは、特別な力ではなく「日々の仕事を楽しみ、人を喜ばせる姿」だと歸山さんは教えてくれます。写真と珈琲、そして商店街の活動を通じて、次世代に希望と誇りをつなぐその挑戦は、燕の街に新たな輝きをもたらし続けています。
